1546年(天文15年)11月中旬、南蛮渡来の鉄砲確保!
大阪本願寺御坊から立花家と同盟大名家の軍勢が浅香山宿営地に帰還します。
そこに商魂逞しい堺の商人達が待ち構えています。
1546年(天文15年)11月中旬
11月15日の午後、立花家及び同盟大名家の軍勢は久しぶりに浅香山宿営地に帰還しました。
宿営地には既に堺の商人達が特設土産物市場を開いて待ち構えていました。
西洋産や明国産と称する薬、香辛料、野菜に漬物、漆器に陶器、反物 、織物、絹織物、毛織物、財布に小物入れ、箪笥に西洋式食卓に椅子、朱塗りの太刀、槍、弓、派手な柄の陣羽織、甲冑、ワインに香木に象牙等、立花家及び同盟大名家が都と大阪で土産物を大量に購入した事を聞きつけて、堺の商人達が荷車、馬車や馬に商品を担いで集まりました。
「ぶはははは!堺の商人達は抜け目無く先手を打って来たじゃないか?見事な市場が出来てるぞ!」
「お爺、西洋の商人達も店を出してるよ!
もしかしたら鉄砲があるかも?」
松千代が冗談半分で祖父義秀に囁きました。
「鉄砲?!ぶはははは!手に入るなら高くても全部買うぞ!鉄砲製作の参考になるからなぁ…」
この当時、三年前(1543年)に種子島に鉄砲が伝わりました。種子島の領主から主家の島津家に献上されて島津家が極秘に開発している頃でした。
島津家と立花家は交易している間柄ですが、島津家は鉄砲については極秘にしており、鉄砲が実戦で使用されるのはこの時から3年後、1549年に島津貴久が率いる軍勢が加治木城攻めに際して使用されます。
立花義秀の前世は旧日本軍の軍人です。
銃に関する知識がありましたが、鉄砲を知らない職人達に図面を見せても、実物を知らぬ為になかなか理解が出来ず、苦戦していました。
実物が手に入れば、職人達に具体的に指示する事が可能になり、開発が進みます。
浅香山宿営地に到着してから義秀には決裁しなければならない案件があり、市場を見学するより、実務を優先する必要がありました。
松千代は筆頭宿老の嫡男、鹿島政勝と護衛の美人侍女を連れて市場の見学に向かいました。
義秀は筆頭宿老、鹿島政家と実務に取り掛かりました。決裁事項はあれこれ件数が多く、いつの間にか夕刻になっていました。
そこに松千代が西洋の武器商人を連れて来ました。
「お爺ー!鉄砲見つけたー!」
「何ぃー!鉄砲があったのか?」
「殿!西洋の武器商人が挨拶に参りました!」
松千代に付き添った鹿島政勝が背の高い商人二人と通訳を連れてやって来ました。
挨拶を交わしたポルトガルの武器商人は義秀に新兵器の鉄砲購入を義秀に勧めます。
手元には2丁の鉄砲があり、堺で調達した桐の箱に収められていました。
鉄砲の有効射程は一町(110m)、火薬、弾丸50発込みで200貫(2千万円)と強気の提示をしました。
義秀は桐の箱から鉄砲を手に取り、構えて撃鉄を引いて感触を確かめました。その姿を見た武器商人が熟達した兵士の様な構えに驚きました。
義秀は購入するつもりだが、試し打ちを見てから支払うと宣言しました。
武器商人が試し打ちをする事になり、20間(36m)先に弓用の的を用意しました。
的は幅2尺(60cm)、高さは人の胸の高さ4尺(120cm)に固定しています。
やがて武器商人が慣れた様子で構えて初弾を撃ちました。「ダーン!」大きな音を響かせて銃弾は的の中心近くに命中、的には大きな穴が空きました。
初弾から充分な殺傷能力を示し、武器商人は2発目も的に命中させて大きな穴を空けました。
「ぶはははは!見事だ!武器商人殿、鉄砲2丁を購入するぞ!」
義秀は鉄砲が手に入る事で喜びが隠せません。
その時、松千代が側に来て義秀に耳打ちしました。
「お爺!相手の言いなりで購入したら損するよ!
相手は値段を吹っ掛けて儲けるつもりだから、付加価値を求めて駆け引きしなきゃ駄目だよ!」
「ぶはははは!危なかった…相手の言いなりで即決寸前だったぞ…ぬふふふ…商談をしなきゃいかんよな?」
松千代の助言に義秀は素早く反応しました。
義秀は鉄砲2丁を購入するついでに胡椒等の香辛料、香木を含めて200貫(2千万円)の取引を提案しました。武器商人はそれなら更に上乗せした金額が必要だと主張します。
「それではな、武器商人殿に立花家の負担で横浜湊に商館を新築して与える、立花家及び同盟大名家の湊にて自由に交易する許可を与えるから、香辛料に香木を含めて200貫でどうだ?
更に、西洋の馬、ヤギ、羊を雄、雌つがいで集めて貰いたい。馬は1頭につき50貫(500万円)ヤギ、羊は1頭につき20貫(200万円)で購入する!
この条件を引き受けてくれたら貴殿を立花家の御用商人の地位を与える用意がある!
東国、東海、瀬戸内の海賊と提携しており、蝦夷地から博多、鹿児島に至る海洋商圏を持つ立花家と手を携える機会を逃しては損するのではないか?」
義秀が武器商人へ好条件を提示しました。
通訳から内容を聞いた武器商人は信じられない程の好条件に飛び付きました。
武器商人が想定外の成果に大いに喜び、正式な書面を作成して調印する事になりました。
「お爺!凄い!流石の交渉上手!」
松千代がベタ褒めすると満面の笑みの義秀…
「ぶはははは!交渉事は駆け引きだからな!
楽しい商談だったぞ!」
「お爺、追加のお願いがあるよ!
まだ手に入らないカボチャ、トマト、レモン、チンゲン菜等、日本に存在していない食材集めを加えて欲しいの!お願いしまーす!」
「わかった!手配する!」
武器商人と取り交わす条項に松千代の希望する食材集めが付け加えられました。
松千代が待望する食材が戦国時代に確保出来る可能性が高まりました。
「ねぇ、お爺、鉄砲造りが進展するけど、お爺の目指す鉄砲はどんな鉄砲?」
「まずは、実物を職人に見せて、中身を解体して細部まで構造を理解させて、同じ物を作らせる。
それが出来たら単発銃から、連発銃と散弾銃の作成に取り掛かるつもりだが、道は険しいな、理想は長距離狙撃が可能なライフル銃だがなぁ」
「銃に詳しいお爺に任せるよ。銃弾はどうする?
火薬を内蔵した銃弾に進化させるまで大変よね?」
「そうだな、丸い弾丸から火薬を詰めて雷管を叩いて射出する銃弾に進化させるまで大変だろうが、前世の記憶を頼りにやってみるぞ!」
「お爺!かっこいいー!」
「松千代、上洛の旅路は楽しい事がたくさんあったなぁ、帝に拝謁して、武蔵守護職に従三位の官位を戴き、多くの人々との繋がりが出来たぞ!
松千代が上洛を勧めてくれたから凄い事になったぞ!
全部松千代のお陰だぞ!松千代凄いぞ!」
「きゃははは、お爺と一緒で楽しい上洛の旅だよ!
お爺!お風呂入ろうよ!」
「よっしゃ!風呂に参ろう!」
浅香山宿営地には風呂が用意されていました。
上洛の旅の疲れはは風呂に浸かり癒されます。
祖父と孫、楽しいひと時になりました。
義秀が熱望していた実物の鉄砲が手に入りました。
義秀が目指す鉄砲造りが間違いなく進展します。




