1546年(天文15年)10月下旬、東福寺から御所へ出立!
10月30日の朝になりました。
この日の夕刻、朝廷主宰で幕府首脳と立花家、同盟大名家を招いた宴席が予定されています。
1546年(天文15年)10月下旬
10月30日の朝を迎えました。
前日は勅使が訪れて賑やかな宴席になりました。翌日も宴席があるのに、立花家が持ち込んだ焼酎、清酒が旨くて、酒が進み、さらには東福寺の漬物や京料理が極めて美味で、やはり酒が進み、泥酔者多数輩出する始末…
早起きの松千代が早朝に大広間に行くと宴席に多数の泥酔者が雑魚寝していました。
「きゃはははは!討ち死に多数!
全滅でござりますー!
さて、どーするかなぁ?」
40名を越える困った大人達がトドの如くイビキをかきながら夢の中にいました。
松千代は護衛の美人侍女五名に指示を出しました。クスクス笑いながら散らばり、やがて数人の小姓達に筆と墨汁を持たせて集まりました。
松千代が先人を切り、泥酔した賓客の顔に落書きを始め、護衛の侍女五名も楽しそうにノリノリで筆を取り、落書きに参加しました。
丸やバツ印、パンダみたいに目の周りだけ黒塗りにしたり、顔全面黒塗り、悪乗りして口紅を塗り始めて、笑いながら、笑いを堪えながら作業を遂行…やがて全員に悪戯すると素早く撤退しました。
松千代は後始末を命じた小姓達に書き付けを渡していました。
❰伊勢神宮の大神様の御告げにて、酒に溺れ、泥酔した愚か者を成敗致した故、風呂に入り身を浄めて本日の朝廷の宴席に備えよ!
征伐総大将、立花松千代!❱
最初に目覚めたのは酒を呑ませたら立花家最強と噂される泥酔軍師、立花将広でした。
「ぶははははは!なんじゃ?
トドみたいに寝てる奴らの顔が、笑えるぞ!ぶははははは!こいつは熊だな?
こやつは猿だそ!これはタヌキだ! 」
ニコニコした小姓が近寄り、鏡を差し出しました。事態を察した立花将広が自分の顔を見ると自分の顔は真っ黒で、さらに口紅が塗られていました。
「ぶははははは!不細工だな?
やられたわ!こんな悪戯したのは誰じゃ?」
先ほど松千代から預かった書き付けを小姓から受け取り、将広は唸りました。
「がはははは!やられた!伊勢の大神様を持ち出して、征伐総大将が松千代ならば仕方あるまい!神様のお叱りと思って風呂に入って身を清めるぞ!」
立花将広が風呂場に消えてからトドになった泥酔者達が次々に起きては笑いながら互いを指指して笑いました。
鏡が渡され、松千代の書き付けを見せられて笑いながら風呂場に向かいました。
人数が多い為、近衛家別邸、九条家別邸の風呂場に分散して入浴させました。
小姓達が酔いが残りふらふらしている賓客達の頭から足先まで全身を石鹸で洗い流し、身を浄めて湯に浸からせます。立花家特産の椿石鹸が芳香を放ち、風呂場には甘い花の匂いに包まれました。
風呂上がりには浴衣に着替え、大型の内輪で風を送り、髪結い師が立花家が用意した鬢付け油で髪を整えます。
甘い香料の匂いが、湯上がりの賓客達を和ませました。
身を浄めた一同は立花家別邸の大広間にて東福寺の料理人が用意した京粥、漬物を堪能しました。食後には最近立花家が生産を始めた二日酔いに効果が高い特製漢方茶がが配られました。
近衛稙家が立花義秀に訪ねました。
「義秀殿、あの風呂場にあった石鹸と髪結い師が使っていた鬢付け油が欲しいのだが?
譲って頂きたいのだが?」
「近衛様、本日の宴席にお届けする献上品の中に大量に用意してございます!
石鹸も鬢付け油も数種類ございます。
お気に入りとあれば年に何度でも献上致します!」
「おぉ!親しき者に配りたいのだ!
それから、食後に出た二日酔いに効き目抜群の特製漢方茶!それも頼めるかな?」
「はい!それでは直ぐに手配致します!
そこでお願いがございます!
献上品を近衛家御用達、朝廷献上品として宣伝する事をお許し願いたいのですが?」
「おぉ!許可いたしましょう!
これより立花家の全ての献上品については好きに宣伝して構いませぬ!毎年数回届く献上品は極上の品故、帝を始め朝廷の公家一同が
楽しみにしております。
御礼の代わりに自由に宣伝なされよ!」
「近衛様!光栄の至り、恐悦至極にございます!」
松千代が提案した献上して価値を高める策がズバリ当たりました。
「さて、立花殿、本日夕刻、立花家及び同盟大名家と幕府の首脳との宴席だが、幕府側に朝廷側の軍事力を見せつける為、東福寺に集結している護衛の軍勢を率いて洛内の繁華街を行軍して貰いたいのだ!」
「はい、ご要望とあらば、喜んでやらせて頂きます!本願寺、大徳寺、東福寺、石清水八幡宮の軍勢が5000、立花家と同盟大名家の軍勢3000、合計8000になります!」
「おぉ、それは頼もしい限り!
それでは道案内の先導役をこちらで用意する故、お任せあれ!
そうだな、まずは清水寺、八坂神社の繁華街から四条大橋を渡り、洛内最大の繁華街から二条城前を通り、御所へ入って貰おうぞ!」
「あっ、あのぉ?二条城前となりますと…幕府側の反応が気になりますが…」
「立花殿、朝廷の背後に寺社の軍事力が味方だと誇示するのが、目的であり、更に多数の宗教勢力を取り込みたいのだ!」
「承知致しました。宜しく御願い致します!」
「それでは支度があるから先に参るが、正午過ぎには出発出来る様に準備を頼むぞ!」
近衛稙家が立ち去ろうとした時に松千代が現れて挨拶を交わしました。
本来なら関係者一同整列して見送りしなければならず、松千代が引き留めます。
「近衛様、関係者一同が挨拶をせねば非礼になりまする!」
「ぬははは!未来の婿殿は利発じゃのぉ!
挨拶は省略じゃ!
楽しき事をやらねばならぬから忙しいでな、先に失礼するぞよ、もう、挨拶など省いて良いのだ!では御所にて会おうぞ!」
忙しく立ち去る近衛稙家に立花義秀、松千代が頭を下げて見送りました。
「お爺!近衛様が二条城前を行軍すると聞こえたけど、幕府の反応がどうかなぁ?」
「刺激が強すぎてはな…良くないよな?」
「先頭に府中囃子で和らげてみる?」
「それでやってみるか?」
「それに美人騎兵を目立たせて和ませる?」
「ぶははははは!それにするぞ!
政家!(鹿島政家)手配しろ!」
「はい!畏まりました!」
時は午前8時過ぎ、東福寺周辺が慌ただしくなりました。
近衛稙家は牛車を使わず、側近と少数の護衛と馬を借りて先を急ぎました。
やがて正午には近衛家が用意した案内役が到着、東福寺から立花家と同盟大名家、護衛の寺社の軍勢が整列して合図を待ちました。
「出立だぁー!合図の太鼓を叩けー!
気合いの声を上げろー!」
ダン!ダン!ダン!
「エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!」
太鼓と気合いの声が合図になり、行軍が始まりました。
近衛稙家が朝廷と立花家の為に奔走しています。朝廷の利益と立花家の利益に配慮しながらも、やはり、朝廷の利益が最優先するのは仕方がありません。
立花家は朝廷の思惑を推測しながら、幕府と適度な距離で付き合う必要がありました。