1546年(天文15年)11月下旬、古渡城の攻防戦!
主家の裏切りに不意を突かれた織田信秀は冷静に対応します。
戦いの流れは敵が有利な状況です。
信秀の打開策は?
1546年(天文15年)11月下旬
古渡城は12年前に今川家の脅威に対抗する為に織田信秀が築きました。それ以後、本拠地として少しずつ防備を強化して二重の水堀を巡らせた堅城です。
東西南北に門がありますが、緊急時には門に架かる橋板を外して敵の侵入を阻みます。
この日の古渡城の守備兵力は織田信秀の軍勢500に、立花家の護衛200が加わりました。
その他の軍勢は今川家や今川家配下の松平勢警戒の為に周囲の城に配置しています。
まさか、主家の裏切りを受けるとは思わず、古渡城は手薄になった隙を狙われました。
地平線から太陽が登り始め、周囲が明るくなり始めました。織田大和守家の軍勢は総大将、坂井大膳が軍勢を二手に分けました。
北門へ1000が迫り、西門へ1000が迫ります。
この緊迫した状況で不測の事態が生じました。
古渡城内には織田大和守家の手勢が宴席の招待客や出入りの業者に偽装して50名が潜入していました。
城内が臨戦体制になると妨害工作を開始、彼らは各所の建物に移動しながら放火を始めました。
やがて彼らは織田信秀の首を狙い本丸御殿に侵入しました。
「敵襲!敵が本丸に侵入!」
「敵襲!火を消せー!」
城兵達が叫びました。
消火に駆けつける城兵に織田大和守家の手勢が刃を向けて妨害します。各所で城兵と侵入者の戦いが発生しました。
織田大和守家の手勢は織田信秀が本丸御殿に居ると想定していましたが、織田信秀は二の丸御殿に居た事で危機を免れました。
古渡城内は敵襲に備えて東西南北の橋の板を外しに掛かりましたが、放火された事や侵入者の対応に加勢が必要になり、人数が削られて橋板外しに手間取りました。東と南の橋板外しに成功しましたが、北と西の橋の板は敵勢が迫り、作業する兵士達は焦りから橋板を外す事が出来ずに作業を諦め、橋の上に逆茂木を幾つも設置して守備を固めました。
現場の混乱が織田信秀に報告されました。
「なんだと?橋板が外せなかった?!
訓練していただろう?」
原因は訓練を受けていた兵士の大半が放火された現場や、侵入者の対応に派遣され、作業に不慣れな兵士が現場を任された事が原因でした。
「北門と西門に兵力を加勢させろ!
逆茂木を増やせ!土嚢で固定するのを忘れるな!」
織田信秀が指示を出しました。
北門と西門の前に織田大和守家の軍勢が到着、直ちに橋を渡り、進撃を開始しました。
寄手の軍勢は盾を前列に並べて前進します。
堀に掛かる橋に備えられた逆茂木の除去に取り掛かりました。
逆茂木は橋の上に幾つも並べられ、土嚢を置いて固定していました。
しかし、敵が迫る状況で急遽設置された逆茂木は乱雑に並び、充分な土嚢が集まらず、逆茂木をしっかり固定する間がありませんでした。
橋を渡り、逆茂木の撤去を始めた敵勢に城兵が弓矢を放ち、作業を妨げます。
織田大和守家の軍勢は弓矢を浴びながらも逆茂木に手を掛けて、土嚢を排除して少しずつ逆茂木を動かして進路を広げました。
「怯むなー!目指すは織田信秀の首!
信秀を討ち取った勇者には古渡城を与えるぞー!」
寄手の指揮官が叫びました。
「うぉーぉー!」
寄手の兵士達の士気が高まりました。
「怯むなー!掛かれー!」
号令に刺激されて北門と西門前橋が突破され、城門前に寄手が集まりました。
城門前にも逆茂木が集められ、城兵は弓兵と長槍の兵士が守りを固めています。
ここを突破されたら城内へ一気に侵入されてしまいます。織田大和守家の軍勢は2000、城内は立花家の護衛を含めて700と寄手が有利な状況です。
城内に侵入されては織田信秀の軍勢に勝ち目はありません。今まで積み重ねた全てを失う恐れがありました。
ー古渡城兵力ー
北門守備兵力、弓兵30、長槍120
西門守備兵力、弓兵30、長槍120
城内予備兵力長槍200、立花家護衛弓兵200
ー合計700ー
織田信秀は立花家の護衛部隊を北門と西門の支援に向かわせて各々100ずつ配置しました。
北門と西門の前で戦いが始まりました。
「掛かれー!」
織田大和守家の軍勢が盾を前列に並べ、逆茂木の撤去を始めました。
盾の隙間に手を伸ばして紐を結び、引っ張る事で逆茂木を動かそうと試みます。
城兵は弓兵が狙いを定めて弓矢を放ちます。
寄手は弓矢を浴びながら作業を続けます。
次々に鎖鎌や鈎縄を投げて逆茂木に絡ませて逆茂木を少しずつ動かして進路を広げました。
少しずつ前進する寄手に城門の上と塀の上に集まった立花家の弓兵が高所から狙いを定めます。
北門では立花将広が指揮を取り、西門では嫡男、立花頼将が指揮を任されていました。
立花家の兵士達は我慢強く敵が接近するのを待ちました。
「ぐははは!楽しくなりそうだぞ!
あと少しだ!引きつけて指揮官だけを狙え!
雑兵に無駄に矢をつかうな!
連射は禁止!単射で狙え!」
北門では立花将広が楽しげに笑います。
立花家の護衛部隊は各々矢筒に30本の弓矢を持っています。しかし予備の弓矢が足りず、城内で支給された予備の矢羽根は200本、これでは連射が得意な立花家の戦法が使えません。
厳しい戦いになりました。
「今だ!放てー!
指揮官だけを狙えー!」
立花将広の号令が響きます。
逆茂木と格闘する寄手の指揮官に弓矢が集中します。
シュンッ!シュンッ!シュンッ!
次々に指揮官が倒れ、彼らの身体には数本の矢が刺さります。指揮官の周囲に居た兵士に流れ矢が集中します。寄手が怯み、前進が緩みました。
指揮官が次々倒れて最前列が乱れました。
それでも寄手は後方から押し上げて最前列の盾を並べ直して前進を続けます。
数的有利を確信している敵は犠牲を厭わずに挑みます。
「よっしゃ!空中に矢を放てー!
空中へ2本放てー!」
立花将広が叫びます。
弓矢が一斉に空中に放たれ、最前列の寄手に降り注ぎます。次々に合計200本の弓矢の雨が注ぎます。
最前列は空から降り注ぐ矢の雨に襲われて隊列が乱れました。
「最前列の兵士を狙えー!最前列の兵士を倒せー!」
立花将広は乱れた敵に容赦の無い射撃を命じました。
シュンッ!シュンッ!シュンッ!
城門の上と塀の上の高所から放ち、密集した最前列に放たれた矢は一瞬で数百名を倒しました。
「撃ち方停止!無駄矢を放つなー!」
立花将広の指示が響きます。
「撃ち方停止!無駄矢を放つなー!」
指揮官達が叫び、射撃が停止されました。
目の前には寄手の数百の軍勢が倒れて痛みに苦しむ姿を晒しています。
「長槍隊進めー!押し出せー!」
城兵の指揮官が叫び、長槍隊が前進を始めました。
「うりゃー!」
「うぉーぉー!」
城兵の反撃に寄手は一気に崩れ、後方に退却を始めました。
「追撃停止!深追いするなー!」
「橋に遺体を山積みにしろ!
逆茂木を並べて遺体で橋を塞げ!
城兵の指揮官は苛烈な指示を叫びました。
城兵は寄手が引き返す前に手際良く城門前の橋に遺体を集め、逆茂木と組み合わせて寄手の進路を塞ぎました。その場に織田信長が現れました。
「おい!少しだけ進路を開けろ!
敵が諦めぬ程度に通り道を残せ!」
信長はまだ12歳にして冷徹な命令を叫びました。
指揮官は信長の意向に従い、敵が諦めぬ程度に通り道を残しました。
「間もなく味方が来る!
それまで奴らを引きつけろ!」
信長の言葉に周囲の兵士が納得する様子が伺えました。
やがて部隊を再編した織田大和守家の軍勢が攻撃を再開します。
「怯まずに押し切れ!押し出せー!」
寄手の指揮官が叫びます。
盾を並べて橋を渡り、前進を開始しました。
味方の兵士の遺体を退けながら逆茂木に立ち向かいます。城兵の弓矢の射撃に怯まずに進みます。
「憎き織田信秀!主家を蔑ろにした報いを受けよ!
敵の城は手薄なり!押し切れー!」
寄手は数的有利を信じて押し切る事を目指して前進を続けます。
城方は引きつけて弓矢の射撃で抵抗を続けました。
寄手の軍勢は少しずつ前進を続け、次第に弓矢の射撃が弱まるのを感じました。
「敵の弓矢は残り僅かだ!
勇気を出して押し切れー!」
寄手の指揮官は自信を深めて前進を促しました。
その頃、立花将広は弓矢が残り少ない事を察していました。兵士の矢筒に残る矢は5本程度、城方から支給された予備の弓矢は200本しかありません。
残る弓矢を兵士に支給させて、味方の来援を待つしかありませんでした。
やがて時刻は午前8時過ぎになりました。
北門の寄手の背後に末森城と那古屋城から合流した救援部隊800が攻めかかりました。
寄手は城攻めに集中していた為、奇襲を受けて混乱しました。
「いかん!撤収だ!小田井城へ撤収せよ!」
織田大和守家の総大将、坂井大膳は潔く退却を決断、西門を攻撃中の味方に伝令を派遣して退却を命じました。
総兵力では織田信秀の軍勢が圧倒的に勝ります。
信秀の大軍に囲まれる前に退却しなければ全滅します。坂井大膳の軍勢の逃げ足は素早く、巧みに追撃を逃れて戦場から去りました。
その頃、西門では熱田湊から出撃した立花家の軍勢が西門を攻める織田大和守家の軍勢を粉砕、坂井大膳の伝令が到着する頃には壊滅していました。
「エイ!エイ!おぉー!
エイ!エイ!おぉー!
エイ!エイ!おぉー!
エイ!エイ!おぉー!」
古渡城の各所から勝鬨が上がりました。
勝利した古渡城には各地に派遣していた織田信秀の配下の軍勢が集まり、正午過ぎには10000を超える軍勢が集結しました。
織田信秀と信長、立花家が協力して古渡城を守り切りました。織田信秀は裏切った主家の扱いを如何にするのか?注目が集まります。




