1546年(天文15年)5月16日、大堀川陣営の攻防戦!
大堀川陣営攻略まで後ひと息まで迫りながら、簗田高助が負傷する事態になり、嫡男、晴助が軍勢を率いて駆けつけました。
簗田親子の判断が勝敗を左右する展開になりそうです。
1546年(天文15年)5月16日
簗田高助の胸に刺さった弓矢は急所を外れていました。出血はありますが、鎧の強度に助けられ、傷が浅い事が判明しましたが、古河公方軍の実質的な指導者の負傷に心配が消えません。
「傷の不具合は?」
簗田晴助は父の傷を心配します。
「はい、鎧と楔帷子に押さえられ、僅かに矢の先が胸に刺さりました。
立花軍の矢の先に返しが無く、傷口が小さいので止血は可能でございますが、止まるまでは気が抜けません!」
「そうか、大丈夫なんだな?」
「いいえ、寝かせたまま運ぶ必要がございます!軽い傷ではありません!」
「なんだと?毒は?」
「心配ございません!立花家は毒矢を禁じてると聞いております。この度の戦いで誰も毒矢にやられておりません!」
「そうか、毒の心配が無いのだな。
しかし困ったぞ!撤収するしかないのか?
こちらから近いのは東に高田城、松ケ崎城、北西に深井城だが、どうするか?
東へは今さら戻れぬ…深井城方面から北へ抜けるか?…」
父、簗田高助を生還させる為の判断を迫られました。
「敵襲!敵襲!
大堀川陣営から騎兵が向かって来ます!」
見張りの兵士が警戒を呼び掛けました。
簗田親子の軍勢に緊張が走りました。
「晴助!俺の軍勢が囮になる!
お前の手勢は大堀川陣営を攻撃しろ!
立花義秀を討ち取れ!」
治療中の高助が苦痛に耐えながら指示を伝えました。
「父上!それは出来ません!」
「敵に援軍が来る前に立花義秀を討ち取れ!
今しか無いぞ!」
簗田高助は側近が止めるも起き上がりました。
「俺なら平気だ!馬に乗れるぞ!
今、立花義秀は古河公方家を采配している俺の命を狙っているのだ!
俺が囮になり、敵の軍勢を引き付けてる間に晴助!お前が立花義秀を討ち取って参れ!」
「承知致しました!父上!
行って参ります!」
嫡男、晴助の軍勢が立花軍、大堀川陣営に向かいました。
簗田高助は盾兵を前列に配置して立花軍の騎兵の襲撃に備えました。将兵達に役割を叫び伝えます。
「敵の騎兵はせいぜい700!
こちらは2000の軍勢だ!
落ち着いて囮の役目を果たすぞ!」
指揮官達が叫びます。
「落ち着いて戦えー!
弓兵は馬を狙え!」
─大堀川陣営─
─立花義秀、鹿島政家─
「殿!敵が二手に別れました!
簗田晴助の軍勢がこちらに向かって参ります!」
「ぶははは!やるじゃないか?
簗田高助が囮になり、息子に我が陣営を攻撃させて刺し違えるつもりか?
切り替えが早いぞ!
まだ簗田高助は生きておる様だ、まずいな、今さら指示しても日奉勢と騎兵達に命令変更は間に合わぬ!」
「その様です。敵も冷静に判断しています。
侮れません!敵に備えます!」
大堀川陣営に緊張が走りました。
そして既に出撃していた日奉宗政の200騎と騎兵500の兵士達は簗田勢が二手に別れた事で迷いが生じていました。
指示された通り、簗田高助を狙うのか?
別れて陣営を狙う晴助の軍勢を攻撃するべきか?迷いがありました。
その時でした。松千代が陣営内の見張台から叫びます。
「宗政ぁー!右旋回だー!迷うなー!」
6歳の子供の甲高い声は戦場に響き渡り、馬上の日奉宗政の耳に届きました。
「右へ旋回だー!大堀川陣営を狙う簗田晴助の軍勢を叩くぞー!」
日奉宗政が叫びます。
日奉勢が右へ旋回します。後続の騎兵500も同じく右へ旋回して簗田晴助の軍勢の腹背に攻撃を始めました。
更に後続の瀧川道真率いる水軍衆500が簗田晴助の軍勢の正面に構えて牽制しています。
「殿!松千代様の声が届きました!
日奉勢、騎兵達が簗田晴助の軍勢に攻め掛かりました!」
「よっしゃ!松千代がやってくれたぞ!
政家!予備の騎兵200を負傷している簗田親父の軍勢に向かわせろ!
牽制するだけで構わぬ、親子の軍勢を合流させては厄介だからな!先手を取り、主導権を握るぞ!」
「はい!承知致しました!」
鹿島政家から作戦の目的を指示され、待機していた騎兵200が負傷している簗田高助の軍勢に向かいました。
簗田晴助の軍勢は大堀川陣営攻撃に向かいましたが、日奉勢200騎、騎兵500に腹背から弓矢の連射を浴びて混乱しました。
更に正面には瀧川道真の水軍衆500が弓矢の連射と火薬玉の攻撃で混乱に拍車を重ねました。
「立花義秀!対応が早いじゃないか!
晴助の軍勢の勢いを止めやがった!」
簗田高助は立花軍の素早い対応に苦慮しました。囮になりはずが、立花軍の騎兵は息子の晴助の軍勢の動きを封じに掛かりました。
目の前には大堀川陣営から騎兵200が移動しながら弓矢の連射を浴びせて来ました。
「前に出るぞ!晴助の軍勢と合流するぞ!」
簗田高助が合流を目指します。
盾兵を前に並べて弓矢を放ち前進します。
立花軍の騎兵は左右に移動しながら合流を阻もうとします。
「我慢だ!敵の弓矢が尽きるまで耐えろ!」
簗田高助の軍勢は多数の死傷者を出しながら耐えました。
やがて立花軍の騎兵の弓矢が尽きて大堀川陣営に戻りました。
「急げ!合流するぞ!」
簗田高助は完全には止血出来ていないにも関わらず、痛みに耐えて馬上から指揮を取り続けました。
その頃、息子、簗田晴助の軍勢は挟撃されて苦戦していました。
しかし、瀧川道真の水軍衆500が弓矢と火薬玉を使い合わせて奮戦していましたが、明らかに疲れが見えました。
立花義秀が弓隊200長槍隊200を使って水軍衆の退避を支援します。
簗田晴助の軍勢を苦しめていた日奉勢、騎兵達も弓矢を射ち尽くして補給の為に大堀川陣営に戻りました。
簗田晴助は追撃せず、挟撃されて乱れた軍勢の立て直しを図り、軍勢を整列させて大堀川陣営を攻撃する事を考えました。
周りを見渡すと戦場に横たわる多数の死傷者の姿がありました。
大半が味方の亡骸と火薬玉の金属片を浴びたら兵士、弓矢が身体に刺さった負傷者です。負傷者は矢を抜けば大量出血の可能性があり、治療が行き渡りません。
あまりに多数の負傷者が横たわり、彼らが痛みに苦しんでいる姿に心が痛みます。
このまま戦いを続ければ立花軍の猛烈な弓矢の射撃、火薬玉を浴びて更に多数の死傷者が予想されます。
戦って大堀川陣営が落ちたとしても、今、ここに居る軍勢の半数が死傷する可能性があります。
大堀川陣営付近一帯に分散した両軍万単位の多数の兵士が戦っている今、戦うべきなのか
迷いました。今さら立花義秀に和議を申し込む術もありません。
そこに父、簗田高助の軍勢が合流しました。
「晴助!どうした?元気が無いぞ!
目の前に立花義秀が居るんだぞ!」
簗田高助は傷の痛みに耐えて馬に乗り、駆けつけました。
「父上!我が軍勢が先陣を切ります!
我が軍勢を盾にして後に続いてくだされ!」
晴助は腹を括りました。
「よし!晴助!
力を合わせ立花義秀を討ち取るぞ!」
簗田晴助が兵士達に叫びます。
「乾坤一擲!立花義秀を討ち取る!
前に進めー!」
「おぉー!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!」
簗田晴助の軍勢が前進を始めました。
簗田晴助が軍勢を率いて再度、大堀川陣営に攻撃を仕掛ます。
戦いは更に激しくなります。




