１５４６年(天文１５年)４月１８日、前橋上杉軍、秩父に本格的に侵攻開始！
岡本政國が奮闘します。
２つの防衛拠点を守る為に知恵と勇気を発揮します。
１５４６年(天文１５年)４月１８日
根古屋砦にて前橋上杉軍、小幡勢と交戦中の岡本政國に国神砦から前橋上杉軍、長尾秀長の軍勢５０００が来襲との知らせが入りました。
根古屋砦を次弟、岡本秀國に託し、２キロ東の国神砦に急行しました。
国神砦は国神城の手前の街道を塞ぎ、日野沢川の崖沿いに築きました。
敵方が西へ向かうのを阻止する目的で築いています。
前橋上杉軍、長尾秀長の軍勢５０００は前橋方面から御嶽山城を経由、出牛を東に進み、迂回して国神に到達、日野沢川を超えて坂道を上がると目の前に関門式の砦があり、街道を封鎖しています。日野沢川の崖沿いに高さ２メートルの柵が南北１００メートル並び、さらにその先も高い崖が続きます。
退却して荒川の浅瀬から渡り、秩父の中心街を目指す方法がありますが、深い崖が続き、武器、兵糧等の軍事物資を持ち上げて大軍が登れる緩い崖は簡単には見つからず、退却しても荒川に架かる橋がありません。
日野沢川の手前から山の上に国神城の本丸が存在感を示します。
砦の柵の前には高さ１メートルの鳥居が２０基、高さ２メートルの朱色の鳥居が１基、さらには砦の奥には秩父神社、宝登山神社、三峯神社の神紋の軍旗に立花家の菊の紋章の軍旗が掲げられています。
長尾勢の先陣が国神砦前でざわつきました。
「寄せ手の軍勢に申し上げーる！
秩父は神々のご神領であーる！
戦えばー！必ず神罰が下される！
覚悟せよー！」
太鼓が響きます。
ダダダン！
「エイ！トウ！エイ！
エイ！トウ！エイ！
エイ！トウ！エイ！
エイ！トウ！エイ！」
ダダダン！
「エイ！トウ！エイ！
エイ！トウ！エイ！
エイ！トウ！エイ！
エイ！トウ！エイ！」
国神砦の兵士に気合いが入り、士気が高まりました。
軍勢の先頭が騒がしく、気になった主将の長尾秀長が最前列までやって来ます。
─前橋上杉軍、長尾秀長、側近家臣─
「何だこの砦は？鉢形藤田家の情報には街道を封鎖してる等、聞いてないぞー！
さらに、あの鳥居は何だ？」
「殿！道案内の藤田家の兵士も驚いておりました。近所の寺院に尋ねると昨日の朝から作り始め、夜遅くまで作業してたそうです！」
「鳥居が進路の邪魔だな？押し倒して進むしかあるまい？」
「殿、神仏を信じる兵士達が神罰を恐れて尻込みしています。」
「ならば神罰を気にしない奴を集めろ！
鳥居ひとつに前金で１００文(１万円)、持ってきたらもう１００文の褒美だ！
朱色の鳥居には持ってきたら１貫(10万円)ならどーだ！？
志願者を集めて始末しろ！
「はい！それなら直ぐに集まります！」
鳥居を引き抜き、持ってきたら金になると聞いた兵士が忽ち１００名集まりました。
盾を持たされ、先陣の指揮官の号令が掛かり、砦前に殺到した１００名の兵士に砦から弓矢と石礫が集中します。
砦の板壁の内側に台座が備えられ、高さ２メートルの板壁の上から弓矢と石礫を集中して寄せ手の軍勢を苦しめます。
長尾秀長は砦の弱点を探す為、日野沢川の上流に１０００、下流に１０００の軍勢を繰り出し、弱点を見つけたら攻撃する様に命じました。
３０分後、鳥居は全て撤去され、長尾勢は砦の正面、門扉を目指して突入します。
長尾秀長は朱色の鳥居を担ぎ、正面の門扉を破壊したら10貫(100万円)与えると約束しました。
２メートルの朱色の鳥居を担いだ命知らずの兵士５名が門扉を目指して先頭に立ちました。弓矢、石礫が集中します。
負傷者が相次ぎ、担ぎ手が数回代わります。暫く失敗が続きますが、遂に門扉を破壊して先陣の兵士が突入しました。
先陣の武将が叫びます。
「突入だー！踏み込めー！」
国神砦の正面の門扉が開き、長尾勢が侵入します。砦の兵士は一斉に後方に退避しました。砦に突入した長尾勢の足元には１メートル程の丸太が２０本程転がっていました。
突入した兵士達は次々に奥に進みます。
砦の兵士達は弓矢と石礫で防戦します。
砦内部に侵入した長尾勢は道幅３メートルの狭い道に集まりました。弓矢と石礫の反撃に足元の丸太が見えずに転倒します。
砦内部に５００名が侵入した頃には次々に転ぶ兵士に弓矢と石礫、さらに長槍隊が反撃に転じます。
道幅３メートル道は北の山側から南の崖下に向かって傾斜があります。
砦の兵士達は弓矢と石礫、長槍と連携して寄せ手を崖下に追い込みました。
崖下は落差２メートルですが、甲冑を装備した兵士は軽くて１５キロ、平均２０キロの武具を着けています。
足から着地出来たとしても体重の数倍の衝撃が足首、膝に掛かります。
崖下に落とされた兵士の多くが負傷する事になりました。
丁度その時、根古屋砦から急報を受けた岡本勢１０００が国神砦を攻撃している長尾勢の背後に到着しました。
目の前の砦攻略に集中していた長尾勢は後方から奇襲を受けて混乱しました。
─立花軍、岡本政國、─
「間に合ったぞー！敵を崖下に追い詰めろ！
日野沢川の下流に追い込めー！」
「うぉー！！」
岡本勢が突入します。
最前列の兵士達が弓矢の連射、長槍隊の分厚い圧力に前橋上杉軍、長尾勢は崖下に押されて日野沢川に追い込まれます。
一度河原に追われると崖上の岡本勢が断然有利な地形になります。
太鼓が響き、岡本勢が気勢を挙げます。
ダダダン！
「エイ！トウ！エイ！
エイ！トウ！エイ！
エイ！トウ！エイ！
エイ！トウ！エイ！」
岡本勢の士気が上ります。
崖下、日野沢川に追われた長尾勢は守勢に立たされ、下流に向かって後退を続けました。
岡本勢は日野沢川の土手沿いに部隊を先回りさせて長尾勢を攻め立てます。弓矢の連射で敵勢を削り続け、時に長槍隊を繰り出して下流に追い込みます。
─前橋上杉軍、長尾秀長─
後方から奇襲を受けて日野沢川沿いに後退する長尾勢は一方的に守勢になり、後退を続けました。
やっとの事で土手を上り、追撃を振り切り、畑と水田が広がる荒川河川敷に近い場所に退避しました。
軍旗を立て、長尾勢の存在を示します。
「軍勢を集めろ！諦めるなー！」
長尾秀長は将兵を励まして自分自身を鼓舞しました。
５０００の軍勢は分散しましたが、軍旗は広範囲から見えるはずです。
日野沢川の上流と下流沿いに迂回させた２０００の軍勢と合流すれば活路が開けます。
日が傾き夕刻を迎えました。
日没までに出来る限り兵士を集める事に専念する事になりました。
１キロ北の国神砦から勝鬨が上ります。
長尾勢を撃退した岡本勢が気勢を挙げています。長尾秀長の軍勢は負けた悔しさを噛みしめました。
─国神砦─
長尾秀長の軍勢が日野沢川に退却、追撃を受けていた時でした。
日野沢川の下流沿いに侵入路を探していた長尾勢の別動隊の軍勢１０００は国神砦の南から侵入、坂道を上り、国神砦の裏側から攻撃を開始しました。しかし、目の前には国神城の城壁があり、弓矢を浴び、長槍隊が切り込みました。
忽ち坂道に押し返され、散々に撃退されました。
長尾勢の別動隊、日野沢川の上流に迂回した部隊１０００の軍勢は国神城の北側から侵入を試みますが失敗して退却、日野沢川沿いに退却、国神砦を前にして味方の敗退を知ります。その時、長尾勢を撃退して岡本勢が鬨の声を挙げています。
「エイ！エイ！おぉーぉー！
エイ！エイ！おぉーぉー！
エイ！エイ！おぉーぉー！
エイ！エイ！おぉーぉー！」
国神砦前の日野沢川一帯に味方の遺体が散乱、前橋上杉家の軍旗、長尾勢の軍旗が散らばっています。目の前には砦と岡本勢、道の解らぬ北へ逃げるか？戦って突破するか？
決めなければなりません。
呆然と立ち尽くす彼らに岡本政國から軍使が送られました。
軍使は長尾勢が荒川河川敷に退却した事を告げ、武装解除に応じるなら生首３００と遺棄された長尾勢の５０００名分の兵糧の一部を返還すると告げました。
長尾勢は５０００の軍勢の５日分の兵糧を手放して退却しています。
今夜から食料無しの状況になります。
無理難題に直面した指揮官、猪俣政成は悩みました。
軍使に促され、岡本政國と直接交渉する事にしました。
─国神砦、岡本政國、猪俣政成─
国神砦内部は長尾勢の遺体が集められていました。多数の生首が名札付きで並べられています。
凄惨な光景に猪俣政成は衝撃を受けました。
簡単な挨拶を済ませ、本題に入ります。
「猪俣殿、先ほど、私は根古屋の砦にて小幡景定の軍勢３０００を粉砕してこちらに駆けつけました。さらに長尾秀長殿の軍勢５０００も撃破致しました。
５０００人分の兵糧も預かりました。
今夜から生き延びた長尾勢は食べる物が有りません。武器を破棄するなら、一部を返還しましょう。生首も返還しますぞ！」
兵糧の一部でも欲しい処ですが、武器を破棄して丸腰で生首を返還されても困ります。
戦場の儀礼として重臣の生首なら返還する事もありますが、一般将兵の生首を返還されても困ります。
岡本政國は駆け引きとして嫌がらせの様な提案を出しています。
生首３００の事も誇大に数を誇張しています。
猪俣政成は同行した側近と相談しますが、いきなり追い込まれた状況に頭が回りません。
「では、猪俣殿、条件を緩くしましょう。
貴殿の軍勢の弓の弦を切り、矢は没収しますが１人に付き３本矢を支給します。
盾は全て没収します。
槍は１００本没収します。
馬は１００頭没収します。
それを受け入れるなら米２０俵を返還しましょう。日野沢川沿いに荒川河川敷方面に向かう事を許します。あちらに長尾秀長殿の部隊が退却しておりますが、如何かな？」
武装解除に比べたら破格の条件になりました。同行した側近と協議した猪俣政成は条件を承諾、条件を受け入れました。
米１俵で３００名の分量と言われています。
２０俵なら６０００名分の１食分になります。
弓の弦は張り替えれば良いのですが、張り替える手間と照準調整に時間を取らせる嫌がらせです。弓矢による死傷者を減らす為に仕組みました。
─戦国時代、一般的な軍勢１０００の兵種─
弓隊１０%→１００
旗持ち１０%→１００
槍隊５０%→５００
騎馬２０%→２００
歩兵１０%→１００
合計１０００
猪俣政成に指示された兵士達は弓の弦を切り、弓兵１人に３本矢を支給され、槍を１００本没収、馬１００頭が没収され、見返りに米２０俵が返還され、南へ、荒川方面に向かいました。
岡本政國は戦わずに交渉で猪俣勢１０００の戦力の凡そ３０%を削りました。
猪俣勢１０００は日没前に長尾秀長の軍勢と合流しました。
長尾勢５０００の内、日没前に集まった兵士は凡そ４０００、死傷者、未帰還者が１０００になりました。
岡本政國は１日で小幡勢３０００、さらに長尾勢５０００を破りました。
さて、明日以降の状況は？
