1546年(天文15年)5月19日、簗田勢帰国!
簗田親子の軍勢が帰国します。
勝者と敗者の違いが刻まれる時が来ました。
1546年(天文15年)5月19日
古河公方家が立花家の同盟大名、高城家の領内へ侵攻して1ヶ月半が過ぎました。
早朝から古河公方家の最後に残された簗田親子の軍勢4000が撤収作業をしています。
捕虜の解放、武器、甲冑の取引が完了した事で帰国が赦されました。
─古河公方家─
─簗田高助、簗田晴助─
「父上、あとひと息まで立花義秀を追い詰めながら、残念至極!
勝利寸前に公方様が捕虜にならなければ…」
「あぁ、無念だが、あの時は公方様が勝手に引き返して来たから勝利に近づいた…今から思えば公方様は無事に帰国出来るのに、我々が立花義秀に挑む事を知り、深井城から軍勢を率いて駆け付けて下さったのだ。
俺は捕虜になった公方様が泥酔して女達と戯れている姿を見て罵倒してしまった。
あれは立花義秀の策略だった!
公方様を解放して先に帰国させたのは離間工作に違い無い!」
「父上、どうしますか?
公方様を隠居させて政孝殿を跡目になさいますか?」
「まずは関宿城に戻り、古河城内の様子を探ってからになるが、出来れば血を流さずに済ませたいが…疲れた…傷が疼く…」
「父上、公方様は醜態を晒して多くの者を失望させました。今さら支持する者は少ないと思われます。まずは傷を癒してからに致しましょう」
簗田親子の軍勢は撤収作業を終えて北西へ進み、深井城方面に向かいました。
その背中に向けて立花軍から掛け声が上がりました。松千代が祖父、義秀の許可を取り付けて仕掛けます。
「エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!」
数万名の立花軍の兵士が気合いを込めて簗田勢の背中に向けて浴びせます。
「エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!」
数万の兵士の気合いを浴びた簗田勢は精神的に沈んだに違いありません。
さらに応援歌に移行して太鼓が響きます。
ダダダン!ニッポン!
ダダダン!ニッポン!
おぉーおぉー!にぃーぃっぽぉーぉーん!
にぃーぃっぽぉーぉーん!
にぃーぃっぽぉーぉーん!
にぃーぃっぽぉーぉーん!
ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!
おぉーおぉー!にぃーぃっぽぉーぉーん!
にぃーぃっぽぉーぉーん!
にぃーぃっぽぉーぉーん!
にぃーぃっぽぉーぉーん!
ダダダン!た、ち、ば、な!
ダダダン!た、ち、ば、な!
おぉーおぉー!にぃーぃっぽぉーぉーん!
にぃーぃっぽぉーぉーん!
にぃーぃっぽぉーぉーん!
にぃーぃっぽぉーぉーん!
ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!
おぉーおぉー!にぃーぃっぽぉーぉーん!
にぃーぃっぽぉーぉーん!
にぃーぃっぽぉーぉーん!
にぃーぃっぽぉーぉーん!
数万の兵士が跳び跳ねて歌います。
簗田勢が遠く離れるまで応援歌は延々と続きました。
─大堀川陣営─
─立花義秀、鹿島政家─
「ぶははは!松千代が随分楽しい事をしてるじゃないか?」
「はい、あの応援歌を延々喰らうのは精神的に落ち込むでしょう。松千代様は味方の兵士は楽しませ、敵の兵士には目に見えぬ弓矢の連射を浴びせました。
誠に見事な演出にございます!」
「さて、古河公方、足利晴氏を解放して先に帰国させたが、暗殺や隠居の不安に怯えているだろう。政家、噂の効果はどうかな?」
「はい、既に古河城周辺に晴氏が捕虜になった事や簗田高助との対立の噂を流しております。古河城に簗田高助招いて暗殺する等、偽情報のてんこ盛りにございます」
「ぶははは!てんこ盛りか?
楽しくなりそうだな?
古河公方家は暫く外征する余裕が無いだろうから、こちらは川越の消失した町並みの再建、復興と高城家の領内復興に集中出来るだろう。」
「はい、古河公方家が内輪で揉めてくれたら助かります!」
簗田勢は立花軍の将兵の応援歌を背中に浴びながら進みました。まるで目に見えぬ弓矢の連射の如く背中に、心に刺さりました。
松千代が簗田勢に最後の悪戯を仕掛けました。
味方の兵士の士気を盛り上げ、敵の兵士の心に厳しい現実を突き付けました。