1546年(天文15年)11月下旬、織田信秀の策謀炸裂!
坂井大膳は過去に織田信秀に敗戦した事がありました。勝つ為に仇敵、美濃国の斎藤道三と手を結びました。
1546年(天文15年)11月下旬
小田井城を攻略した織田信秀の軍勢は11月28日の早朝、北西に1里(4キロ)の清洲城方面の状況把握の為、斥候部隊を派遣しました。
敵方が美濃国、斎藤道三と手を結んだ事を掴み、清洲城周辺の状況を把握する事を優先しました。
織田信秀は清洲城には向かわず、小田井城から北へ2里強(10キロ)の岩倉織田家の居城、岩倉城に向けて進軍しました。
清洲城では前日に小田井城の陥落を知り、士気が低下していました。織田大和守家の当主、織田信友は落ち着きを無くしていました。
そこに敗軍の将、坂井大膳が帰還して織田信友の前に土下座して詫びました。
「殿!信秀に負けてしまい、申し訳ございません!」
「馬鹿者!お前が宴に気を許してるから信秀の首が簡単に取れると申したから許したのに!
なんて事をしてくれたんだ!
尾張守護代の名を汚したじゃないか?
大膳腹を斬れー!」
小田井城に救援も出さずに傍観した織田信友は敗戦の全てを坂井大膳に押し付けるつもりでした。
「殿、美濃国のマムシ、斎藤道三に援軍を要請済みにございます!諦めてはなりませぬ!」
「美濃国?斎藤道三が尾張に援軍など出すものか?
道三の本拠地、稲葉山から9里(36キロ)離れた清洲に来るものか?」
「殿、我が軍勢が古渡城に奇襲する前に道三殿から援軍の確約を取り付けました。
既に援軍3000が清洲城に向かっております!
諦めてはなりません!」
「大膳、道三殿からの援軍の事を何故黙っていた?」
「殿、古渡城の奇襲成功の為、伏せておりました。
道三殿にとっても織田信秀は仇敵、美濃からの援軍を見れば岩倉織田家の軍勢も我らと共に合流します!」
「わかった!大膳に任せるぞ!
この局面を打開せよ!」
「畏まりました!それでは出陣致します!」
坂井大膳は織田信友に会うのはこれで最後だと思いました。
既に坂井大膳は仇敵、美濃国、斎藤道三と密約をしています。清洲城には実権を失った尾張守護、斯波義統を飾りの国主にしており、斯波家との婚姻や斯波義統を美濃国へ引き渡す事を含めた密約をしており、主人の織田信友を裏切っていました。
「見てろよ!斎藤道三と織田信友を利用して、織田信秀を退治して実質的な尾張国主になってやるぞ!
織田信友は小田井城で戦う我らに援軍を出さずに見捨てたじゃないか!
仕返しに見捨ててやるぞ!
側近に本音を語りました。
前日、古渡城の奇襲に失敗した坂井大膳の軍勢は小田井城に退却、織田信秀の軍勢に追撃を受けていました。坂井大膳は清洲城の主人、織田信友に援軍を要請しましたが援軍が来る事はありませんでした。
坂井大膳は岩倉織田家、岩倉城の織田信賢にも援軍要請をしました。
織田信賢は援軍を快諾して援軍2000を派遣しましたが、間に合わずに小田井城は陥落しています。
主人と違い、織田信賢は誠意ある人物と見て坂井大膳は清洲城周辺で織田信秀の軍勢を迎え撃つ決意を固めました。
―清洲城周辺の状況―
織田信秀8000
清洲城、織田大和守家、坂井大膳2000
岩倉城、岩倉織田家、織田信賢4000
美濃国援軍3000
織田信秀が8000、清洲城側は三つの軍勢が合流すると9000になり、互角の勢力になりますが…
坂井大膳は清洲城内のお飾りの国主、斯波義統を訪ねました。美濃国の斎藤道三が救援の軍勢を派遣した事を知らせ、言葉巧みに城外への連れ出しに成功しました。
坂井大膳は清洲城の兵力の大半を引き連れて北東へ半里(2キロ)移動して美濃国の援軍3000と合流しました。
美濃国の援軍の大将は稲葉一鉄、義理人情に厚い36歳の青年武将、史実では織田信長の重臣に取り立てられ、姉川の戦いで信長の命を救う大活躍をする事になります。
斯波義統は稲葉一鉄の軍勢に預けられました。
密約通りに美濃国、斎藤道三が尾張国主を預かり、政治的に利用価値の高い宝物を手に入れました。
坂井大膳の軍勢が2000、稲葉一鉄の軍勢が3000、残るは岩倉織田家、織田信賢の軍勢4000が合流すれば織田信秀の軍勢8000と対等に戦えます。
坂井大膳は織田信賢の陣営と連絡を取り、合流を目指しました。
一方の織田信秀の陣営では清洲城から坂井大膳が軍勢を率いて出陣した事や、美濃国勢と合流した事を把握していました。
敵方が美濃国、斎藤道三と手を結んだ事は状況を難しくしましたが、織田信秀は先手を打っていました。
岩倉織田家、織田信賢に清洲城の織田大和守家と手を切るなら岩倉城攻撃を中止するが、拒むなら岩倉城を攻撃すると通告しています。
岩倉織田家を味方に出来れば尾張国内の勢力図は織田信秀側が圧倒的有利になります。
信秀は次の手を打ちます。
さらに使者を遣わして「美濃国の援軍の退路を封鎖する芝居を打てば許す!」と通告させました。
去就を迷っていた岩倉織田家、織田信賢は信秀の要求に応じる事になり、使者に人質を預けて岩倉城から4000の軍勢が西へ向いました。
「ぐははは!岩倉織田家がこちらに降ったぞ!
岩倉城攻めはしなくて済んだ、残るは清洲城だ!
進路変更!西へ迎えー!」
織田信秀が満面の笑みで号令を出しました。
「噂を流せ!岩倉織田家は織田信秀陣営に加わり、美濃国の軍勢の退路を封鎖する!」
筆頭家老、林秀貞が信秀の命令を実行すべく手配に掛かりました。
その頃、美濃国の軍勢と坂井大膳の軍勢は岩倉織田家の軍勢と合流すべく待機していましたが、小田井城を攻略した織田信秀の軍勢が清洲城に向かわず、岩倉城に向かった事を知りました。
「やったぞ!それなら織田信秀の軍勢の背後を突けば良いじゃないか?信秀は美濃国の援軍が来た事を知らぬ故に清洲城を後回しで良いと判断したな?」
坂井大膳は単純に判断しましたが、美濃国の援軍武将、稲葉一鉄は考えが違いました。
「坂井殿?それは誘いかもしれませぬ!」
「いや、北へ向かった信秀の軍勢の背後から攻撃すれば勝てる!」
「それでは敵が岩倉城に接近した頃合いに合わせて緩りと背後を取りましょう。
迂闊に接近すると我らの存在を敵に知られてしまいます。緩りと参りましょう」
稲葉一鉄は坂井大膳の意向を受け入れて慎重に行動出来るように仕向けました。
稲葉一鉄は斎藤道三から斯波義統の身柄と、出来る限り損害を抑えて帰国する事を命じられています。
斯波義統の身柄が確保出来たから尾張国内で戦う必要はありません。
密かに退路を確保する為、500の軍勢を北へ向かわせました。
暫く時が過ぎて状況が変わります。
岩倉城方面から4000の軍勢が西へ向かった事が判明、岩倉城に織田信秀の軍勢が接近中にも関わらず不可解な行動です。
その後、岩倉城に向かっていた織田信秀の軍勢が進路を西へ変更した事が知らされました。
この情報により、岩倉織田家と織田信秀が手を結んだ可能性が高まりました。
さらに岩倉織田家が美濃方面への退路を封鎖する噂が陣営に広まりました。
坂井大膳はこの噂に信憑性が有ると感じて稲葉一鉄に相談しました。
岩倉織田家が敵の陣営に鞍替え差した場合、対等だった兵力は織田信秀側12000、坂井大膳と美濃国の兵力は5000と敵方が圧倒的優位になります。
「坂井殿、一緒に美濃国へ参りませんか?
尾張国内に縁故や見識がある貴殿なら、我が主も歓迎致しましょう!」
「なんと、美濃へ退却?…尾張に持っている家族、財産、地位も名誉も捨てろと?…」
「はい、貴殿程の器量なら我が主から充分な補償があると思います。さて、退路が塞がる前に行かねばなりません!
貴殿の軍勢には解散を告げて美濃国へ亡命する希望者だけを連れて身軽になられませ!
斯波義統様を美濃国へ導かれた貴殿の功績は必ず報われます!この稲葉一鉄が命に賭けて保証致します!」
「承知した!貴殿を信じて美濃国へ参る!」
坂井大膳はその場を離れ、自ら率いる兵士達に状況を明かしました。
「美濃国で身を立てたい者だけ付いて参れ!
一時的に美濃国へ参るが、必ず尾張国へ戻り、織田信秀を倒しに参る!
その時に我が陣営に参加する事を歓迎する!
美濃国へ行く者だけ残れ!
それでは解散!」
坂井大膳が兵士達に解散を宣言しました。
戸惑いながら兵士達の大半はその場を離れ、残った兵士は200名程になりました。
「意外に多いじゃないか?付いて参れ!」
坂井大膳の声に兵士達が笑いました。
退路を塞がれる前に稲葉一鉄、坂井大膳の軍勢は北へ進路を取りました。
岩倉織田家の4000、織田信秀の8000が退路を塞ぐべく西へ向かっていました。
両軍の駆け引きは結果として織田信秀の策が上回りました。坂井大膳、稲葉一鉄の軍勢は無事に美濃国へ抜けられるでしょうか?




