1547年(天文16年)1月中旬、祝の宴
武蔵国守護府の開設を祝う宴が始まります。
立花家の自慢は産地直送の海の幸が集まり、極上の魚介類に恵まれている事でした。
1547年(天文16年)1月中旬
武蔵国守護府、開設記念式典の祝いの宴に出された料理は蛸の切り身に青菜と蕪の和え物、鯛の焼き物、焼き蛤、焼き鮑、焼きサザエ、伊勢海老焼き、キス、穴子に山菜の天ぷら、スズキ、ヒラメ、カワハギ、マダイ、カサゴの刺身の盛り合わせ、鴨肉、唐揚げ、豚の角煮、卵焼き、海鮮茶碗蒸し、海鮮炊き込みご飯、漬物、お吸い物、最後に甘味物の栗のモンブラン、柿の焼酎漬け等の献立が用意されていました。
祝いの宴の席は北側の上座から勅使、万里小路頼房を立花義秀と朝廷から正三位神祇大伯の官位を授かった猿渡盛胤の御老公が両隣に座りました。
その周りに武田晴信、立花将広、里見義尭、立花義國、北条氏康、松千代、北条幻庵が並び、立花家の親族や同盟大名家の諸侯がその周囲に席を並べ、その先の中段に招待客、下段に立花家及び同盟大名家の重役が席に並びました。
立花義秀が200名余りの来賓に挨拶の為に立ち上がりました。
「それでは皆様にご挨拶申し上げます!
本日は武蔵国守護府の開設記念式典にお集まり頂き、誠に感謝致します!
我らは五年前に古河公方家、前橋上杉家と手切れとなり、数々の侵略に瀕しましたが、我が立花家と手を結び、共に戦って頂いた同盟大名家の諸侯に支えられて侵略者を撃退するに至りました。
昨年は朝廷から招待されて上洛の夢が叶い、武蔵国守護の職務と従三位左近衛大将叙任と武蔵国守護府開設のお許しを賜わりました。
それらは全て立花家を支えて頂いた、同盟大名家の皆様、大國魂神社及び八幡神社系列の関係者の皆様、仏教各宗派の皆様、府中の町の皆様や、立花家を支える為に携わった全ての方々のご協力があっての事と感謝申し上げます!本日は皆様の為に感謝の宴をご用意いたしましたので立花家自慢の酒と料理をお楽しみ下さい!」
来賓に頭を下げる義秀に拍手が沸きました。
続いて大國魂神社、先代大宮司、猿渡盛胤の御老公が乾杯の声を託されました。
「本日ご臨席の皆様に申し上げます!
昨年、立花家と同盟大名家の諸侯は上洛の際に伊勢神宮の神様、熱田神宮の神様に参拝為されて、本日も大國魂神社の大神様に参拝を為されました。
伊勢神宮と熱田神宮の神様は天照大御神様、大國魂神社の神様は出雲大社と同じ神様、大國魂の大神様にございます。本日開設となりました武蔵国守護府は日本の国の三つの神社の最高神に御加護を授かり、本日は祝意の晴天と相成りました!
武蔵国守護府の門出を祝して乾杯!」
「乾杯!」
招待された200名余が祝いの声を上げて宴が始まりました。会場には青梅、福生、秩父、八王子の酒蔵から選ばれた清酒に加えて府中、小金井、国分寺の酒蔵から選ばれた焼酎が用意され、常温と熱燗を客の好みに併せて振る舞われました。
客席の傍には侍女達が付き添い、配膳と料理の説明や、お酌をしたり、話し相手になり、おもてなしを務めました。
今回の宴の席は上座から五名ずつ対面で座席を並べ、一人ずつに侍女を付けて世話をさせています。
立花義秀の正面に北条氏康、左側に武田晴信、その近くには立花義國、松千代、立花将広、北条幻庵と豪華な顔ぶれが揃いました。
話題は前橋上杉家に侵攻された滝山城の攻防戦から、立花義國、立花将広が北条氏康、北条幻庵と戦った淵野辺、座間城の戦いなど、立花家が存亡の危機を乗り越えた話題に集中しました。
当時の小田原北条家は立花家と敵対しており、負けたら本拠地府中城が狙われる危機にあり、攻防戦の駆け引きや、裏話等が盛り上がりました。
松千代の左には北条氏康、正面に武田晴信、右に北条氏康の軍師、北条幻庵が右隣に座っています。
目の前の武田晴信が松千代に声を掛けました。
「松千代殿、其方は神様のお告げで立花家を何度も救った神童と聞くが、軍勢の指揮も出来るらしいのぉ?」
松千代は目の前の武田晴信に声を掛けられてドキドキしていますが、平静を装いました。
「武田様、お告げを伝えた大人達の機転が無ければ立花家は負けていました。自分は神様の言葉を伝えただけで、軍勢の指揮は出来ません。神童などと噂が大袈裟に伝わっただけにございます!」
松千代は謙虚に答えました。
「ほぉ、松千代殿は数え7歳にして大人びた言葉を使われて賢い様だな?しかし、立花義秀殿が古河公方の軍勢に包囲された松戸城へ救援に現れた時は2万の軍勢を率いていたとか?
更には川越城の攻防戦にて筆頭宿老、鹿島政家殿が敵に包囲された折には僅か300の騎兵を率いて駆け付けて救ったなどと聞いておりますが、本当でござるかな?」
「はい、松戸の時も川越の時も神様の言葉を伝えた重臣達の機転の賜物にございますが、噂に尾ひれがついて大袈裟になっております。
戦場は怖いので、松千代は常に安全な場所に居ましたし、危険な最前線には勇者達が奮戦しておりました!」
「ほぉ、噂が大きくなり過ぎましたか?
それにしても、重臣達を説得して戦場に駆けつけ、立花家の危機を救った事は間違い無い事!
立花様(立花義秀)は麒麟児を持たれましたな?」
武田晴信は松千代が数え年7歳にして大人びた言葉を使う事に驚きました。
そこで北条氏康が松千代に声を掛けました。
「松千代殿、其方が考えた男女の着物や衣装、陣羽織等が評判と聞きましたが、あれはどの様に作ってれておられるのかな?」
「はい、かっこいい衣装や可愛い衣装、着てみたい着物や綺麗な女の人に着てほしい絵を描いてみたら、大人達が絵柄を参考に作ってくれました。
意外にも評判が良くて、たくさん作る事になりました!」
「おぉ、其方が絵柄を描くのか?
素晴らしい才能であるのぉ?」
「北条様、違います。作り手の方々が子供の絵柄を参考に仕上げる職人の皆さんの技術や才能が素晴らしいから売れているのです!」
「なんと、謙虚である事!
先般、上洛為された時に五摂家筆頭、近衛稙家様に惚れ込まれたのも、松千代殿の才気に惚れて近衛家の姫君を与えると申されました。
これは将来、嫁入りの申し込みが増えましょう。
北条家からも側室で宜しいので姫を貰って頂きたい程にございます!」
北条幻庵が当主、北条氏康の叔父であり、軍師としての立場から半分本気の冗談を明かしました。
「待たれよ!北条家が側室を出されるなら、武田家からも松千代殿に姫を貰って頂こうかな?」
武田晴信が松千代と立花義秀に笑顔を向けました。
「ぶははは!松千代はモテモテじゃな?
ならば同盟大名家の九家全てから松千代に姫君を頂きましょうかな?!」
立花義秀が半分冗談、半分本気の言葉を放ち、その場に笑いが巻き起こりました。
「おぉ?それならば、松千代!猿渡家からも姫を貰ってくれなきゃダメだぞ!」
大國魂神社の先代大宮司、猿渡盛胤の御老公までが戯けた冗談を放ち、周囲が笑顔に包まれました。
「はい!松千代は断らずに皆さんのお姫様を大事に致しまーす!その代わりに、松千代には何時も身の回りに居てくれて守ってくれている護衛の侍女達、真樹、美貴、楓、紅、茜の五名もお嫁さんにしたいので宜しくお願いしまーす!」
松千代が子供らしく満面の笑みで贅沢な申し入れをした事で会場に和やかな雰囲気が行き渡りました。
松千代の護衛を託された侍女達五名は松千代の言葉に思わず笑顔と涙が溢れました。
松千代は半分は冗談、半分は本気で宣言しながら、祖父、立花義秀に対してニヤリと視線を交わします。
大人の頭脳を持ちながら、子どもらしい演技を交えてその場を盛り上げました。
祝の宴は和やかに笑い声が続く楽しい時が流れました。
松千代には元服したら近衛稙家の姫君が嫁入りする約束になっていました。
将来、立花家が天下を統一する程の存在になれば同盟大名家と猿渡家から側室を受け入れる可能性は十分に考えられます。
侍女達から側室になる事もあるかも?
だとしたら、正室に加えて側室15名?
羨ましい環境になりそうです。




