1546年(天文15年)5月1日、鉢形城攻防戦2日目
城下町の延焼は拡大しています。
夜が開けても被害が広がりました。
ついには鉢形城内、連雀曲輪に飛火してしまいました。
放火した事を利用した立花義弘の策を児玉勝長が沈静化の策で返します。
1546年(天文15年)5月1日
夜が開けても鉢形城の城下町は燃え続けていました。
早朝から城を囲む寄せ手から大音声で城下町を放火させた藤田友綱、実行犯として阿佐美信隆を追及する声を浴びせました。
多数の矢文が放たれた城内には城下町の放火の顛末が書かれていました。
矢文の内容は兵士の間に広まりました。
鉢形城内部では指示した当主、藤田友綱への不信感と実行した阿佐美信隆を民を裏切る行為だと囁かれ、士気が下がりました。
さらに悪い事に城下町の炎が連雀曲輪に燃え移り、延焼している事でした。
火災旋風により飛火して連雀曲輪の防御施設
が次々に燃えて消火不能の状態になりました。
─阿佐美信隆─
「不味い事になった。
軍勢と火災の挟撃を企んだ結果、俺は殿様に汚名を着せてしまった上に、城下町の大半が焼けて、さらに鉢形城の連雀曲輪に延焼させてしまった……立花軍に放火の罪を着せるつもりが先手を打たれてしまった。
生きて恥を晒すより、死ぬ事で詫びるしかない……」
─藤田友綱、児玉勝長─
「勝長、矢文の事を聞いたぞ!
俺が指示してないのに、俺が城下町の放火を命じた事になってるじゃないか?
阿佐美信隆の奴!勝手に放火するとは酷いじゃないか?」
「殿、落ち着きなされ!
私が命じた事にしましょう。
城内を落ち着かせる為、城内に布告します。
児玉勝長が命じた城下町の放火は敵方の総大将、立花義弘を包囲殲滅する為にやむ無く命じた事にします。
阿佐美信隆には激励の伝令を送り、彼の行動を評価する事にします。」
「勝長!それでは奴の暴走を認める事になるじゃないか?」
「殿、悪者が私になれば良い事、城内の士気に関わります。放置すれば阿佐美信隆は自害する恐れがあります。
追い詰めてはなりません!」
城内には直ちに布告が成されました。
城下町の放火は宿老、児玉勝長の発案で阿佐美信隆に実行させたと公表しました。
阿佐美信隆には当主、藤田友綱から激励の書状を与え、城下町の放火について追及しませんでした。
─阿佐美信隆─
伝令の使いから書状と口頭で藤田友綱と児玉勝長からの激励の言葉を受けました。
「殿…児玉様…なんと寛大な?」
大失態を叱らずに、戦う姿勢を褒めてくれた主君と宿老の気持ちに涙が溢れました。
城内で布告された情報で城兵達はある程度落ち着きましたが、当主か宿老のどちらかが命じた結果の放火であり、支配者と使用される側の不信感は拭い切れませんでした。
城下町に放火した結果、城内の兵士達の士気は確実に下がりました。
城内の間者から秩父藤田に情報が入りました。城下町を放火した結果、城兵達の士気が下がり、当主や宿老への信頼が薄れた事が判明しました。
秩父藤田家から立花義弘に情報が伝えられました。
─立花義弘、福島正義─
「やったぞ!向こうも対策を講じた様だが、成果はこちらに軍配があがったぞ!」
「義弘様、次に何か策をお考えですか?」
「有るぞ、連雀曲輪に延焼した火を消してはならぬ、長弓で火矢を放ち、さらに燃やしてやるか?」
「長弓なら最大の飛距離は凡そ4丁(436メートル)ですが、火矢となれば半分の2丁(218メートル)から3丁(327メートル)の距離が精一杯になりましょう。」
「ぶはははは!それで十分だ!
長弓と他にも弓自慢の者に命じたら面白いじゃないか?連雀曲輪には我が軍勢と福島勢から選抜した兵士に火矢を撃たせる!
南の藤田康邦殿の軍勢に、大光寺曲輪に火矢を浴びせる様に手配せよ!
燃えやすい場所に狙いを定めて実行だ!」
「はい!手配致します!」
「鉢形城全部を燃やすつもりは無いからな、
一部を延焼させて防御力が墜ちた場所から突破するのが目的だ!
その他の軍勢には火矢を放つ事を禁止する!
真似されて鉢形城全焼になったら笑えぬからな!ぶはははは!」
「義弘様、何だか泥酔軍師の立花将広様にそっくりでございます。(笑)」
「そうかな?俺の憧れの伯父に似てるなら嬉しく思うぞ!房総半島でも暴れまくって大活躍らしいからな!」
立花義弘からの指示で連雀曲輪、大光寺曲輪に火矢の攻撃が準備されます。
矢尻に布を被せて紐で縛り、油に漬け込みます。布が薄いと火が消えてしまいます。
適度な厚みが必要になります。
空中で火が消えず、飛距離を保ち、着地にて火が消えない工夫が必要です。
立花家の弓部隊は手慣れた手順で準備に掛かりました。
午後14時頃、準備が整い、立花義弘の軍配が動きました。
「火矢を放てー!」
号令が掛かりました。
連雀曲輪、大光寺曲輪に向けて長弓部隊、弓自慢の選抜部隊が攻撃を開始しました。
長弓100名、短弓100名が次々に火矢を放ちます。連雀曲輪、大光寺曲輪の燃えそうな部分に狙いを定めます。
屋根に木材を用いた建物が狙い目になります。壁板も絶好な目標です。
火矢が刺さらないと火が上がりません。
数百の火矢が放たれ、木造の建物の屋根、壁板に次々と火矢が刺さりました。
やがて少しずつですが、連雀曲輪、大光寺曲輪に火の手が上がりました。
─総大将本陣─
─立花義弘、福島正義─
「義弘様、火がつきましたぞ!
少しずつですが、炎が上がりました!
成功した様です!」
「ぐはははは!明日まで燃え続けてくれたら良いのだがな!」
その時、鹿島政勝からの使者が現れたと報告が入りました。
筆頭宿老の嫡男、鹿島政勝は川越城に居るはずです。何かあったのか?!
本陣に緊張が走りました。
しかし、鹿島政勝の使者が現れたのは川越城の立花義秀の命令で4000の軍勢を率いて到着するとの知らせでした。
本陣に安堵の雰囲気が漂います。
暫くすると彼方から軍旗を掲げた鹿島政勝の軍勢が見えました。
先頭の騎馬隊数百が先駆けて駆け寄って来ます。龍魂の軍旗を掲げています。
白い軍旗に金色の龍魂の文字、赤い軍旗に金色の龍魂の文字、黒い軍旗に金色の龍魂の文字に立花家の菊の紋章の軍旗、官軍の錦の御旗です。
旗本の兵士達が注目します。
「松千代様だー!」
「松千代様がいらっしゃったぞー!」
周りがざわめきました。
「義弘叔父さまぁー!
叔父さまぁー!
来たよぉー!」
「わぁー!」
「うぉーぉー!」
「松千代様ぁー!」
「松千代様だー!」
松千代の到着に兵士達が歓迎します。
太鼓が響き、歓迎の音頭を取ります。
ダダダン!エイ!トウ!エイ!
ダダダン!エイ!トウ!エイ!
ダダダン!エイ!トウ!エイ!
ダダダン!エイ!トウ!エイ!
ダダダン!ニッポン!
ダダダン!ニッポン!
おぉーぉー!にぃーぃーっぽぉーぉーん!
にぃーぃーっぽぉーぉーん!
にぃーぃーっぽぉーぉーん!
にぃーぃーっぽぉーぉーん!
はい!はい!はい!はい!
おぉーぉー!にぃーぃーっぽぉーぉーん!
にぃーぃーっぽぉーぉーん!
にぃーぃーっぽぉーぉーん!
にぃーぃーっぽぉーぉーん!
はい!はい!はい!はい!
ダダダン!ニッポン!
ダダダン!ニッポン!
ダダダン!まつちよ!
ダダダン!まつちよ!
続いて府中太鼓の歓迎の演奏が響き、松千代を抱えた鹿島政勝の馬が本陣に現れました。
松千代は兵士達に手を振ると兵士達から拍手が湧きました。
立花義弘が出迎えると松千代は義弘の胸に笑顔で飛び込みます。
「叔父様、ひさしぶりー!
あのね、お土産があるよー!」
「だははは!松千代?清酒カ!?焼酎か!?」
「違うよー!投石出来る機械を10台持って来たよ!城門とか、板壁なら木っ端微塵になるかもよー!」
「ぶはははは!凄いじゃないか?
松千代、福島正義が今福城の城門を破壊したヤツだな?
正義!松千代が投石機を持って来てくれたぞー!」
「松千代様にお借りして今福城を落とした機械です。頼もしい機械です。
松千代様!有り難うございます!」
「あのねー。石もたくさん持って来たから、バンバン使ってね。火の玉も有るよー!
火をつけてポーンすれだけで、ボーンと火が付くんだよー!」
「なぬー?火の玉?そんなの出来るのか?」
「きゃははは!お爺とね、火薬を試したら上手く出来たからね、お試しだけど火の玉になるんだよー!」
「ぶはははは!それは楽しみだ!
見ろ!鉢形城の城下町と城の一部が燃えてるだろう。もう少し焼きたいから丁度良かったぞ!」
「あのねぇ、叔父さま?焼きすぎたら秩父の神様達に叱られちゃうよ、やりすぎ禁止だからね。」
「わかった!叱られない様にする!
約束するぞ!
あーっ!松千代?
誕生日じゃないのか?満6歳だな?
誕生日おめでとう!」
「叔父さま正解!当たりー!」
兵士のひとりが叫びます。
「松千代様ぁー!誕生日!おめでとうございまーす!」
「おめでとうございまーす!」
「おめでとうございまーす!」
「松千代様バンザーイ!
「バンザーイ!バンザーイ?バンザーイ!」
本陣の雰囲気がとても和やかになりました。
鉢形城の攻防戦2日目、奮戦する軍勢の元に突然、松千代が軍勢を率いて現れました。
さて、これからの展開はどうなるのでしょうか?




