表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/27

24,

 


 泣きじゃくりダンテを引っ張るジータ。 だが必死の抵抗も、今度はメリッサの景色を変える事は出来ない。

 覆い被さるダンテが空を隠し、見えてくるのは先に旅立った愛しい弟の元へと続く階段か。


 ――――テオ、もうすぐ逢えるのね――――


 このひと時の苦しみが、長かった寂しさを終わらせてくれる。 そう思えば生にしがみつく必要など無い。

 テオドアを失ってから散々足掻いてきた。 だからもういい、本当はとっくに疲れて果てていたのだ。


『この日を楽しみにしていた』、自分にそんな嘘もつかなくていい。


 意識が薄れ、ついに辿り着いたのは、


「――がッ……! はぁッ……」


 ――――テオドアの元ではなく、それは酸素だった。


 身体は慌てて肺へ、脳へとそれを送っていく。 ぼやけた視界は徐々に青い空を映し出し、はだけた身体には男物の上着がかけられた。


 そして耳に、


「このまま逝っても、テオドアはお前の膝で甘えない」


 その声は、大人に成長するにつれ変わっていくのを傍で感じた、それ程に知っている声だった。


「レオーネ様っ!!」


 馬車から飛び出した主を、何事かと追いかけて来た従者が二人現場に現れる。


「こっ、これは……―――メリッサ様!?」


 地面にはもう一人転がっている。 レオーネに横ヅラを蹴り抜かれ、仮面が外れ気を失っているダンテだ。


「お前はこの男を街外れに捨てておけ、メリッサにも非はある、最後の温情だ」


「ダ、ダンテ」


「――ジータ、もうダンテの事は忘れろ。 この先のお前に必要無い男だ」


 他の国に落ち延びても、これで更生してまともに働くとは思えない。 行き着く先は今やろうとしていたような犯罪紛いだろう。


「ジータを馬車に、メリッサはオレが後から連れていく」


「はっ」


 それぞれが従者に連れていかれ、禁断の恋をした二人の人生はもう交わる事は無いだろう。

 二人きりになり、レオーネはメリッサの上半身を抱き起こす。


「……何とも、今年は静かな記念祭だな。 大丈夫か?」


 殺す気で絞められた首には痣が残り、虚ろな瞳のメリッサは返事をしない。 そしてしばらく、静かな裏通りに沈黙の時が流れた。


 やがて、掠れた弱々しい声が―――、


「……テオは、私の膝に来てくれない」


 呟きにレオーネが答える。


「そうだな」


 そう言って、レオーネは幼い頃に拒否した憧れの膝に横顔を預ける。


「レオ……?」


「この後もうひと勝負ある、少し休ませてくれ」


 それはメリッサには分からないが、もっと解らないのは、何故レオーネがこんな事をしたのかだ。


「オレをテオドアには出来ない。 テオドアにとってお前は大好きな姉で、オレにとってお前は……」


 閉じた瞳の裏では、幼い日の嘘が思い出される。



『オレはメリッサのこと嫌いだから』



 そして、伝えようにも居なくなってしまったその人に、


「お前は、――――初恋の女性(ひと)だからな」


 告白はメリッサの瞳を大きく見開かせたが、それは今の彼女にではない。


「その女性じゃないと、テオドアは甘えてくれない」


 陽気の良い日、膝には弟ではなく、大きくなった弟の友達が眠っている。 おいでと言っても来ない、強がりな男の子が。


「不思議な日だ、天気が良いのに雨が降る」


 横顔に落ちてきた雨は、もっと早く降らせてあげたかった雨だった。 それは不思議な――――温かい雨だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ