1546年(天文15年)4月22日夜、上杉朝定激怒!
上杉朝定が悲しみのまま川越城から去りました。夕刻、塚越城に入ると長尾信忠の近習を引き連れた長尾信忠の弟、長尾信正が密かに面談を求めてきました。
長尾信忠はまだ生きていたのに命を奪われた事が知らされました。
1546年(天文15年)4月22日
数時間前、悪夢の出来事がありました。
上杉朝定は最大の理解者、筆頭宿老、長尾信忠が意識不明になり、上杉朝定は取り乱しました。
次席宿老、上田朝直を代理として職務を引き継がせると、有ろう事か権力の欲望に駆られた上田朝直は家臣に重体の長尾信忠を密かに謀殺させました。同時に信忠の近習2名も闇に葬りました。
しかし、1人だけ病間の殺害行為を隣室の襖の隙間から目撃、密かに部屋から脱出して死を免れた近習が居ました。
児玉和成、彼は隣室で信忠の為に予備の布団や下着、衣類を整理していました。
隣室の異様な気配を察して襖の隙間から恐ろしい事を目撃してしまいます。
同僚の二人の近習が横たわり、信忠を亡き者にする現場を目撃しました。
彼は静かに隣室から立ち去り、上杉朝定に報告を試みました。
しかし、朝定は上田朝直の家臣達に軟禁されて近付けません。
「おい!長尾信忠の近習がもう1人見当たらないぞ!探せ!見つけ次第密かに始末しろ!」
上田朝直の家臣達が探す声を聞きました。
児玉和成は自分が狙われてると知り、城内に隠れていました。
やがて兵士の会話を聞くと上杉朝定が松山城に退却すると聞きました。
彼は城内を移動、城内で目立つ近習の衣服から雑兵の姿に着替えて川越城の西へ移動しました。
大手門から出立する上杉朝定の軍勢の行列
は朝定直属の軍勢と亡き長尾信忠の直属軍の混成部隊です。
顔見知りの仲間が児玉和成を上田朝直の目付達から庇って雑兵に紛れ混ませました。
上杉朝定の軍勢は川越城の北西6キロの塚越城に向かいました。
夕刻になり、塚越城下に差し掛かった時に児玉和成は道中の警護部隊、長尾信忠の弟、長尾信正を見つけました。
行列から抜けて信正の前に一礼すると信正も児玉和成を見ると驚き、ただ事ならぬ事を察していました。
行列から離れ、周囲は信正の手勢200に守られています。死が迫る緊張から解放されて児玉和成は泣きながら、長尾信忠の最後を語りました。
「何も出来ずに申し訳ありません!」
顔を地面に伏して謝る彼に長尾信正は肩に手を添えて涙します。
「よくぞ、兄の最後を知らせてくれた!
お前の勇気に感謝する!
おのれ!上田朝直!必ず仇を討つぞ!」
周りの兵士達も涙を流しながら決意を固めました。
─川越上杉家、上杉朝定、長尾信正─
その後、上田朝直の目付達の監視を掻い潜り、塚越城へ入城した上杉朝定に密かに連絡を取り付けました。
長尾信正は児玉和成を伴い上杉朝定に全てを報告すると朝定は激怒します。
「上田朝直!赦さぬ!八つ裂きにしてやる!
信忠の仇!絶対赦さん!
信正!川越城に戻るぞ!」
「殿、日没の為、移動は危険です。
上田朝直の目付達に通報されてしまいます。
川越城の重臣に上田朝直の上意討ちを命じられては如何でしょうか?」
「解った!上意討ちを命じる!
信正?誰にやらせるんだ?」
お前がやれば良いじゃないか?
「殿、私の手勢は恐らく上田朝直も秘密が漏れて無いかと警戒しておりましょう。
我が手勢が松山城まで警護する役目を果たすのか、監視してるはずです。
曽我和正、宇田川長広、河越勝重の3名に命じるのが良い出しょう。
上田朝直の事を嫌っております故、必ずやり遂げるでしょう。」
「では、その3名に託す!信正任せたぞ!
上意討ちが成功したら川越城に戻るぞ!」
「はい!承知致しました!
それから殿、立花家との停戦の約束、松山城に退去する諸々の約束を破棄する事になりますが、如何いたしますか?」
「あっ??どーすれば良いのか解らぬ!
信忠が居れば任せて安心だったのに……
もう、信忠に会えぬ……なんて悲しいんだ…」
涙を拭う上杉朝定に長尾信正も涙が溢れました。
「殿、上意討ちが成功したならば、私が立花家に使者として参りましょう。
全てを正直に伝えて参ります。
兄もそれを望んでおりましょう!」
「解った!信正に任せる!頼んだぞ!」
「はい!承知致しました!」
上杉朝定は長尾信忠を失った悲しみから抜け出せません。信忠の弟、信正が少しだけ、不安を和らげる存在になりました。
長尾信正は朝定の署名付きの上意討ち命令書を信頼出来る家臣に託して川越城に送りました。
さらに手際良く上田朝直の目付3名と監視役の兵士20名を密かに闇に葬りました。
─川越上杉家、川越城─
川越城内では長尾信忠の死に疑問を持つ者が存在しました。
長尾信忠の近習3名が行方不明になり、長尾信忠の家臣達が密かに彼らを捜索していました。
信忠が倒れて間も無く、信忠の死亡が公表されてから3名の近習が姿を消しました。
近習は信忠の身の回りの世話と担当各分野の家臣達との連絡係であり、彼らを見た者が無く、疑念が高まりました。
亡き長尾信忠の家臣、私市成久は城内に残る重臣で信頼出来る曽我和正に密かに面談して疑念を語りました。
曽我和正は筆頭宿老代理の上田朝直とは仲が悪く、彼も少なからず疑念を持ち合わせていました。
しかし、今は立花家と戦う状況で一時停戦状態です。明日には城から退去しなければならず、支度に追われて、疑念追及処ではありません。殿様の命令が無ければ動けないが、出来る限りの協力を申し出てくれました。
─深夜、川越城内、曽我和正の屋敷─
上杉朝定の上意討ち命令書が曽我和正宛てに届けられました。
曽我和正も顔見知りの長尾信正の家臣が現れ、上意討ち命令書が渡されました。
読みながら手が震えます。
上杉朝定の筆跡と一致しています。
上田朝直の悪事に怒り、重大な任務が託された事に震えました。
曽我和正は密かに宇田川長広、河越勝重を屋敷に呼び出し、上杉朝定の命令書を見せました。
「どうだ?上田朝直の直属の軍勢は500だが、二ノ丸、本丸に分散している。
殿の命令に従うか?」
曽我和正の問い掛けに二人は同意します。
本丸には二つの進路があります。
北から二ノ丸と繋がり、南は南曲輪から本丸に繋がります。
二ノ丸で騒ぎを起こし、隙を狙い南曲輪から本丸を襲撃する事になりました。
事前に上田朝直の所在位置を確かめ、本丸の広間に居る事が判明しました。
多勢に頼らず、少数の精鋭を選び実行します。
三ノ丸から宇田川勢100名が騒ぎながら北側の二ノ丸に侵入しました。
二ノ丸に注意が集まった頃合いに反対側の南曲輪から曽我勢と河越勢200名が本丸に侵入しました。
二ノ丸へ上田勢の兵士が移動したため、広間には上田朝直と20名程の兵士しか居ません。上田朝直を包囲すると曽我和正が叫びます。
「上田朝直!筆頭宿老、長尾信忠殿を殺害した事実を隠蔽し、権力を奪うとは言語道断!
上杉朝定様から上意討ちを命じられた故、この場にて成敗致す!
討ち取れー!」
曽我勢、河越勢は短槍と長槍を揃えて一斉に襲いました。
圧倒的に有利な状況で僅か20名の上田朝直の兵士達は次々に落命します。
上田朝直は全身に槍を浴びて落命、首を取られて、僅か半日程で権力と命を失いました。
「上田朝直!討ち取ったりー!
長尾信忠殿の仇、上田朝直!討ち取ったりー!」
上田朝直が上意討ちになった事が忽ち城内に通達されました。
上田朝直の兵士達は主人が討たれて戦意喪失次々降伏、捕縛されました。
しかし、上田朝直の弟、上田義直と50名が追撃を逃れ、大手門から逃亡してしまいました。彼らは有ろう事か、南第三砦の立花軍に投降しました。
驚いたのは第三砦の主将、立花義弘(立花義秀次男)は、上田義直達を武装解除、武器を没収して監視下に置きました。
直ちに今福城の立花義秀の本陣に知らせました。
─深夜、立花家、今福城─
─立花義秀、鹿島政家─
鹿島政家に起こされた義秀に川越城内の政変が知らされました。
「なんだと?、川越城内で筆頭宿老代理の上田朝直が上意討ち?
上杉朝定の命令なのか?
それとも有力者同士の権力争いか?」
「川越城に潜入している間者からも知らせが有り、上田朝直が討ち取られたのは事実の様です。」
「政家、川越上杉家の筆頭宿老と次席宿老が消えて、事実上の権力者が誰になるか?
まさかだが、上杉朝定が権力を握るのか?」
「殿、間も無く投降した上田義直が移送されて参ります。直接聞いてみましょう。」
上杉朝定が川越城から去りました。
しかし、塚越城に滞在中に長尾信忠の暗殺が判明します。
怒る上杉朝定が上意討ちを命じました。
上意討ちが成功したら川越城に戻ります。
立花家の楽勝の雰囲気が、一変するのでしょうか?




