1546年(天文15年)11月下旬、清洲城陥落!
織田信秀は敵の兵力を味方に引き入れて、強敵を美濃国へ逃亡に追い立てました。
損害を出さずに快進撃が続きます。
1546年(天文15年)11月下旬
北へ!美濃国へ!……内心に不安を抱えながら美濃国から遠征している稲葉一鉄の軍勢は斯波義統の身柄と坂井大膳の手勢を引き連れて、美濃国から来た道を戻る形で進みました。
やがて稲葉一鉄が決断します。
「このまま進めば追いつかれる!
西へ転進するぞ!五条川の浅瀬を渡り、暫くはそのまま西に進み、暫くしてから北へ向い国境を目指すぞ!」
安全に美濃国へ向かうには敵方の網から離れなければなりません。敵方が予想しない西へ進み、何処かで木曽川を渡らねばなりません。
美濃国と尾張国の国境の木曽川が最大の難関になります。厳しい行軍が続きました。
織田信秀は坂井大膳が軍勢を解散して美濃国へ退避した事、坂井大膳には200名が付き添った事が判明しました。
「ぐははは!勝敗は決した!
敵は美濃国へ逃げた!我らは清洲城に向かうぞ!
織田信秀は追撃を騎馬20騎に託しました。
軍旗を持たせ、離れた場所から織田軍の軍旗を敵に見せるだけの任務を与えました。
敵は軍旗を見て怯えるでしょう。
織田信秀の軍勢8000は清洲城に向いました。
清洲城ではお飾りの国主、斯波義統が連れ去られ、城内の殆どの兵士が坂井大膳に引き抜かれて清洲城郊外に去りました。
その後に坂井大膳が軍勢を解散した為、清洲城には少しずつ兵士が戻り、300程の数になりました。
帰還した兵士から伝えられたのは、坂井大膳が斯波義統を美濃国へ連れ去り、軍勢を解散した事が知らされました。
織田大和守家当主、織田信友は坂井大膳の好き放題の仕業に怒りましたが、自分が重臣達から疎まれて今の状況を招いた事を理解していませんでした。
行く宛が無くて仕方無しに清洲城に入った兵士達は不安に駆られます。
やがて城内に織田信秀の軍勢が攻めて来ると噂が流れ、一旦戻った兵士も浮足立ち、城内から備品を持ち出して逃げ出す者が現れました。
そして噂が現実になりました。
織田信秀の軍勢が清洲城に迫り、五条川沿いの地域を空けて軍勢が配置されました。
清洲城は五条川沿いに建てられています。
敢えて包囲せず、逃げたい者を逃がす姿勢を示しました。兵士の逃亡は続き、城を維持するのは不可能な状況になりました。
やがて織田信秀は城内に森可成を使者に送り、降伏を勧告しました。
勧告の内容は織田大和守家当主、織田信友の切腹、斯波義統の親族を引き渡す事、織田信友の親族を引き渡す事、坂井大膳の親族を引き渡す事、家臣や兵士達の罪を問わず、服従するなら織田信秀の家臣として雇用する事が伝えられました。
「こんな条件は認めぬ!」
織田信友は拒否します。
「ふふふ…主人、織田信秀は織田大和守様が拒否なさるなら剃髪して出家なされよ!と申しております。
如何でありましょうや?」
「むむむ、剃髪!出家だと!?
家族、親族はどうなる?」
「さて、我が主人なら罪あらば罰し、罪なければ追放か?まぁ器量ある方なら好んで雇う気質にございますが、評判の悪い方々に我が主人が手を差し伸べるとは思えぬ事にございます」
「それで出家したとして、何か保証される物は?
家族と一緒に暮らせるのか?
住まいは?どーなる?」
「これは勘違いも甚だしい!貴方は既に家臣や兵士に見捨てられた罪人です!
尾張国、三河国、遠江国、三カ国の守護、斯波家の筆頭重役の立場にありながら、主人を惑わせて亡国の憂き目に導き、今川家に三河国、遠江国を奪われ、更には尾張国内を混乱に導いた罪は重いぞ!
城を枕に再度戦うのか!
全ての責任を取り、腹を召されるのか!
いずれかひとつ!選ばれよ!」
「いや、待て!三河国と遠江国を失わせたのは我が父の責任だぞ!俺は手伝わされたに過ぎぬ!」
「頭が弱いな?大和守様は自白なされましたな?
では、どう責任を取るんだ?」
「切腹はせぬ!
出家してどーなる!今さらお経など覚えられぬ!」
「大和守様、承知致しました。
見事な覚悟にございます!」
森可成はすっと立ち上がり、織田信友に近づきました。一瞬で短刀を信友の腹に突き刺し、背後から信友を抱えながら周囲に威圧の目を配りました。
六尺(180㌢)の大柄な使者は誰にも止められずに織田信友の腹を裂きました。
「織田大和守信友様!見事なる切腹!
一同の者!手を合わせて黙祷なされよ!」
森可成は苦悶する織田信友の頭に腕を回し、グイッと捻り絶命させました。
信友の近習から太刀を受け取り、胴から首を解放しました。
「織田大和守信友様、天晴なる御最後也!」
清洲城には森可成の行動を妨げる者はありませんでした。織田大和守信友が寂しく世を去りました。
真っ赤に血を浴びた森可成が首を盆に乗せて城内から清洲城正門に到着、 正門前には織田信秀、信長が出迎えました。
「勝鬨をあげよ!」
織田信長が叫びました。
「エイ!エイ!おぉー!
エイ!エイ!おぉー!
エイ!エイ!おぉー!
エイ!エイ!おぉー!」
清洲城は陥落しました。
史実で織田信友は1555年に森可成に討ち取られる筈でしたが、史実より9年早く亡くなりました。
織田信秀、信長親子の勢力は史実より早く拡大する事になりました。
織田信秀は戦後処理について信長を試します。
「信長、守護代、織田大和守家を残すが良いか?潰すべきか?お前なら如何にするか?」
「潰すべきでしょう!
大和守家の連中は自分達の身分が上だと信じております。面倒な大和守家は消滅、逆らう者は斬り、従う事を誓った者だけ生かすべきと判断します!」
「良し!ならば尾張国守護、斯波家を如何に扱う?
斯波家の親族をお前なら如何にするか?」
「んーん、父上、斯波家は残しましょう!
美濃国へ連れ去られた斯波義統と血の繋がりを持つ親族が隠れておりましょう。
清洲城内、または近くの寺院に隠れているはず、お触れを出して国主一族は保護すると公表します。
さらに都から朝廷を通して斯波家に繋がる者を養子に迎えると宣言すれば、美濃国へ逃れた斯波義統は朝廷に逆らう者となり、存在価値は地に落ちて利用価値が薄まりましょう!
マムシの斎藤道三が悔しがりましょうぞ!」
「ぐははは!見事だ!そこまで先を見据えたか!?
これは頼もしいぞ!」
「父上!」
「なんだ?」
「森可成の機転に充分な褒美をお願い致します!」
「わかっておるぞ!任せておけ!」
織田信秀、信長親子の会話が清洲城の陣営を明るくしました。
前日に小田井城を初陣で攻め落とし、本日は戦後の後始末に非凡な判断を示しました。
織田弾正忠家と呼ばれる織田信秀、信長親子の評判が尾張国内に大きく広がりました。
美濃国へ向かう稲葉一鉄、坂井大膳の軍勢は織田信秀が放った騎馬兵が掲げた軍旗に怯えながら北へ向います。更に織田信秀の陣営に鞍替えした岩倉織田家、織田信賢の軍勢の先鋒部隊が稲葉一鉄、坂井大膳らの軍勢を視界に捉えて追撃する振りを実施しました。
稲葉一鉄、坂井大膳の軍勢は二手の軍勢から追われながら木曽川沿いに浅瀬を見つけて命からがら渡り切り、美濃国内に逃れました。
坂井大膳の尾張国制覇の思惑は外れました。
美濃国へ渡り、再起を計ります。




