1546年(天文15年)5月14日、立花将広、猪鼻城の戦いの後始末…そして主戦場へ!
立花将広は千葉家の軍勢を粉砕しました。
早期に柏、鎌ヶ谷方面の主戦場に駆けつける為、後始末を奥住利政と捕虜の武将、佐原宗時に丸投げする事にしました。
1546年(天文15年)5月14日
下総国、猪鼻城の攻防戦で勝利した立花将広と奥住利政は戦の後始末を相談しました。
課題は捕虜の処遇と猪鼻城を維持管理するか、維持を諦め、千葉家に返還するかについて考慮しなければなりません。
─下総国、猪鼻城─
─立花将広、奥住利政─
「利政、猪鼻城はこの先、必要無しと思うがお前はどうだ?欲しいか?」
「無用と考えます。千葉家の領内深くにあり、維持出来ぬでしょう。」
「ならば、捕虜達に丸投げして死者の埋葬から負傷者の手当てまで任せて引き上げれば良いだろう。捕虜の7割が僧兵だから、死者の埋葬から負傷者の基本的な手当ては出来るだろうからな。それから捕虜の中で一番地位高い武将、佐原宗時を臨時城主に任命するぞ!
佐原宗時を呼べ!」
佐原宗時が呼ばれました。
千葉家の仇敵、立花将広と初めて対面します。
「佐原宗時殿、貴殿に猪鼻城を与える!
千葉家には無断で臨時ながら猪鼻城主として働いて欲しいのだ!
千葉家の重臣、原胤長殿が見込んで3000の軍勢を率いて俺の首を狙ったそうだな?
ぶはははは!千葉家に返還するまで、後始末を采配して貰いたい。」
「臨時城主に私が?…」
「そうだ、千葉家に恨みは無し、古河公方家と戦う為、やむ無く戦ったに過ぎぬ、立花軍は千葉家に猪鼻城を返還する故、正式に千葉家が受け取るまで、貴殿に全権を任せる!
どうだ?引き受けて貰えるか?」
「身に余る大役ですが、引き受け致します!」
「良し!それでは総大将、原胤長殿の首級を千葉家に届ける故、貴殿の部下を5名同行させる故、人選を頼むぞ!」
「はい、畏まりました」
「さて、佐原殿、貴殿が本陣の軍勢3000を率いて出撃した後だが、市原城から奥住利政の軍勢8000が本陣を囲み、原胤長殿を討ち取り、勝敗が決した訳だが、市原城から古河公方家配下、下総公方領内を通過して猪鼻城に到着した理由が理解出来るか?」
「まさか?下総公方家は噂通り、宿老の梁田直助殿が立花家と内通しているとか?」
「正式に手を結んだ訳では無いが、下総公方家が8000の軍勢の通過を黙認してくれたから猪鼻城の攻防戦に勝てたのだ。下総公方家と正式に手を結んだ後には千葉家も仲間に加えたい!
下総公方、足利晴宗殿には次期古河公方に就任して頂き、関東の静謐を願っている!
千葉家の方々にも知らせて構わぬぞ」
「立花様、古河公方家の後継者に関わる事等、私の手に余る案件にございます」
「ぶはははは!良い良い、やがてそうなる時を願うばかりだ。聞き流しても構わぬ、後は奥住利政と相談せよ!」
立花将広の側に嫡男、立花頼将、里見家嫡男、里見義弘が控えていました。
立花将広考え方や敵方へ仕掛ける罠を間近に見聞きしていました。
しかし、16歳の里見義弘には不明な事がありました。
「頼将兄さん、奥住勢 8000は市原城から敵方の下総公方家領内を何故無事に通過出来たのですか?」
「それはなぁ、先日の5月11日、立花家、上総公方家、里見家、下総公方家と古河公方家の駐留軍兵士と常陸国の捕虜達が敵味方の枠を越えて相撲合戦で交流しただろう。
その時以来、下総公方家の兵士と支援している古河公方家の駐留軍兵士達から戦意が消えた。相撲を通じて酒を酌み交わし、夢を語ったら互いの敵意が消えた様なのだ」
「頼将兄さん、私は初陣から立花将広叔父様と頼将兄様に教えを受けて恵まれております。
これで、古河公方家と千葉家から下総公方家は微妙な状況になりましょう。」
「それだけじゃないぞ、父上は大掾正興殿と常陸に帰国する軍勢を利用して、古河公方家に戦の報酬問題を仕掛けているからな、信用に関わる闇を開く事になりそうだ」
「はい、大掾正興殿が真相を暴くと古河公方家が揺れそうな気がします」
「おい!奥住利政と佐原宗時に任せて幕張城へ出発するぞ!」
立花将広が二人を催促します。
夕刻になりましたが、立花将広は軍勢を纏めて8キロ先の幕張城に向かいました。
日没後でも幕張城に到着していれば明朝には柏、鎌ヶ谷方面の主戦場に到着可能になります。
猪鼻城から2時間で到着する距離です。
日没に備え、篝火が要所に設けられ、松明を用意して行軍します。
里見義弘は馬に揺られながら立花将広に聞きたかった事を質問します。
「将広叔父様、本日の戦いで、叔父様の軍勢は四つに別れて行軍なされて柏、鎌ヶ谷方面を目指して行軍しました。
猪鼻城に吉良家の軍勢2000を残したのは深い理由があるのでしょうか?」
「あれはな、通常なら立花家の直臣を猪鼻城に残すべきだろう。しかし、吉良頼貞殿から吉良勢に任せて欲しいと申し出て来たから了承した。猪鼻城に吉良家の軍旗を掲げた喜多見忠勝が残り、千葉家の総大将に深読みさせたのだ」
「深読みですか?」
「千葉家の総大将に吉良家の軍勢を守備に残した意味を深読みさせたのだ。
吉良家の守備兵を見捨てずに立花家の援軍が現れると思わせ、手出ししたくなる状況にしたのだ。千葉家の総大将は立花家の援軍を叩く策を実施する。
こちらは敵の総大将が想定しない手段で背後から襲って勝利したのだ!」
「将広叔父様、まだ16歳の私には難しい手筋の詰み将棋みたいです」
「ぶはははは!まるで詰み将棋だな!」
「はい!自分は叔父様みたいに手筋が読める武将になります!」
「ぶはははは!嬉しい事を言うじゃないか!
里見家の未来は明るいぞ!」
日没後の午後19時過ぎ、立花将広の軍勢は幕張城付近に到着しました。
幕張城に先着していた同盟大名家、吉良頼貞が率いる軍勢が幕張海岸の砂浜に篝火、松明を揃えて夕食の支度を整えていました。
数キロに渡る海岸一帯に篝火が美しく周りを照らします。
吉良頼貞から立花将広に周囲の状況に付いて報告がありました。
猪鼻城から先行した新納忠義の軍勢7000と常陸国僧兵3000は津田沼城周辺に布陣しており、新納忠義から鎌ヶ谷城の立花義國と連絡が繋がり、猪鼻城攻防戦の大勝利と立花将広の軍勢の到着を報告済みと、知らせが入りました。
─幕張城付近、幕張海岸─
─立花将広、吉良頼貞─
「叔父上、柏、鎌ヶ谷方面の戦況ですが、4月上旬に古河公方家の軍勢が柏城付近一帯と流山城付近に進攻して以来、一進一退の攻防が続き、立花義國殿が援軍に到着、昨日13日には義父上(立花義秀)の軍勢が松戸城に到着なされ、流山城周辺を奪回された様です。」
「おぉ、兄上(立花義秀)が到着したなら安泰、まぁこちらは脇役に徹するぞ!」
「叔父上、5月10日に佐津間城の攻防戦にて
次席宿老、本多広孝殿が亡くなられたそうです…」
「なんだと?広孝が?…」
「はい、激しい戦いの末、義國殿が援軍に駆けつけたそうですが、義國に看取られてお亡くなりになったそうです…」
「そうか、4日前に天に召されたか…
本多広孝…なんと惜しい人物が…
残念だが、前を向くぞ!
どうやら、主戦場の戦いは房総半島の戦いとは厳しさが違うようだ。
気合を入れ直す!
焼酎だ!早く持って参れ!」
立花将広の癖を知る吉良頼貞は既に用意していた焼酎を差し出して、揚芋
漬物を酒の肴に出しました。
「頼貞殿、気が利くじゃないか、ぶはははは!、昨日、猪鼻城に籠城する軍勢を任せて欲しいと提案してくれた時に千葉家の軍勢を釣り出して勝てると確信したぞ!
新納勢を猪鼻城に残すつもりであったが、吉良勢を残した意味を千葉家の総大将、原胤長に悟らせた。
猪鼻城に手を出せば、立花家の娘婿の軍勢を見捨てる訳が無いと考えさせたのだ!」
「いや、吉良家は立花家に助けられて無ければ古河公方家に滅ぼされておりました。
2年前、古河公方家は江戸太田家、岩槻太田家を誘い、立花家と大國魂神社が管理する品川城と品川湊を奪い、吉良家の領地を全て奪う事を企てました。
叔父様が我が吉良家、世田谷城にお越しになり、江戸太田家、岩槻太田家を説得されて吉良家、江戸太田家、岩槻太田と同盟を組んで企てを潰して頂きました」
「まぁな、立花家も同盟が成立しなければ確実に滅んでいたからな、あの時は崖っぷちだった…」
吉良頼貞は思い出話に持ち込み、周りに立花頼将、里見義弘や側近を招いて本多広孝の事を忘れさせ、普段の明るい泥酔軍師、立花将広に引き戻しました。
─高城領、鎌ヶ谷城本陣─
─立花義國、東郷信久─
この日、立花義國が任された主戦場の中央から東部方面にて、進展は無く、東部の要衝、小野田城を狙い、立花義弘、伊集院忠久、高城義春の9000の軍勢で接近しますが、古河公方軍も宇佐美勢、綾部勢7000の援軍を派遣した為、攻略に至りません。
日没後、父、立花義秀の軍勢は流山城、花輪城を攻略しましたが、深井城、不快湊の攻略には至らず、古河公方軍と激しい戦いになり、辛勝との知らせが入りました。
そこに朗報として津田沼城に立花将広の房総半島遠征軍、新納勢と僧兵の軍勢10000が到着したと急報が入りました。
さらに、猪鼻城の攻防戦で千葉家の軍勢を破り、立花将広の本隊19000が幕張城に到着したと急報が入りました。
「やったぞ!信久、叔父上が房総半島を駆け抜けて到着!29000の大軍だぞ!」
「はい、里見家の反乱に乗じて介入した千葉家と常陸国の軍勢を破り、房総半島を縦断、連戦連勝の泥酔軍師、これで安心でございます」
「まさか、房総半島を駆け抜けて来るなんて想像してなかったぞ!
信久、伝令だ!全軍に!伝えろ!立花将広の軍勢が里見家の反乱を平定、千葉家を粉砕して房総半島を駆け抜けて40000の軍勢を引き連れ津田沼城に到着!
少しだけ大袈裟に伝えろ!」
「はい、敵方にも伝わる様に手配致します!」
東郷信久が明るく答えます。
鎌ヶ谷城本陣が明るくなりました。
─高柳城、古河公方軍本陣─
─梁田高助、野田弘明─
深井城と深井湊を守り切り、立花義秀の軍勢に善戦した事で本陣には良い雰囲気が流れていました。
しかし、深夜になり津田沼城、幕張城付近に大軍が到着との知らせが入り、さらに立花将広の軍勢40000が到着したと間者から複数の報告が入りました。
宿直の側近が驚いて眠っていた梁田高助に知らせました。
梁田高助は野田弘明を呼び出して知らせます。
「おい、弘明、聞いたか?信じられぬが、房総半島から立花将広が千葉家の軍勢を破り、津田沼城から幕張城にびっしりと大軍を率いて来たらしいぞ。40000の軍勢との情報だがな、あり得ぬ、下総公方家の小弓城が防波堤になり、千葉家の軍勢が弓になり槍になり、通過出来ぬはずだ!
負ける訳無かろう!」
「はい、梁田様、千葉家と下総公方家、常陸国の軍勢が里見家の反乱に介入しましたが、苦戦して撤退した事は伺いました。
しかし、下総公方家領、千葉家の領地を強硬突破して来るなんて信じられません!
まさか、下総公方家が噂通り、手引きしたのかもしれません!」
「馬鹿な!下総公方家の筆頭宿老は俺の弟だぞ!直助が裏切る事は無い!」
「まず、立花将広の軍勢が半分の20000でも厄介です。
梁田様、対策を考えましょう。
間者を増やしてさらに情報が必要です」
「わかった!頭を冷やす!
伝令!津田沼城、幕張城付近の立花将広の軍勢を調べろ!急げ!」
古河公方軍の本陣が深夜に慌ただしくなりました。ある程度互いの兵力を把握しないと対策が取れません。
立花将広の存在が台風の目になりそうです。
梁田高助は立花将広の軍勢が現れて動揺しました。立花将広の軍勢の活躍が期待されます。