1546年(天文15年)4月20日、立花義秀の思惑と長尾憲長、時長兄弟の思惑が交差します。
立花義秀は同行させた若者、鹿島政勝を外交交渉の表と裏を見せて体験させて学ばせました。
1546年(天文15年)4月20日
前橋上杉家、立花家の捕虜交換は無事に終わり、立花義秀は柏原城に到着しました。
前橋上杉軍は田波目城から北へ4キロの山根城に移動しましたが、三田綱秀の軍勢1000を万が一の用心の為に高萩に布陣させました。
立花義秀に同行した筆頭宿老、鹿島政家の嫡男の鹿島政勝は義秀の近くで豪胆な外交交渉を間近で体感しました。
義秀は極悪非道と噂の前橋上杉家の筆頭宿老、長尾憲長を圧倒して交渉を有利な形に納め、前橋上杉家の捕虜から選んだ若者5名に見学させて後に捕虜を交換しました。
鹿島政勝は26歳、前日から400名の捕虜の管理を任され、多数の敵の兵士に立花家の思想や食文化を提供する機会がありました。更に捕虜交換交渉の場を見学させた若者5名と話す時間がありました。
彼らは前橋上杉軍の思想教育を受けています。立花家が主張する朝廷から綸旨を与えられた事を知らず、古河公方家と前橋上杉家に朝廷から使者が訪れ、綸旨が与えられ、褒賞を受けたと教えられていました。
立花義秀と長尾憲長の交渉を間近で見学した事で、真実は朝廷から立花家に綸旨が与えられ、古河公方家と前橋上杉家には朝廷から罪状を追及する使者が訪れた事が判明しました。
この事について若者同士、将来について希望を語ります。立花義秀が長尾憲長に対して朝廷に恭順するか?反旗を掲げるか?迫った時にどちらが正義なのか?彼らにもハッキリ解りました。
5名の若者はこのまま賊軍として戦うつもりは無く、立花家の様な朝廷の意向に従う義軍の兵士として戦いたいと正直に語ります。
政勝は長尾憲長の筆頭宿老に就任直後に前、宿老、長野業政に罪を被せて拘束、館林城に監禁してる事、長野一族の権力を奪い、長尾一族に権力が握られてる事について互いの意見を交換しました。
政勝は捕虜交換の前に大國魂神社の護符を与え、立花家に仕えたくなったら、八幡神社系列の神社に助けを求める方法を教えました。
政勝は貴重な体験を積む事になりました。
─山根城、前橋上杉軍─
立花家と捕虜交換を終えた前橋上杉軍は北へ4キロ離れた山根城に布陣しました。
400名の捕虜だった兵士達は立花家の思想や食文化に触れて変化がありました。
更に捕虜交換交渉を密かに見学した5名の兵士達が交渉の内幕を語り、兵士達の長尾憲長に対する評価が下がりました。
ざわつく前橋上杉軍は戦意が落ちて戦える雰囲気ではありませんでした。
長尾憲長は忙しく働いてる為、英房と離れている時間が長くなりました。
その隙に英房は自身の近臣に状況を探らせました。
秩父方面の大敗は深刻で鉢形城まで攻撃される心配がありました。
さらに長尾憲長と立花義秀の捕虜交換交渉では一方的に不利な条件を突き付けられた事を知りました。知り過ぎた事がバレたら消される恐れがあります。
英房はその事実を知らぬ振りをして憲長に接する事にしています。
─上杉英房、長尾憲長─
「義父上、お疲れではありませんか?
立花家の軍勢は柏原城に退いたそうな?
兵士達の疲れを取るのは大事ですが、義父上の鋭気を養うのも大切にございます。」
「あぁ、婿殿、交渉は厳しかったが、互いに譲歩した故、田波目城を諦めて退かせた。
立花軍は柏原城に離れたからなぁ。
暫く兵士達の回復を待ちますぞ!」
「義父上、少しはご自身もお休みください。」
「そうだな、しかし、やる事があるからな、休ませて貰えぬのだ!」
顔を見せただけで立ち去る憲長の背中は疲れが見えました。
憲長は山根城に滞在を続けるべきか?
秩父方面、鉢形城に移動すべきなのか?
迷っていました。
更に憲長に都合の悪い噂が流れます。
400名の捕虜達が立花家から知らされた情報が山根城に滞在する軍勢に浸透します。
昨年朝廷から訪れた使者から綸旨を与えられたのでは無く、古河公方家に従い侵略行為に加担した事を咎める戒告だった事、朝廷から綸旨を与えられたのは立花家だった事、捕虜交換交渉は立花義秀の交渉力に敗北して終わった事などの事実が知られる事になりました。
─長尾憲長、三弟、長尾時長─
「兄上、良からぬ噂が兵士達に流れています。
綸旨の事や捕虜交換交渉の機密が漏れてしまいました。」
「あぁ、立花義秀にやられた!
捕虜にあれこれ事実を教えやがった!
汚ない手を使いやがって!」
「兄上、悪評を気にするなんて兄上らしくありません!山根城から東に迎えば坂戸を経由して4里(16キロ)ほどで川越城まで街道が繋がっています。
川越城付近に移動すれば良いではありませんか?
一時的に停戦したからには立花家も少し油断してるでしょう。」
「ぐははは!そうだな、前を向く事をしなきゃならんよな?
明日、川越城付近に向かうぞ!
明朝、時長の軍勢3000を先行させて川越に向かう!陣地に相応しい場所を確保頼む!」
「はい!では準備に掛かります!」
弟に励まされ、後ろ向きの思考が前向き思考に替わりました。
捕虜交換交渉が立花家に有利な形になり、落ち込む長尾憲長を三弟、時長が励まして前向きな策に導きます。
前橋上杉家と川越上杉家の軍勢が合流すれば立花軍に対抗可能です。
明日からの展開が気になります。




