1546年(天文15年)12月上旬、上洛の成果
府中城に戻り、上洛の旅が終わりました。
上洛した頃は秋の紅葉の季節でしたが、帰国した今は初冬から本格的な冬が迫ります。
1546年(天文15年)12月上旬
府中城に凱旋した立花義秀、松千代、招待された同盟大名家の諸将はようやく落ち着く事になりました。
府中城の留守中は立花家の嫡男、立花義國と宿老の瀬沼寿勝が政務、施政を任されていました。
「父上!ご無事でなりよりに御座います!
松千代!お帰り!」
義國が出迎えの挨拶をしました。
「おぉ!やっと帰れた!
上洛の旅は波乱の連続でな、上方では二度も戦をしてなぁ、敵を蹴散らしで参ったぞ!」
義秀が大きな声で答えます。
松千代は「只今戻りました!」と父、義國にペコリと頭を下げると義國が松千代の頭を撫でました。
「父上!浅香山宿営地と古渡城にて勝利したと報告が入りました!武蔵守護職の叙任、官位昇格を合わせて御目出度うございます!」
「ぶははは!上洛の最中に戦になるとは思わなかったが、上洛に浮かれていたら上方で散っていたに違い無い!完全武装の装備で上洛して正解だったぞ!
疲れた!風呂に入るぞ!」
立花家、同盟大名家の諸将は府中城自慢の露天風呂に浸かり、疲れた身体を癒しました。
その夜の宴は義秀の希望で 質素に豆腐と鴨肉、野菜を入れた芹鍋になりました。
上洛中の豪華な食事三昧で、あっさりした食事か恋しくなっており、お酒も控えめに過ごして早めに宴を閉めて疲れを癒す為に早く寝る事になりました。
12月4日、筆頭宿老、鹿島政家から留守居役の立花義國、宿老、瀬沼寿勝に上洛の成果が知らされました。
朝廷の仲介で幕府と和解した事により、朝廷が発案した立花義秀の武蔵守護叙任が幕府側にも公式に認められ、古河公方家と関東管領、前橋上杉家の立場が悪くなった事が伝えられました。
「それで、朝廷は古河公方家と関東管領、前橋上杉家に謹慎を命じるのか?」
立花義國が気にしている事を尋ねました。
「はい、朝廷は五年間の謹慎を考えていますが、幕府は反対しています。
年内に勅使が派遣される筈ですが、微妙な状況でございます」
「そうか、微妙か…年内に勅使が来るならば…
帰り道に府中へ招いてはどうだ?
勅使から直接朝廷の決定を確かめるのだ!」
「それについては既に近衛家を通じて関白、一条房通様に勅使を府中へ寄って戴ける様に請願済にございます」
「そうだ!政家!以前に届いた報告書によると松千代に近衛家の姫が嫁ぐと書いてあったが、本当か?」
「はい!近衛家当主、近衛稙家様が松千代様に惚れ込みまして、松千代様が元服なさる頃に近衛家の姫を嫁がせたいと熱烈に所望され、嫁入りの約束が成立致しました!」
「そうか、父上が武蔵守護に叙任されて、松千代は近衛家の姫を嫁に貰うなど目出度い!
上洛は大成功、大きな収穫があったようだな?」
「はい、此度の上洛は目に見える収穫と、目に見えぬ莫大な収穫がございました!」
「目に見える収穫と、目に見えぬ収穫?…
そうだな、ありそうだな…
対立している古河公方家、関東管領、前橋上杉家も揺れているだろう。
立花家が幕府公認の存在になったからな…
父上は武蔵守護の叙任、従三位近衛大将…
さらには将軍就任式に立花家と同盟大名家の諸将が参列したのだからな…
古河公方家、前橋上杉家は就任式に呼ばれず…
その差は歴然!権威は失墜!」
義國は上洛の成果を悟りました。
そこに父、立花義秀が現れました。
「義國!政家から上洛の成果を聞いたか?」
「はい!上洛の成果がこれ程大きいとは驚きました!
対立していた幕府と和解するとは…父上の為さる事には驚きました!」
「ぶははは!幕府との和解は朝廷の意向だから避けられぬ故、流れに乗った迄だ!
本気の和解では無く、表面だけの和解に過ぎぬ!
幕府側も同じだろうが、立花家の武蔵守護叙任を幕府が正式に認めた事は古河公方家、関東管領、前橋上杉家には大打撃だろう?
朝廷と幕府公認の武蔵守護の立花家に軍事力を行使した場合、朝敵となる事、賊軍に成るのだからな!」
「はい!仰る通りにございます!」
「それからなぁ、朝敵側の軍事力として、本願寺、大徳寺、東福寺の僧兵と石清水八幡宮の神兵が協力する事になったぞ!宗教勢力が朝廷の領地や御所等の警備や援護を担い、総勢10000を超える!
これにより、朝廷は幕府に対する影響力が増す事になった!」
「はい、父上が宗教勢力を口説いたと報告を受けております!流石父上!見事な手腕に驚きました!」
「ぶははは!我ながら朝廷の為に良い事をしたと思っているぞ!幕府より朝廷の立場が強くなるからな!
さらに、仕掛けを残して来たぞ!
朝廷から幕府に対して横領された領地の返還を請求させたのだ!」
「横領?公家の領地の返還要求ですか?」
「そうだ、朝廷から返還を要求された幕府は当事者の武家と対面して調査するだけでも反感を買うだろう?」
「はい、幕府は板挟みに悩みましょう!
父上の策は見事にございます!
真っ正直に横領を裁けば武家に恨まれます!
幕府を支える武家との離間工作ですね?」
「ぶはははは!そうだ!離間の策だ!
更になぁ、幕府が横領の解決に手間取れば、横領された領地は本願寺、大徳寺、東福寺、石清水八幡宮の軍事力で取り返すと噂を流した故、横領した武家は震えあがり、幕府に泣きつく!板挟みの幕府は裁定に苦悩する!
相対的に幕府は朝廷に頭が上がらなくなるだろう?」
誇らしげに語る義秀ですが、本願寺、大徳寺、東福寺、石清水八幡宮を朝廷の警護や護衛に纏める事や、朝廷に横領された公家の領地返還を幕府に要求する事も松千代の知恵だとは言わず、秘密にしていました。
「それで、父上、上洛の成果を関東全体に知らせたら如何でしょう?紙芝居で公開すべきと思います!」
「おぉ、そうだな、政家!(筆頭宿老、鹿島政家)、上洛の成果を紙芝居にして立花家の支配地域から同盟大名家の支配地域まで公開せよ!
帰国早々に疲れているだろうが、手配を頼む!」
「はい!承知致しました!早速手配致します!」
鹿島政家が嬉しそうに引き受けました。
紙芝居を通じて関東の広範囲に立花家、同盟大名家の上洛の成果が知られる事になりました。
立花家、同盟大名家の諸将が上洛した成果を紙芝居を通じて公開する事になりました。
立花家、同盟大名家が朝廷と幕府に招かれて上洛した事が知られると、招待されなかった古河公方家、関東管領、前橋上杉家は面目を失う事になります。




