1546年(天文15年)5月11日、立花将広の罠!?
立花将広の罠?魔術?
泥酔軍師が動きます。
1546年(天文15年)5月11日
古河公方家が創設した下総公方家、足利晴宗の本拠地、小弓城には数日前から上総国、安房国の反乱軍が苦戦中との知らせが届いていました。
前日の夜、敵地、南上総城に立花将広の軍勢数万が到着したと急報が入りました。
翌、早朝には南上総から出発すると市原城に入り、周囲には35000大軍が展開していると急報が入りました。
─下総公方家、小弓城─
─足利晴宗、簗田直助─
「直助?先月、市原の戦いに敗けた時、和議交渉で解決したんじゃ無いのか?
領地は半分割譲したから、もう攻めて来ない筈じゃなかったのか?
立花将広と泥酔するまで呑んで語らったからお前は、もう攻めては来ない!大丈夫だと言っただろう?」
「公方様、先月の和議交渉では、国境の詳細確定作業が完結するまでの期間限定の停戦協定を締結しています。
国境の境界線は確定済みでございます。
停戦期間は終了しており、攻撃されても文句が言えぬ状況でございます。」
「それで、対策はあるのか?敵は大軍だぞ?」
「公方様、立花将広が戻って来たなら勝ち目はありません。
先月、我々の方が兵力が上回り、優位な状況なのに彼らの軍勢に勝てませんでした。
小弓城には5000、隣の鎌取城に一色勢1000、結城勢3000、合わせて9000です。敵は35000の大軍です。
既に千葉家の本拠地、本佐倉城と柏方面に出征した千葉家の軍勢に伝令を出して救援要請を致しました。
小弓城と鎌取城を中心に守りを固め、援軍を待つしかありません。
千葉家の軍勢は僧兵主体の15000が習志野方面に展開しています。
小弓城の西へ4里(16キロ)から5里(20キロ)の距離にあり、連絡が繋がれば、半日かからずに援軍が到着します!」
「そうか、千葉家の本佐倉城からはどれくらいの援軍が来るんだ?」
「千葉家は里見家の反乱軍に援軍を出していましたので、精々4000が限度、支度して来るまでには1日から2日になりましょう。」
「わかった、耐えるしか、無いのだな。」
その時、小弓城に向かって5000の軍勢が接近中との知らせが入りました。
やがて、さらに詳しく続報が入り、古河公方家に雇われた常陸国の軍勢5000が嘆願に現れ、代表者、山入義友が簗田直助との対面を要請している事が判明しました。
簗田直助は小弓城駐留軍の常陸国出身の武将、大掾正興を同席させて山入義友と対面しました。
山入義友は常陸国の最大勢力、佐竹家の血縁と名乗り、筋骨隆々、大柄な体格で精悍な目付きの青年です。簗田直助を前に臆する事無く要望する内容を語り、立花将広から支援を受けて房総半島を巡り、小弓城まで到着出来た事を語り、常陸国の軍勢の嘆願書と立花将広からの書状を提出しました。
二通の書状に目を通した簗田直助は唸りました。常陸国の軍勢の嘆願書は古河公方家が約束した賃金や手当て等の未払いの報酬の支払いと、安全な帰国の保証と、食事や寝泊まりの提供を嘆願する内容です。
立花将広からの書状には、立花家が捕虜にした常陸国の軍勢に与えた食事、酒、帰国の支度金の目録一覧、3500貫(3億5千万円)が計上されていました。
立花将広から下総公方家に対して回答を求めました。
─立花将広の要求内容─
立花家は常陸国の捕虜に食事や酒を与え、帰国の旅費にひとり300文(3万円)を与えて小弓城まで引率して来た事は、神様に与えられた命を尊いと思い、武門の家の信義として、彼らを無事に帰国させたいからである。
下総公方家は彼らの要望を受け入れて古河公方家に代わり、報酬を立て替え、支払いに応じる事。
衣食住の世話を行い、利根川を渡り、帰国するまて支援する事。
彼らの要求を拒否した場合、立花家は彼らに使った経費の全額を下総公方家の資産から強制的に接収する。
二通の書状に目を通した簗田直助は恐怖を感じました。
古河公方家に従う筈の常陸国の軍勢が、立花将広と結託してる様に見えます。
代表者の山入義友が常陸国最大勢力の佐竹家の血縁と名乗る以上、配慮が必要となります。簗田直助は大掾正興と山入義友の二人を残して対面の席を離れました。
対策を練る時間稼ぎと、常陸国の出身同士の大掾正興、山入義友に話しをさせて情報を探るのが、目的です。
簗田直助は下総公方、足利晴宗に二つの書状を見せました。
「直助!先月、味方の佐竹義廉は立花将広の軍勢に寝返ったじゃないか?佐竹の血縁なら怪しいぞ!
常陸国の軍勢は既に立花将広と繋がってるんじゃないのか?」
「公方様、確かに先月の戦の最中に佐竹義廉の軍勢は立花将広の陣営に寝返りました。
本国の若き当主、佐竹義昭は15歳ながら、潔白を証明する為、自ら古河城に出仕しています。事実上の人質状態です。
佐竹家の本国は裏切を否定しております。
代表者の山入義友と常陸国の軍勢を粗末には扱えません。」
「それなら直助はどーするつもりだ?
この様な要求を飲むのか?
完全に両者が結託した脅しであろう?」
「立花将広の罠です。
山入義友と常陸国の軍勢が結託しているか否かは不明です。
立花将広の真意がまだ掴めませんが、我々を翻弄して柏方面の古河公方軍本隊から千葉家の軍勢15000を引き剥がすのが第一の狙いにございます。
立花将広の軍勢は1ヶ月も房総半島を転戦して疲労している筈です。
本気で小弓城を攻撃する気があるのか探る必要がございます。」
「それなら、立花将広と対面するしか無いだろう?会いに行くつもりか?」
「はい、本人と会うしかありません。
敵の軍勢が戦える状態なのか確かめて参ります。」
簗田直助は、対面の席に戻り、山入義友には即答が出来ぬ事を告げました。
その代わり、城外にて常陸国の軍勢に昼食を用意する事を約束しました。
さらに、立花将広の陣営を訪ねて対面した後、夕刻には回答する事を約束しました。
「承知致しました。但し、ついでに夕食の提供も約束して頂かない限り、我が軍勢は納得しないと思われますが?如何でございましょうや?」
山入義友が堂々と夕食の要求をしました。
「ぶはははは!承知した!裕福な立花家と違い酒は出せぬ事は承知なされよ!」
簗田直助は強気な山入義友に夕食まで約束するしかありません。
酒を要求される前に先手を打って断るしかありませんでした。
「それでは有り難く夕食を頂きます!」
にこりと笑顔の山入義友は席を離れ、味方の軍勢の陣営に戻りました。
簗田直助は大掾正興に尋ねます。
「どうだ?彼と面識あるのか?
立花将広と常陸国の軍勢は結託していると思うか?」
「初対面にございますが、名前は聞いた事がございます。200程の兵士を預かり転戦していた様です。大多喜城、勝浦城の戦いの末に捕らわれたと申しておりました。
立花家の捕虜の待遇ですが、毎日旨い飯に時折酒が配られたそうです。
立花将広と常陸国の軍勢は結託まで行かずとも、かなり親密と思います。
扱い方を謝ると完全に手を組む可能性がございます。」
「だろうな?先月、和議交渉の折に立花将広と泥酔するまで酒を酌み交わしたら、危うく誑かされそうになったぞ!
あいつは人を誑かす(たぶらかす)のが上手いから気をつけきゃならん!」
「簗田様、今回は更に危険です。
呉々も酒が出ても、呑んではなりません!」
「判った!それではお前も同席して酒が出たら止めてくれ!
俺の酒好きは知ってるだろう。
お前も市原城の明け渡しの際に立花将広と面識があるだろう。
敵ながら凄い奴だからな、俺が呑まされぬ様に頼むぞ!」
「承知致しました。お供致します。」
簗田直助は大掾正興を連れて立花将広の陣営に向かう事になりました。
泥酔軍師、立花将広は人を誑かす?
前回の対面で簗田直助、大掾正興は各々敵なのに立花将広に好感を持っているかもしれません。これからの展開が読めなくなりました。