1546年(天文15年)12月下旬、万里小路頼房、府中の市場視察へ!
万里小路頼房は都と違う立花家の食文化に驚きます。
1546年(天文15年)12月下旬
12月27日夕刻より、勅使、万里小路頼房を歓迎する宴が開かれました。
立花家が用意した酒や食材は青梅の清酒や焼酎、横浜湊に水揚げされたブリ、タチウオ、スズキ、マグロ、カツオ等の刺身の盛り合わせ、キスやナス、椎茸の天ぷら、豚の角煮、鹿肉のステーキ、地鶏と野菜の旨煮、鶏の唐揚げ、豚汁等が振る舞われました。
都に住む勅使と随行員達は新鮮な刺身に驚きました。
海から離れて暮らしている彼らには食べる機会がありません。醤油が普及し始めたばかりで高価な為に醤油を知らぬ事が当たり前の状況にありました。
更に山葵を食べる習慣も無く、万里小路頼房と随行員達は立花家の食文化に驚きました。
「旨いぞ?立花殿!立花家はいつもこんな旨い物を食べて居るのか?」
万里小路頼房が疑問を呟きます。
「府中の町には毎日、横浜、六浦、品川の湊の市場から早朝に採れた魚や海産物を馬車で輸送しています。
府中の町だけでは無く、同盟大名家の町にも届けられております」
立花義秀が自慢気に答えます。
「なんと?海から府中迄10里はある筈、新鮮な魚が届くとは驚いた!」
「横浜、六浦、品川の湊からの街道を整備して馬車が通行出来る道を確保しています。
多数の馬車が輸送して立花家や同盟大名家の領民も新鮮な海産物を楽しんでおります」
「それは凄い!明日にでも町を見物に出るぞ!」
「畏まりました!明日は府中の町をご覧下さい。
加賀美利久に命じて案内を致しましょう!」
「ほほほ!それは楽しみだ!頼みましたぞ!」
勅使、万里小路頼房は賑やかな宴を堪能しました。
翌28日、気心が知れた加賀美利久を護衛に付けて随行員5名を連れて府中の町をお忍びで視察に出かけました。
府中の町は大國魂神社を中心に町割が決められています。大國魂神社の正門から参道が北に伸びています。源義家公が奥州征伐の戦勝後に寄進した欅並木を植えて以来、参道には欅の大木が植えられ、その周囲に商家が並び、大きな市場が常設されています。
「加賀美殿、見事な欅の大木だな?源義家公の寄進だとか?」
「はい、凡そ480年前に奥州征伐に向かう源義家公が大國魂神社に戦勝祈願をなされて、勝利した故にお礼に欅の苗木を多数寄進なされました!」
「ほほほ、源氏の棟梁、源義家公と大國魂神社の大宮司、猿渡一族の娘との間に産まれた男児が立花家の始祖となられたのじゃな?」
「はい、それ故に大國魂神社と大宮司、猿渡家と立花家は強く結ばれております!」
「ほほほ!立花家は源義家公の三男が始祖で、足利将軍家の始祖は源義家公の孫だとか?
立花家の格式が高い事が足利将軍家に嫉妬されて嫌われた原因であろうな?」
「はい、その通りに御座います。
更には鎌倉幕府、源頼朝公にも家格の高さを嫌われ、領地の大半を取られましたが、鎌倉幕府を討伐した折に奪い返しております!」
「立花家は波瀾万丈であるが、この先が楽しみであるぞ!足利将軍家には期待が出来ぬからな?」
含み笑いの万里小路頼房は立花家に期待を寄せていました。
加賀美利久に案内されて万里小路頼房は市場の中に入り、魚介類を扱う鮮魚店を訪ねました。
「万里小路様、早朝の横浜湊、六浦湊、品川湊から出荷して昼頃に府中の市場に届けられます。
大半の魚は漁師が生き締めしており、到着した魚は内臓を処理して血抜きを済ませて居る為に鮮度が保たれております!」
「ほぉ!見事だ!目玉が生き生きしておるぞ!」
万里小路頼房は新鮮な魚の姿に喜びました。
「こちらにはアサリ、サザエ、牡蠣、雲丹などが並んでおります!」
「雲丹?栗みたいじゃないか?」
万里小路頼房は初めて見た雲丹の姿に驚き、中身を見せられても興味を示しませんでしたが、殻を割って醤油を付けた雲丹をひとくち食べると「なんだ?!旨いぞ!」
頼房が初めて食べる味に驚きました。
次に生牡蠣に醤油を垂らして頼房に試食させると、さらに驚きました。
「旨い!旨いぞ!昨夜は刺身を堪能したが、雲丹や牡蠣等、立花家の食材はこんなに旨いのか?!」
「はい、立花家は美食の家柄にございます!」
「ほぉ!旨い物を領民も普段から食べて居るのか?」
「はい、領民も普段から食べております」
「驚いたぞ、都では出会わぬ味だぞ!」
頼房は新鮮な魚介類を楽しそうに眺めました。
そして鯨肉を見つけると「鯨も食べるのか?」
「はい、房総半島に鯨が参りますので、肉の塊に小分けして届きます!」
頼房は鯨肉の煮付けを食して「これも旨いぞ!」
更には伊勢海老を見つけて喜びました。
「伊勢海老じゃないか?献上品で見た事があるが、食べてみたいぞ!」
「それでは直ぐに用意いたします!」
都の貴族も伊勢海老は滅多に食べられない食材でした。加賀美利久は伊勢海老の刺身と醤油と油で炒めた焼き伊勢海老を頼房に食べさせました。
「何と、旨い!こんなに旨いのか?!」
頼房と随行員達に伊勢海老が振る舞われ、皆笑顔で立花家の食文化に驚きました。
更には鰻の蒲焼、焼き穴子、アジの揚げ物、を堪能すると鮮魚店を離れて野菜等の食材を視察した先に屋台街が現れました。
ラーメン、餃子、焼売、炒飯、焼きそば、焼きうどん、たこ焼き、うどん、蕎麦、カツ丼、お好み焼き、
串カツ、焼鳥、小籠包、肉饅など、多数の屋台が並んでいます。
頼房と随行員達は食べたい物が多くて悩みました。
「おぉ!これを全部食べ切るまで府中に滞在しようかのぉ、それまで都には帰らぬぞ!」
頼房が半分本気で呟きました。
「加賀美殿、立花家が管理している帝、近衛家、九条家の荘園の監査役に派遣された役人達が帰国せず、任期を延長して帰国しない理由が理解出来ましたぞ!
都では手頃な価格でこんなに旨い食材は無いから、立花家の食文化に嵌ったら抜けられぬのだ!」
「はい、任期を延長する方々が多いと聞いております」
「羨ましいな、荘園の役人が単身赴任だと世話役の女中が用意されると聞いたが?」
「はい、単身の方々には職員寮が用意され、朝、昼、夜の三食の食事付きで、洗濯、部屋の掃除をする女性が世話係として支援致します」
「こちらで嫁を迎えた役人が居ると聞いたが?」
「はい、自由な恋愛もありますが、見合いをなされて娶られる方々もおられます」
「ほぉ、妻帯してる者が単身赴任して来る事もあろうが、妻帯してても見合いして娶る者は居るかのぉ?」
「はい、秘密に娶る方々が居ると聞き及びます。
高貴な方々が側室が居ても不思議ではありません」
「ほぉ、羨ましいな?」
「万里小路様?興味がありそうですね?」
「ほほほ!我が家では妻が怖くて無理だからな!
余りにも羨ましくて聞いてしまった!」
「はっ、承知いたしました。
しかし、御用命あらば、手配いたしますが...」
「だめだ!同行してる者から妻に密告されたらひどい目に遭うからな、遠慮する!」
万里小路頼房は恐妻家で、二人の話しを聞いていた随行員達が忍び笑いをしていました。
「万里小路様、任期を終えて永住する方もおられます。永住を希望なさると立花家の支援がございまして、漢文や古典や雅楽、礼儀作法や書道、俳句や和歌、短歌等の教養を生かして教師として収入が保証され、住居も用意致します。
退任なされてから若い奥様を娶られる方々も多数と聞いております。
万里小路様なら私が責任を持ってお世話致しますが、如何でございましょう?」
「ほほほ!うむうむ、加賀美殿、夢の話として聞いて置くぞ、皆の者!話を聞いただけだからな!
我が家の妻に密告するなよ!」
随行員5名は笑いを堪えて頷きました。
年末を迎えた府中の市場は活気に溢れています。
加賀美利久は屋台からラーメン、餃子、たこ焼き、串カツ、焼鳥、炒飯等を食卓の上に少量ずつ取り寄せて、万里小路頼房と随行員に振る舞いました。
既に満腹に近いのに、余りに旨い食材に彼らは喜んで貪りました。
「もう、無理だ!旨すぎる!喰い過ぎたぞ!」
万里小路頼房の市場視察は満腹になり、府中城に戻る事になりました。
「加賀美殿、明日も案内を頼むぞ!」
万里小路頼房は腹を撫でながら明日も立花家の食文化を探るつもりでした。
「ほほほ!旨すぎて太りそうだな?」
自虐的に笑います。
「明日も楽しみだな?...」
府中の町の活気に万里小路頼房は興味を抱きました。
年末の府中の町は万里小路頼房を虜にした様です。
万里小路頼房は1月15日の武蔵国守護府開設記念式典に出席した後に帰国を予定しています。




