1546年(天文15年)4月22日、長尾憲長重傷!大樹院へ移送!
重傷の長尾憲長は養子の上杉英房には大きな存在でした。
大きな羽の下から離れる時が来た様です。
孫の顔を見ないまま、長尾憲長の生涯が終わろうとしています。
1546年(天文15年)4月22日
─川越、大樹院─
川越城の北西、大樹院に重傷の長尾憲長を移送しました。川越城から筆頭宿老の弟、長尾信正が派遣され、医師が同行しました。
大樹院に入った信正は前橋上杉家当主、上杉英房に謝罪しました。
英房も行違いから大手門から閉め出され、腹癒せに兵士が乱取りした事を詫びました。
医師の診断は首の出血が止まらず、胸部の二筋の矢を抜けば大量出血で助からないと診断しました。
長尾信正の目にも助かる事は無いと見えました。
信正は別室に控え、当主、上杉英房と近臣が病間に残りました。
─上杉英房、長尾憲長─
「婿殿、乱取りを許した鈸が当たったようだな……お迎えが近いようだ……」
「義父上、弱気なのは似合いません!
元気になって頂かねばなりません!」
「婿殿、もう、間も無く…時が無いようだ、
越後国へ戻るも良し、我が弟、秀長、時長を頼るも良し、長尾一族にはまだ人材がある故、他に頼るも良いだろう……」
「義父上!まだ諦めてはなりません!
まだ、孫の顔を見ておらぬではないですか!
義父上!」
憲長の手を握る英房は涙が溢れました。
怖い反面、最近は時折優しい眼差しの義父に少しずつ慣れて来た矢先の事でした。
義父は厳しく、自分から悪党を名乗りましたが、養子に貰われた英房には頼れる存在でありました。
「あぁ、婿殿…すまぬ…悪い義父であった…
孫の姿を見ておきたかったがなぁ……」
「義父上!間もなく孫が生まれます!
義父上!……」
握り締めた手が落ちて、憲長の目から涙が流れました。
「義父上ぇー!
義父上、有り難う御座いました…」
英房の涙が止まりませんでした。
長尾憲長、享年46歳、豪腕の悪党が生涯を閉じました。
長尾憲長の死去に彼を慕う荒くれ者達が号泣しています。
悪党と自分から名乗る憲長は古河公方の指名で筆頭宿老に就任すると反対派を極悪非道な殺戮で殲滅しました。前の筆頭宿老、長野業政を自分の居城、館林城に幽閉、その後、主君、上杉憲政を強引に隠居させて越後国の国主の弟、現在の当主、上杉英房を後継者に迎え、自分の娘を嫁がせて主君の義父となり、関東管領家、前橋上杉家の実質的な最高権力者に君臨していました。
彼の死は次の筆頭宿老の後継者争いが始まる切っ掛けになります。
長尾一族の中で争いが起きるのか?
元筆頭宿老、長野一族の復権があるのか?
不安定な状態が始まりました。
大樹院に立花家の間者も潜入しています。
立花義秀宛に急報が送られました。
川越城に知らせが入り、川越上杉家にも衝撃が走りました。
前橋上杉家からの支援は期待出来なくなりました。単独で立花軍との戦いになります。
大樹院から前橋上杉軍は出立しました。
鶴ヶ島経由で田波目城に向います。
まだ、長尾憲長の弟、時長の消息は不明ながら田波目城に向かいました。
田波目城から山根城を経由して帰国する予定となりました。
─川越城、上杉朝定、長尾信忠─
長尾憲長の訃報が届きました。
川越城内は沈痛な雰囲気になります。
更に前橋上杉家の軍勢が放火した被害は甚大で風に煽られて昼過ぎになり、漸く鎮火しました。
さらに南第二砦、南第三砦に立花軍が攻撃を開始しました。
前橋上杉家の心配してる余裕がありません。
─立花家、今福城─
川越城下に潜入した間者からの第一報は解放した捕虜達が川越城下に溢れ、北へ逃げる民と一緒に逃げる者、川越城に入ろうとする者で騒ぎになっていると知らせが入りました。
第二報は前橋上杉軍が街中で乱取りを行い、川越上杉軍と衝突、前橋上杉軍、長尾憲長が重傷との知らせが入ります。
第三報で長尾憲長の死去が知らされました。
死因は立花家の忍びが放った三筋の矢が致命傷になったと判明しました。
─立花義秀、鹿島政家─
「ぐはははは!
松千代の捕虜解放策が凄い効果を挙げたぞ!
長尾憲長は不運だったな。」
「はい、強引ながら能力の高い筆頭宿老でした。長尾一族から次の筆頭宿老を出すのか?
その他の一族から選ばれるのか?
権力争いが始まりそうです。」
「探る必要があるな。
秩父藤田家の筋から辿り、大國魂神社の系列神社等、幾筋からも情報集めが必要だな。」
「はい、探りは複数の筋から辿りましょう。」
豪腕凶悪?悪党、長尾憲長は存在感のある武将でした。
長尾一族に権力が集中して恨まれていましたが、越後国主の軍事力を味方に凄腕を発揮しました。さて、前橋上杉家の次の筆頭宿老は誰になるのか?
川越城の戦いは、川越城下の南第二砦、南第三砦に移ります。
立花軍は川越城を攻略出来るのか?
戦いは更に激しくなります。