1546年(天文15年)11月上旬、将軍就任式当日早朝!
昨日夜から御所内、近衛邸に宿泊した松千代達に爽やかな朝がやって来ました。
公家筆頭の近衛邸の庭を散歩します。
1546年(天文15年)11月上旬
11月1日の朝を迎えました。
近衛家の邸宅に宿泊した松千代、立花義秀、猿渡盛胤は早朝の庭園散歩を楽しみました。
近衛家の邸宅は御所の北側にあり、公家筆頭の家柄に相応しく美しい庭園に囲まれています。敷地内には複数の湧水があり、邸宅の東には大きな池になっています。
小鳥達の爽やかな声が響き、池の水は透き通り、手入れが行き届いていました。
「お爺!ご老公様!御所内は湧水が、あちこちに溢れて綺麗な小川が幾つもあるよ!
池の底まで凄く綺麗!」
「あぁ、そうだな、凄く綺麗だな!」
松千代と義秀もご老公様も感嘆しています。
「ご説明いたします。
湧水の源は東に流れる鴨川にございます。
鴨川の上流は御所の北側に位置して流れてございます。北と東から伏流水が御所内に溢れており、10ヶ所以上の湧水が確認されている次第にございます。」
近衛家の案内役が解りやすく説明しました。
「御所内には田んぼや畑が幾つかございます。これは戦乱を何度も体験した為、緊急時の食料確保の為にしております。」
「あぁー!鴨がたくさん居るよ!
何か食べてるよ!
小魚が居るのかな?」
松千代が興味を示しました。
「はい、御所の湧水は御所の中を通り、鴨川に繋がっておりますので、川魚が遡上して参ります。ウグイ、オイカワ、クチボソ、今は産卵期の鮎がやって来て御所内でたくさん取れています。
今朝の朝食には鮎の塩焼きを用意してございます。」
「えぇー!鮎!塩焼き!楽しみだー!
それからさぁ、今日の宴席には鴨肉は出るのかなー?」
松千代は大好物の鴨肉が食べたくなっていました。
「松千代様は鴨肉がお好きなのですね?
鴨肉なら本日の将軍就任の宴席で用意してございます。」
松千代は鴨肉が大好きで、昨夜の宴席に鴨肉が出ずにガッカリしていました。
「昨夜と本日の料理の内容が被らぬ為、昨日は雉と鰻を主役の皿に致しました。
本日は鴨肉と松茸、琵琶湖で採れた鱒を用意しております。」
「ほぉ!鴨肉!松茸!琵琶鱒!
涎が出るじゃないか?」
ご老公様が反応しました。
「さて、そろそろ朝食に致しましょう」
案内役に導かれ、三人は当主、近衛稙家と一緒に朝食を頂きました。
近衛稙家は6歳の松千代が上手に鮎を食べる姿に笑みを浮かべています。
「将来の婿殿は上手に食べてるじゃないか?
行儀は良いし、所作が美しいぞ!」
食後には本妻、側室が連れて来た二名の姫達が松千代の手を引いて庭遊びを始めました。
五歳の姉と三歳の妹が松千代と仲良くしている姿に「どちらが松千代の嫁になるかな?」
近衛稙家が呟きました。
松千代は昨日娘達二人と対面してから直ぐに仲良くなっていました。
「松千代はおなごの年齢に関係無くモテモテにございまして…なぁ義秀!」
ご老公様が松千代がモテる事をばらしてしまいました。
「ほぉ、見た目だけでは無く、気配りが出来るからに違いない!
我も昔から同じくモテモテだったからなぁ」
近衛稙家が呟きました。
「私、松千代様のお嫁さんになる!」
「ダメ!私がお嫁さんになるー!」
姉と妹が松千代の手を握り、取り合いになりました。
「ぶははははは!」
「ぶははははは!」
「ぶははははは!」
近衛稙家、義秀、ご老公の三名が同時に爆笑となりました。
背後では近衛稙家の本妻と側室が笑っています。和やかな時が流れています。
松千代が姉と妹に提案しました。
松千代が護衛役の五名の侍女を近くに呼びました。17歳から20歳の彼女達の容姿を見せて言いました。
「僕の事をいつも優しく護衛してくれている優しいお姉さんだよ!真樹、雪、楓、紅、茜、僕の大事なお姉さん達と仲良くしてくれるなら二人ともお嫁さんにするよ!」
五名の美人侍女みたいに綺麗になれ!
では無くて、大事なお姉達と仲良しになる事を条件にした事に周囲の大人達が驚きました。
「惚れた!惚れたぞ!
我は麒麟児を見つけたり!!
泣かせるじゃないか?
6歳の若さで護衛の侍女と仲良くする事を条件にするなんて!…
神憑りの気配りじゃないか?
これぞ、麒麟児だ!
義秀!二人とも嫁に出しても良いぞ!」
護衛の侍女達五名は目から涙を流していました。命掛けで松千代を守る彼女達は松千代の気持ちに堪え切れずに涙が溢れています。
近衛稙家、義秀、ご老公様も松千代の気配りに驚きました。ご老公様が呟きます。
「近衛様、大國魂神社、秩父神社、三峯神社、百済神社、諏訪神社、伊勢神宮の神々から御信託を戴く松千代は見込んだ通り、並の6歳とは違います。我々は大事に育てねばなりません!」
「そうだな、将来の婿殿をしっかり育て方ねばなりませんな?
幕府に見込みが無い時には立花家に立ち上がって貰う時が来るかもしれぬ…
これは三人の胸に秘めておきましょうぞ!」
近衛稙家は幕府がダメなら立花家に天下を託す意味を込めています。
立花義秀、猿渡盛胤の二人に朝廷側の重大な決意が伺えた瞬間でした。
やがて近衛家の家臣達が午後からの将軍就任式の支度を始める様に促してきました。
先祖代々、微妙な対立関係にあった足利将軍家の将軍就任式に向かいます。
近衛稙家、立花義秀、猿渡盛胤は複雑な気持ちで儀式の支度を始めました。
朝廷は幕府を立て直して日本を再生させる事に挑みます。
近衛稙家が立花義秀、猿渡盛胤に秘めていた本音を明かしました。




