1546年(天文15年)11月下旬、古渡城から熱田湊へ!立花義秀、織田信長を翻弄!
立花家では最高幹部の重役を宿老と呼びますが、織田家では家老と称しています。
1546年(天文15年)11月下旬
古渡城で行われた宴は盛り上がり、多数の泥酔者が二日酔いの朝を迎えました。
朝餉を食べらるぬ者も昼には回復しました。
織田信秀も二日酔いになり、昼頃にやっと回復しました。織田家の諸将も大半が二日酔いになりました。
彼らも昼頃には酒が抜けて回復すると、立花家や同盟大名家の諸将から聞き出した施政の要点を纒めて書面にして続々と織田信秀まで提出しました。
信秀は多数の書面を未だ回復仕切らぬ頭で読み込みました。
「ほぉ、ひとつの城に城主の下に三名の副城主の職務を与えてるのか?…役職が増えて意欲が出そうだな?
領地を持つ重臣、一門でも私兵は少なく、最大でも精々500名…与えられる軍勢は常に同じでは無く、馴れ合い過ぎぬ配慮がなされ、軍勢の入れ替えがある…ならば…なるほど!立花殿から大まかな事は聞いたのだが、これならば反乱など起こらぬぞ!
それから無料の馬車があるのか?低料金の馬車や、何?決まった経路で循環したり往復したりするのか?
何?宅配便?贈り物が家に届くのか?便利なんだなぁ…ラーメン?餃子?回鍋肉?炒飯?焼きそば?焼きうどん?…なんだか立花家には旨い物がありそうだな!?それは立花殿から聞いて無いぞー!」
書面に目を通しながら、傍らに控える家老、林秀貞に聞かせる様に呟きます。
「秀貞!立花殿に立花家に自慢の旨い食べ物が知りたいから試食出来ないか頼んで参れ!」
「殿!立花家の皆様は熱田湊へ移動なされて帰国の支度でお忙しいかと思われますが?…」
「だからな、筆頭家老のお主に頼んでおるのだ!
なんとかして参れ!」
「はっ!承知致しました!」
尾張随一の権力者が駄々をこねて筆頭家老に使い走りをさせました。
側に居る近習が笑いを堪えていました。
やがて熱田湊へ向かった林秀貞は満面の笑みで戻りました。
「殿!立花義秀殿から夕刻に熱田湊の広場にて夕餉の宴を用意されてるとの事!織田家の諸将50名を招待したいとの事にございました!」
「よっしゃ!喜んで伺うと伝えて参れ!」
「はっ!、殿!お願いが御座いますが…」
「なんだ?お前も参加したいのだろう?」
「はい!恥ずかしながら!…」
「ぐははは!許す!日頃からこき使ってるからな、褒美に善き物を食べるが良いぞ!」
「はい!感謝致します!」
「さて、50名の人選だ!手伝え!」
織田信秀は楽しそうに人選を始めました。
―熱田湊―
午前中に古渡城を出発した立花義秀は既に熱田湊に移動していました。
上洛に同行した同盟大名家の諸将と上洛した感想を個別に聞く為に面談をする事になりました。
最初に世田谷吉良家、吉良頼高(隠居56歳)、吉良頼貞(当主27歳、立花義秀の娘が入嫁)の二人が招かれました。
世田谷吉良家は足利将軍家一門にて、足利将軍家の跡継ぎの血が絶えた場合に備えて武蔵国、世田谷の地に領地を拝領、足利将軍家の跡継ぎが絶えたら吉良家から将軍後継者を出す事に決められていました。
足利将軍家一門の筆頭の家格とされ、世田谷に領地を拝領してから上洛を経験した先祖は限られていました。今回の上洛を一番待ち望んでいた二人でした。
「立花殿、この度の上洛は先祖達も喜び、陰ながら旅を見守っているかと思われます。
吉良家は三河国、武蔵国、奥州に分かれて血を繋ぐ役目を頂きました。その中でも一番繁栄しているのが我が世田谷吉良家だと示す事が出来ました。
上洛のお仲間に入れて頂き、誠に感謝申し上げます!」
吉良頼高が感謝の言葉を述べました。
「それは良かった!幕府のある方は散々将軍後継者の争いが絶えず、次に揉めたら世田谷吉良家から頼貞殿を将軍に如何かと宴席で冗談を仰るのを聞きましたぞ!」
「それは困ります!義父上(立花義秀)よりも偉くなってしまいますし、世田谷を離れたくありません!
都は見物する物で魑魅魍魎が跋扈しており、住む場所では有りません!」
吉良頼貞が反論しました。
「ぶはははは!婿殿は都を住むべき場所じゃないと理解した様だな?」
「はい、無理です。壮麗な寺院や神社と紅葉の風景は美しいですが、幕府の方々は癖があり苦手に御座います!」
吉良頼貞が正直に述べました。
次の面談は青梅三田家、三田綱秀(隠居55歳)、三田綱重(当主33歳、立花義秀の娘が入嫁)の二人でした。
「青梅の田舎から、海を眺め、上洛するなど夢の様な日々に御座いました。まさか、上洛した先で二度も戦を経験するとは楽しゅうございました」
青梅の智将三田綱秀が語りました。
「ぶははは!我が身も驚きましたぞ!
更には上洛初日の夜、宿に向かう途中に奇襲された時にはここで死ぬのか?などと肝を冷やしました」
「義父上(立花義秀)!私は帝に拝謁した事を誇りに思います!震えが止まりませんでした!
幕府の重役、朝廷の五摂家の方々との出逢いに感激致しました!」
「婿殿(三田綱重)、立花家は将来、大軍を率いて上洛するかもしれぬ、その時は軍団を率いる武将としての活躍を期待しておるぞ!」
「承知致しました!お任せください!」
三田家の若き当主、三田綱重が頼もしく答えました。
次に八王子、滝山大石家、大石定久(隠居55歳)、大石盛将(22歳、立花義秀の甥、立花将広の次男)が呼ばれました。
「義秀殿!波乱の連続!なんとも刺激に溢れた日々にございました!土産話がたんまりとございます。
楽しゅうございました!」
大石定久はとても楽しそうにに語りました。
「叔父上!私が滝山城の攻防戦で関東管領、上杉憲政と一騎打ちした事を知った織田家の方々から大いに褒めて頂きました!
都では幕府の方々に言う訳にもまいらず、残念に思っておりましたが、スッキリ致しました!」
大石盛将が笑顔で語りました。
「ぶははは!あの時、お前が上杉憲政を気絶させて捕虜にして正解だった!
死なせていたら、都で幕府と和解出来ず、上洛の成果は違った形になったであろう。
盛将のお陰だぞ!」
「はい!有り難き誉れにございます!」
次に江戸太田家、太田景資(当主18歳、立花義秀の養女入嫁)、太田資貞(叔父43歳)が呼ばれました。
「義父上!上洛にご一緒させて頂き、大いに学ぶ事がございました。毎日が楽しくて帰国するのが寂しくなりました!」
「良し良し、婿殿が楽しんで学ぶ事が後々の為になるなら将来が楽しみだぞ!
江戸太田家の発展に生かされよ!」
「義秀様!二年前に我が兄を殺害した太田資義の反乱でご迷惑をお掛け致しました。
資義は古河公方家と結託して立花家の軍勢を包囲する事を企み、破綻致しました。
江戸太田家は断絶を覚悟いたしましたが、義秀様の恩情で兄の嫡男、景資に相続を許し、本領安堵まで許して頂きました!
更には姫様に嫁いで戴き、領地の加増まで戴きました。上洛にもお誘い戴き、帝に拝謁する栄誉も賜わり、誠に感謝申し上げます!」
後見役の叔父、太田資貞が頭を下げました。
「ぶははは!資貞殿!我らは同盟関係にありますから、義秀様では無く、義秀殿で構いません!
古河公方家と戦うには江戸太田家に頼らなくてはなりません!
今後とも宜しくお願い致します!」
立花義秀が謙虚に頭を下げました。
「義父上!我が江戸太田家は立花家に戴いたご恩を決して忘れませぬ!
何時でも先鋒を賜る決意に御座います!
此の度は上洛にお誘い戴き、誠に有難う御座いました!貴重な体験を将来の糧に致します!」
太田景資が熱意を語ります。
江戸太田家は立花義秀を主人として接していました。
次に船橋高城家、高城義春(当主36歳)、馬込和長(34歳)が呼ばれました。
「義父上!上洛に加えて戴き、誠に感謝申し上げます!帝に拝謁を賜わり、朝廷の方々や幕府の人材と触れ合えた事は刺激になりました!」
「婿殿、帰国したら家臣達に見聞した事を伝えるが良いだろう。
さて婿殿の領地は古河公方家と千葉家に挟まれた重要な地域に有り、頼みにしていますぞ!」
次に秩父藤田家、藤田重綱(隠居55歳)、藤田康邦(当主33歳)が呼ばれました。
「立花様、上洛に招待して戴きまして誠に有難う御座います。帝に拝謁を賜わり、朝廷や幕府の方々に出逢い、御所や清水寺、上賀茂神社、三十三間堂などを巡る機会を戴き、更には伊勢神宮、熱田神宮まで参拝が叶いました。何より生まれて初めて見る海の広さに驚きました。
秩父に戻りましたら、秩父神社、三峰神社、宝登山神社を巡り、秩父の神々に報告に参ります」
藤田重綱は上洛を堪能した感想を語りました。
「立花様、関東管領、前橋上杉家に裏切られ、滅亡寸前の秩父藤田に手を差し伸べて戴き、独立大名の家格を与えて戴き、更には上洛の御招きを戴きました。
藤田家の所領は関東管領、前橋上杉家の南の玄関口に刃を突きつける位置にございます。
関東管領、前橋上杉家を征伐する際には、秩父藤田に先鋒を賜る様にお願い申し上げます!」
嫡男、現当主の藤田康邦は熱意を持って語りました。
「ぶははは!お二人とも、我らは主従関係にあらず、同盟を結んだに過ぎません。
立花様では無く、立花殿と呼んで頂く方が楽でございます。やがて、関東管領、前橋上杉家と戦う時には南から前橋上杉家の玄関口を突破する事をお願いいたします!」
立花義秀は同盟と協調しますが、存亡の危機を救われた藤田家親子は主家に仕える態度を続けました。
次に木更津、里見家、里見義弘(当主16歳)、土岐為頼(43歳)が呼ばれました。
「義父上!府中にて学ぶだけでは無く、上洛まで御招き戴きまして、誠に有難うございます!
帝や将軍に拝謁した事、上洛で学んだ事を郷里の父や家臣に伝えます!」
「婿殿、我が弟、立花将広が初陣の指南を務めて以来、其方には武将としての才能が有ると申しておった。此の度の上洛を糧として成長してくれる事を楽しみにしていますぞ!」
「はい、有難うございます!」
「土岐為頼殿、明日熱田湊を出発すると夕刻までに伊豆国下田湊に到着する。
明後日には下田湊から木更津湊へ向い、帰国なさるがよいだろう。付き添いの兵士達も早く家族に会いたかろう」
立花義秀は付き添いの里見家宿老に帰国を促しました。
「はい!有難うございます!」
里見義弘、土岐為頼の二人は頭を下げました。
次に甲斐国、武田家、武田信繁(21歳、武田信玄の弟)、小山田信有(27歳、近衛中将府大使)が呼ばれました。
「義父上、上洛に御招き戴き感謝致します!
帝、将軍に拝謁を賜わり、 甲斐国武田の先祖も喜んでおりましょう。海の広さに驚き、毎日が学びの日々となりました。立花家の戦い振りを二度も間近に体験出来た事を誉れといたします!
兄や家臣達に貴重な日々の出来事を伝えます!」
「婿殿、浅香山宿営地の攻防戦、古渡城の攻防戦など立花家の戦い方が上方で二度も通用した事は非常に大きな収穫になりました。
見聞した事をありのまま、武田晴信(信玄)殿にお伝えください」
「はい、毎日が貴重な日々に御座いました。
兄や家臣達に伝えるのが楽しみにございます!」
武田信繁は楽しそうに語りました。
次に小田原、北条家、北条幻庵(42歳、北条氏康の軍師)、北条時長(20歳、幻庵嫡男、立花義秀の娘入嫁)が呼ばれました。
「立花殿、上洛に御招き戴き、素晴らしい日々に感謝いたします!
帝に拝謁して、将軍にも拝謁、朝廷の宴に幕府の宴にも招かれ、二度も戦を体験致しました!氏康(北条氏康)には自慢話を聞かせる事にいたします!」
北条幻庵は北条家の意地があり、他の同盟大名家とは少し違う態度を見せました。
「義父上!上洛に御招き戴き、素晴らしい毎日に御座いました。誠に感謝申し上げます!
帰国するのが嬉しい反面、悲しくなりそうです!」
「ぶははは!婿殿は正直で宜しい。
我が身も帰国は嬉しいが、寂しい気持ちも感じています。大勢の方々の支援に感謝せねばなりません。
帰国されたら氏康殿に上洛の協力を感謝していますとお伝え願います!」
「はい!お言葉に感謝致します!」
北条時長は素直に頭を下げ、隣の父、北条幻庵は複雑な気持ちで頭を下げました。
同盟大名家の面談が終わりました。
夕刻には織田信秀と織田家の招待客がやって来ます。立花義秀は采配を筆頭宿老、鹿島政家に丸投げして、休憩に入りました。
「松千代は何してる?」
「はい、織田家の若君(信長)と熱田神宮の森で遊戯をなさっておられます!」
側近が答えました。
「見に行くぞ!」
義秀が気になり、松千代と信長の様子を伺いに行きました。熱田神宮の奥には子供達が遊ぶ空間がたくさんあり、二人は周囲を護衛に守られながら遊んでいました。
護衛に様子を確認すると、二人は松千代の美人侍女五名と一緒に蹴鞠、鞠投げ、石投げ、鬼ごっこを楽しみ、今は松千代が持ち込んだ戦国歌留多で遊んでいると知らされました。
「天下人、国を束ねる将軍様の、将軍様!」
読み手に読まれた絵柄に信長と松千代が競り合いました.。
「将軍様取ったぞー!」
信長の手に歌留多が握られ、美人侍女達が拍手して更に信長とハグしています。
信長は松千代の護衛の美人侍女とハグする為に気合をいれて励みました。
松千代に取られるとハグする松千代に悔しがり、その様子に周りの護衛がニタニタしています。
暫く楽しげな戦国歌留多値様子を見ていた義秀が夕刻から熱田湊で織田家とお別れの食事会だと二人を誘いました。
「信長殿、松千代と遊んでくれて有難う!
夕刻から貴方の父上達と湊で食事会を致しますぞ! 信長殿にも楽しんで貰いたい!」
「はい!義秀叔父様、腹一杯に頂きます!」
「よっしゃ!参るぞ!」
義秀は松千代と信長を連れて食事会が行われる熱田湊に向いました。
信長は楽しかった戦国歌留多を松千代から譲られて大喜びでした。札を獲得したら松千代の護衛をしている美人侍女とハグした事に嵌まり、自分も美人侍女を侍らせる事を考えました。
「松ちび?」
信長は周囲に聞かれぬように小声で尋ねます。
「なぁに、兄様?」
「あのなぁ、なんで松ちびに美人侍女が護衛に居るんだ?狡いじゃないか?」
「キャハハハ!兄様も欲しいの?」
「馬鹿!気になったから聞いただけだぞ!
何でだ!狡いじゃないか?」
「あのねぇ……松千代は狡いから教えませーん!」
「わかった!狡くない!狡く思わないから教えろ!」
「兄様?お願いする時はどーするのかなぁ?」
「わかった!松ちびは狡くないから教えて下さい!
お願いします!」
周りに聞こえて護衛達はクスクス笑っています。
「あのねぇ、それはねぇ、松千代のお嫁さんにしたいから一緒に居てもらってるんだよー!」
「ぶはははは!だははは!」
先を、歩いていた義秀が爆笑しています。
周囲の護衛も笑顔になりました。
松千代の美人侍女達は嬉しい言葉に笑顔になります。
「あのねぇ…兄様、毎日美女を観てるからね、将来は美女に騙されたり、溺れなくなるんだよぉ!
兄様もさぁ、美人の侍女が欲しくなっちゃったのかなぁー?」
「違う!ちょっと気になったからだぞ!
羨ましくないぞ!狡いからだ!」
少し意地悪な松千代に意地を張る信長を見ている周囲にはクスクスと笑いが漏れていました。
「信長殿、松千代に美人侍女を侍らずのは将来、美女に騙されたり、惚れて溺れ無い為なのだ!
しかも美人侍女は武芸の達人、教養も備えたしっかり者を選んでおるのだ!狡いだろう?」
義秀が信長の疑問に答えました。
「はい、狡いです!」
信長は素直に答えました。
「それからな、松千代が町に外出した場合、敵は美人侍女が気になり、護衛と判っていても美人に見入ってしまうだろう?
更にその周囲には目立つ美人侍女目当てに人が集まり、襲撃しずらくなるだろう?
その背後には更に手練れの護衛を配置してる故、敵を背後から制圧出来る。
松千代の安全が保てるから良い事尽くめなのだ」
「松ちびは6歳なのに狡い…」
「ぶははは!信長殿!羨ましいなら貴方の父上に頼んで進ぜよう!
信長殿に美人侍女五名を常に侍らせ給え!」
「叔父様!それは勘弁してくだされ!」
「ぶははは!恥ずかしいかな?」
「はい、親父に叱られます!
冗談でも止めてください!殴られます!」
「ぶははは!そうか、殴られるか?!
ならば止めておく、さて、信長殿は鰻は好きかな?」
「大好きです!川で捕れたらいつも焼いて食べています!」
「信長殿は鰻を捌けるのか?」
「はい、鰻だけで無く、岩魚に山女魚、鮎等を捌いたら焼いて食べています!」
「ほぉ、それは素晴らしい!
今宵は鰻の料理を用意したから楽しみになされよ!」
「はい!有難うございます!」
信長は少年らしく笑顔で答えました。
織田信長12歳、立花義秀の前では素直な少年でした。
史実では暴走族みたいに暴れる様に描かれていますが、信長が暴れたくなる原因が有るに違いありません。




