1546年(天文15年)5月14日、立花義秀の窮地に松千代の援軍!
松千代の護衛に付けられた瀬沼信勝は立花家の宿老の嫡男、、藤原家長、日奉宗政は立花家創業以来の一門の名家出身です。3名は先月、川越上杉家との戦いに松千代と供に300騎を率いて川越方面に駆けつけて何度も戦功をあげています。
1546年(天文15年)5月14日
─江戸太田領、東松戸城─
この日の松千代は早朝に祖父、立花義秀が鎌ヶ谷の父、義国の本陣へ軍議に向かうのを見送り、軍議を終えた祖父、義秀は東松戸城に戻ると直ぐに軍勢を率いて深井城攻略へ向かいました。出発前に義秀に抱きついて挨拶を交わして見送りました。
松千代は別れ際に不安を感じて油断しない様にと義秀に伝えました。
祖父、義秀の軍勢を見送り、暫くすると慌ただしい日々の疲れから眠くなり、城内の居室で仮眠を取りました。
松千代の側には自慢の美人侍女が武装して警護しています。
松千代は府中城から武蔵国北部、岩槻太田領内の戦いに関わり、昨日は江戸川を渡り下総国、東松戸城に到着しています。
長距離を移動して6歳の幼い体に疲労が蓄積していました。
やがて疲れて眠る夢の中に府中、大國魂神社の大神様が現れ、義秀の軍勢の弓矢が不足して苦戦するから弓矢を届けるように告げられました。大神様は松千代を大空に誘い、江戸川河川敷の義秀の本陣の上空に到着して弓矢を運ぶ場所を示しました。
敵の攻撃を受けて窮地に陥ると告げられ、松千代の目が覚めました。
目覚めた松千代は護衛の侍女に大國魂神社の大神様から夢でお告げを貰った事を伝え、侍女を通じて義秀から護衛に付けられた瀬沼信勝、藤原家長、日奉宗政を呼び出しました。
「先ほど、大國魂神社の大神様に義秀お爺の軍勢が、弓矢が足りないから弓矢をとどけよ!と夢のお告げを頂きました。
お爺の軍勢が攻撃される!
急いでたくさんの弓矢を集めるから、瀬沼の信にぃ!皆で手伝ってほしい!」
松千代が瀬沼信勝に頼みます。
「松千代様、大神様のお告げに従います。
早馬を出して周辺の城からかき集めます!
こちらの東松戸城、小金城、松戸城、鎌ヶ谷城辺りから集めます!」
「待って、信にぃ!時間が無い!
間に合わなければお爺が危ない!
こちらの東松戸城と松戸城と松戸湊の弓矢を集めて松戸湊から水軍の将兵、渡船に兵士を乗せて花輪城付近、江戸川河川敷のお爺の本陣に向かう!
水軍の統領、瀧川道玄に至急伝令だ!
動員出来る限り多数の兵士と弓矢を江戸川から遡上して移動する!
それから信にぃ、松戸湊で長さ5間(9m)の縄を30本以上多数欲しいと水軍統領、瀧川道玄に伝えてね。
それから、お爺の軍勢に一番近い小金城の畠山勢に弓矢の補給と騎馬隊の支援を頼んでほしい!
皆で手配を分担してお爺の軍勢を助ける!
信にぃ!頼む!」
「松千代様!承知致しました!
直ぐに手配致します!」
護衛を任された3名には松千代が神様からのお告げを受けたら全て松千代に従って行動するように義秀から命じられていました。
松千代の指示に従い、3名は分担して様々な手配に走りました。
松千代が滞在する東松戸城が慌ただしくなりました。場内に備蓄された矢羽、矢筒、輸送する馬が集められ、各地に伝令が走りました。松千代は支度を急ぐと瀬沼信勝、藤原家長、日奉宗政、護衛の侍女5名と騎馬200を率いて松戸湊に向かいました。
東松戸城から松戸湊までは5キロ、騎馬では僅か30分で到着します。
松千代を向かえる兵士達が歓迎の掛け声をあげます。
「エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!」
「松千代様!大國魂神社の大神様のお告げならば水軍の将兵は命を掛けて松千代様に従います!ご用命の弓矢、矢羽を多数確保しました。長さ5間の縄50本、弓矢を扱える兵士を800、騎馬兵100が乗船済みでございます!」
水軍統領、瀧川道玄が笑顔で歓迎しました。
「道玄統領!水軍兵士の皆さん!
正義の為に皆さんの勇気と協力が必要です!皆さんの力を貸して下さい!
よろしくお願いいたしまーす!」
松千代が声を振り絞り気持ちを伝えました。
「やるぞー!松千代様の為に出撃だー!」
水軍統領、瀧川道玄が叫びます。
「エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!」
水軍兵士達から気合いの掛け声があがりました。
出撃の銅鑼が鳴り響き、大型渡船10隻、中型渡船20隻、中型水軍船20隻、小型水軍船20隻に分乗した軍勢が出撃しました。
瀧川道玄が用意した戦力は弓兵800、松千代の率いる200騎を合わせて1000の軍勢が江戸川を遡上します。
目的地の立花義秀の本陣まで10キロ、帆を掲げ、漕手付きの渡船と水軍の速度で1時間で到着します。
松戸湊から早馬を走らせ、義秀の本陣に援軍出発を知らせに向かわせました。
─江戸川河川敷、立花義秀本陣付近─
弓矢の不足が判明、立花義秀の本陣に衝撃が走りました。各部隊に予備の弓矢が不足が伝えられ、無駄使いを控える通達がありました。
弓矢の連射が控えられた事で膠着状態から真言宗勢が優勢に傾きました。
「押せー!押し込めー!」
真言宗勢の将校達が叫びます。
弓矢の圧力が低下すると棍棒や金棒を振り回す蒼龍部隊の勢いが抑え切れなくなりました。騎馬隊を率いていた義秀は周囲の兵士に狙いを敵の将校に狙いを絞らせました。
しかし、弓矢の連射が止まり、脅威が収まると、真言宗勢は将校の周りに盾を集めて防御を固めました。
弓矢の効果が弱まり、義秀は騎馬隊の攻撃力に見切りをつけます。
「本陣に戻るぞー!
各部隊は本陣を警護しろ!」
義秀の声に従い、騎馬隊が本陣へ戻ります。
「殿ぉー!!」
義秀の無事な姿を確認した鹿島政家が安堵した顔を見せました。
「すまん!政家!弓矢が足りぬ!
先ほど追加で深井城に向かわせた3000の軍勢に多量の弓矢を持たせてしまった!
俺の失態だ!」
「殿!深井城方面と小金城に早馬が到着してるはずです。四半刻(30分)で深井城方面から援軍が到着します!
小金城からも半刻(60分)で騎馬隊が参りましょう!後一息耐えれば大丈夫です!」
真言宗勢が東から7000、南から4000の僧兵部隊が挟撃して来ます。
義秀の軍勢6000は押し込まれます。
次第に本陣近くに棍棒や金棒を振り回す蒼龍部隊の2000の軍勢が接近してきます。
状況は真言宗勢が優勢な状況になりました。
そこに小金城から早馬が到着しましす。
早馬の使者から松千代からの指示で予備の弓矢を携え、騎馬隊2000がこちらに向かっていると報告がありました。
「何ぃー?松千代の指示で援軍?」
「殿、これで少し耐えれば大丈夫です!」
「殿ぉー!松千代様からの早馬が到着しましたー!」
「使者を通せー!」
義秀が叫びます。
駆け込んで来た早馬の使者は大音声で報告します。
「申し上げます!松千代様が間も無く水軍の船に乗り、軍勢1000を率いてこちらに到着致します!
軍勢は弓兵800!騎馬200!さらに予備の弓矢を多数用意しております!」
「何ぃー?松千代が?
江戸川を登って援軍を率いて来るのか?」
「はい!松千代様が大國魂神社の大神様にお告げを頂いたそうでございます!」
「よっしゃー!政家!各部隊に間も無く多数の援軍が来ると伝えろ!
早馬の使者殿に換え馬を与えろ!
使者殿に数名の騎馬兵を付けて江戸川から来る松千代達を迎えに行ってくれ!」
「ははっ!手配致します!」
劣勢な立花軍は押されながら、松千代の援軍が到着すると聞いて奮い起ちました。
やがて江戸川に龍魂の軍旗と立花家の黄金菊の軍旗を掲げた水軍の軍船、渡船が現れました。
「松千代様の援軍が来たぞー!
龍魂の軍旗、立花家の軍旗!
援軍到着!奮い起てー!」
立花家の将校達が兵士達を鼓舞します。
松千代が率いて来た軍勢が次々に上陸、隊列を組むと義秀達の本陣へ向かいました。
「援軍到着!松千代様の援軍到着!
押し返せー!」
立花家の将兵達が叫びます。
「うぉーぉー!押し返せー!」
立花家の軍勢に勇気が湧きました。
「殿!松千代様が見えます!
瀬沼信勝に抱えられて馬でこちらに参られます!」
「お爺ぃー!!」
松千代の声が戦場に響きました。
「エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!
エイ!トウ!エイ!」
将兵達が松千代を歓迎して声をあげました。
水軍の弓兵800と松千代が率いる200騎が戦場に到着しました。
多数の弓矢を持ち込み、立花軍に弓矢が配られ、松千代は瀬沼信勝の馬から降りて義秀の胸に飛び込みました。
「お爺!大國魂神社の大神様がお爺が困ってるのを教えてくれたから、たくさんの弓矢と兵士を連れて来たよ!」
「松千代!弓矢が足りずに困っておったのだ!
良くぞ届けてくれた!
大神様に感謝!戦が終わったら大國魂神社にお礼に参らねばならんなぁ!」
義秀は喜びますが、挟撃されて劣勢な状況は続いています。
弓矢の補給を受けた立花軍が少しずつ持ち直しますが、本陣近くに迫っていた蒼龍部隊の進撃を止められません。
深井城方面に向かった3000軍勢はまだ戻らず、期待した援軍が来ていません。
義秀は松千代を身を守る事を考えました。
「瀬沼信勝!松千代を後方に下げろ!」
「お爺!待って!あの蒼龍部隊を分断するよ!
信にぃ!準備出来たかな?」
「松千代様、準備出来ました!
殿!川越城の攻防戦で使った仕掛けにございます。2頭の馬に5間(9m)の縄を巻き付けて走らせ、1間(約180cm)の長さの縄の間に兵士を引っ掻けて敵の軍勢を混乱させます!」
「ぶははは!わかったぞ!
あれは先月、稲荷山砦を巡る戦いで松千代が政家(鹿島政家)を救出した時の仕掛けだな!
よし!信勝!頼んだぞ!」
「ははっ!」
瀬沼信勝が手をあげて合図をすると50組、100頭の馬が騎手に促されて移動を開始します。真言宗勢の最前列、蒼龍部隊2000の軍勢に接近すると次々に馬の尻を叩き、放馬させると暴れ馬となり、蒼龍部隊の隊列に突入すると次々に兵士をなぎ倒して暴れました。蒼龍部隊が馬に殴りかかると殴打された馬が暴れてさらに暴走、蒼龍部隊が大混乱となりました。
「今だ!接近して弓矢の連射だー!」
義秀が叫びました。
劣勢だった立花家の軍勢が息を引き返す様に反撃に転じ、弓矢の集中連射、騎馬隊が蒼龍部隊に接近して弓矢の連射を浴びせました。
本陣手前に肉薄していた蒼龍部隊に死傷者が続出、蒼龍部隊が後退を始めました。
その時、南から小金城方面から畠山忠國が派遣した騎馬隊2000の援軍が到着、真言宗勢に弓矢の連射を開始しました。
「畠山勢が加勢に来たぞー!
押し返せー!」
立花家の将校達が一斉に叫びます。
「掛かれー!討ち取れー!」
形勢逆転、真言宗勢の慈恩は全軍に撤収を命じました。流れは一気に立花軍の優勢になりました。慈恩が率いて来た7000の軍勢は北東方面に退却、慈玄が率いて来た4000の軍勢は東に向かい退却しました。
義秀の軍勢は慈恩の軍勢を追撃、畠山勢は慈玄の軍勢を追撃しました。
真言宗勢は立花義秀の本陣へ肉薄するほど勝利寸前まであと一息に迫りましたが、松千代の援軍と畠山勢の援軍到着が決定打となり、敗走する事になりました。
立花義秀は30分ほど追撃すると、深追いを避けて追撃を停止しました。
退却する真言宗勢に向けて、立花家の兵士達は勝鬨をあげました。
深井城方面に追加で派遣した軍勢3000は義秀からの帰還命令を受けた時には曹洞宗勢と戦闘状態に有り、連絡を受けて帰還しましたが、真言宗勢が退却を開始した直後にようやく到着、追撃に参加するも、大きな成果をあげる事はありませんでした。
この結果、松千代が大國魂神社の大神様からお告げを受けなければ、義秀の軍勢は負けていた公算が高まりました。
─立花義秀、鹿島政家─
「政家、大神様のお告げと松千代の機転に救われたぞ!」
「はい、松戸湊の水軍なら大量の弓矢を保有しています。水軍の弓兵なら上陸しても弓矢で戦いに参加出来ます。船で遡上すれば陸より早く到着出来ます!弓矢も大量に届けて頂きました。松千代様の判断力にはおそれいりました」
「勝ったとも言えぬ、撃退したが、死傷者が続出しており、この先の展開は難しくなりそうだぞ」
夕刻になり、深井城方面からの戦況が判明、深井城の攻略はならず、敵の援軍曹洞宗勢の支援があり、痛み分けに終わった事が知らされました。
「政家、俺は一気に深井城と深井湊を1日で攻略出来ると安易に考えていた。
甘かった…深井城を攻撃した佐伯勢も死傷者が多数となった様だ…
明日の攻撃は控え、待機を命じる」
「はい、手配致します」
「明日は我が軍勢もこの地にて待機、兵士を休息させるぞ!」
「はい、各部隊に通達致します。」
「それから、鎌ヶ谷城の義國へ伝令を出せ!
こちらの戦況を義國に伝えろ!」
「はい、手配致します」
鹿島政家が即座に対応します。
そこに松千代が現れました。
「お爺、古河公方軍は今まで弱いと感じてたけど、段々強くなってるょ。
簗田高助の作戦が常に進化してるね。
甘くみたら危なくなって来たょ」
「そうだな。今日は甘く見ていた俺が悪かった。反省してるぞ。」
「お爺、昨日は父上(立花義國)の軍勢が多数の死傷者が出たし、今日はお爺と佐伯勢も多数の死傷者が出たみたい。
損耗率が2割越えてるかも?
それは古河公方軍も同じく厳しい損耗率だと考えると、和議もありかも?」
「うーん、損耗率かぁ、2割越えてる恐れがある、3割に近い恐れさえある…
そうだな、このまま戦いが長引くのは互いに損なのは明らか…わかった。
和議も考慮するぞ」
夜になり、立花義秀の軍勢6000の内、死傷者2000、33パーセントの損耗率が判明します。
立花軍の継戦能力に暗雲が立ち込めました。
大國魂神社の大神様が松千代を通じて立花義秀を救いました。
真言宗勢を撃退しましたが、立花義秀の軍勢は大きな犠牲を払いました。
果たして明日からの展開は?