1546年(天文15年)5月10日、立花義國の涙
本多広孝の旗本勢500を野田弘明の軍勢5000が包囲しました。
立花義國の軍勢は本多広孝を救えるのでしょうか?
1546年(天文15年)5月10日
佐津間城を巡る攻防戦は波乱の展開になりました。簗田高助の率いる軍勢を追撃して勝利を確信した本多広孝の手元には旗本500だけが残りました。
そこに現れた古河公方軍、野田勢5000は一気に包囲して本多広孝の命を狙いました。
その時、立花義國の軍勢3000が包囲されている本多勢を救うべく現れました。
「太鼓を叩けー!連打しろー!
本多勢に援軍が来たと勇気を与えろー!
弓隊!連射せよ!
接近して撃ちまくれー!
長槍隊!左右に散開!」
立花義國が次々に指示を出します。
野田勢の背後から現れた義國の軍勢に野田勢も反応します。本多広孝の旗本を包囲していましたが、一部の部隊に本多勢を任せて立花義國の軍勢に対応します。
「右へ転進!合図の太鼓を叩けー!
義國の軍勢に備えろー!
南へ転進!義國を討ち取るぞー!」
野田弘明が叫び、指示を出しました。
野田弘明は義國の軍勢に馬が少ない事に気が付きました。
義國は手持ちの騎馬隊全てを福島正義に預けて先行させました。彼の騎馬隊は簗田高助の騎馬隊を追撃してこの場から離れています。
「敵の馬は僅かだぞ!
騎馬隊!義國の軍勢に突入せよ!
義國を討ち取れー!」
野田弘明が騎馬隊に期待を掛けました。
野田勢の騎馬隊1000が次々に義國の軍勢に突入を試みました。
野田勢の騎馬隊は50騎がひとつに密集して義國の軍勢に迫りました。
「弓隊馬を狙えー!
長槍隊は槍先揃えろー!地面を叩けー!」
義國が指示を出すと兵士達は騎馬隊が接近しても慌てずに備えました。
弓矢の連射で多数の馬が倒れます。
弓矢の雨を潜り抜けた馬は長槍で地面を叩くと、大きな音が響き、埃が舞い上がります。
殆どの馬は驚いて立ち上がり、乗り手を振り落として逃げ出します。
乗り手の多数が討ち取られ、多数の馬が逃げ出しました。
しかし、全ては止められず、半数の騎馬隊500騎程が義國の首を目指して殺到します。
「若殿を守れー!」
長槍隊200が義國を囲み護衛します。
野田勢の騎馬隊は次々討たれても義國の首を求めて殺到します。
さらに野田勢の長槍部隊が騎馬隊の後から迫りました。
「進めー!押し込めー!」
野田弘明の声が響きます。
野田勢が兵力差で押し込みを計ります。
騎馬隊が義國の目の前まで進出します。
「後ひと押しだー!押し込めー!」
野田勢の指揮官が叫びます。
しかし、義國の軍勢は弓矢の連射で対抗、さらに長槍部隊が立ちはだかり、野田勢の騎馬隊に死傷者が続出します。
そこに追撃から引き返した本多勢の騎馬隊、福島勢の騎馬隊が戻って来ました。
次々に帰還する騎馬隊は1000騎を越え、野田勢に襲い掛かります。
「引き時だ!引き鐘を打てー!
引き上げるぞー!」
野田弘明は次々に帰還する本多勢、福島勢の騎馬隊を見て危険と判断しました。
包囲される前に西回りに高柳城方面に退却を開始しました。
退却する野田勢に義國は適度の追撃を加えると深追いを避けて追撃を停止しました。
しかし、義國の元に悪い知らせが入ります。
本多広孝が重傷との報告が入りました。
「何だと!広孝が?…」
絶句する義國は急ぎ本多広孝の治療現場を訪ねました。
出血が止まらず、血の気が失せた広孝が横になっています。広孝の手を握ると体温が低く冷たく感じました。
「広孝!遅くなった!済まなかった!」
救援が遅れた事を詫びる義國…
「若殿、来てくれて…嬉しゅうございます。
追撃に夢中になり…敵に謀られました。
深く…お詫び申し上げます。」
「広孝、死ぬな!未だお前から学びたい事がたくさんあるぞ!」
「若殿、義國様…もう…立派になられました。
後の事は…若殿の時代に…お父上、義秀様との夢を果たされませ…民の安寧…関東の静謐…
義國様…先に…空から…」
「広孝、逝くな!広孝ぁー!」
義國の願いも空しく、立花家次席宿老、本多広孝は天に召されました。
享年58歳、義國が幼い頃から懐いて遊んで貰った記憶がありました。
府中城から近い、国分寺城主の本多広孝の領地へ遊びに出かけ、クワガタ採集や、野川の清流で鮎やウグイ釣り、鷹狩り等の相手をしてくれた事等、楽しい日々の事が思い出されて涙が止まりませんでした。
立花義國が幼い頃から懐いていた次席宿老、本多広孝が息を引き取りました。
あと少し早く戦場に到着していれば救えたかもしれず、義國は大きな悲しみを抱えました。