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エピローグ 元聖女は気楽に過ごしたい

 早朝の冒険者ギルドを眺めながら、セーナは息を一つ吐き出した。


 昨日と同じような状況の中にいるのは、昨日の別れ際、エルザ達とここで待ち合わせをすることになったからだ。

 互いに確実に知っている場所となればここになることを考えれば、当然と言えば当然だろう。


 一応昨日よりも少し早めに来てはいるが――


「まあ実際に早いのかどうかは、中に入ってみなければ分かりませんか」


 呟くと意を決し、中に足を踏み入れた。


 冒険者ギルドの中は昨日と同じように閑散とした光景が広がっていたが、昨日と違ってエルザ達はそこにいなかった。

 だが先に来たのだろうかと思ったのも束の間、受付嬢に呼ばれたかと思ったら、セーナはそのまま受付側と酒場の間にある階段を上り二階へ向かうことになっていた。

 何でもそこにある一室が、今日はセーナとエルザ達に貸し出されているのだという。


 冒険者ギルドが四階建てだということは知っていたが、二階以上に向かうにはランクの制限があり、最低でもDランクが必要だったはずだが……まあ、受付嬢からいいと言われたのだからいいのだろう。

 エルザ達が今日の話のために取ったのだろうかと思ったが、黒髪の女性ですらEランクだという話だ。

 どういうことなのだろうかと思うも、行ってみれば分かることかと思い直した。


 二階の一番奥だと言われたのでその通りに向かうと、扉が僅かに開いていたので、ノックした後で中へと入る。

 そこではエルザ達が揃っていた。

 どうやら今回も一番最後だったようである。


「すみません、遅くなりました」


「別に十分早いでしょ。あたし達が早く来すぎただけよ」


「そう言っていただけますと助かるのですが……ところで、この部屋はどういうことなんです? 確か二階に上がるには本来Dランク以上になっている必要があったはずですよね?」


「ああ、それなんだけど、今回のおわび代わりなんだってさ。ギルドの不始末で余計な混乱を引き起こしたことの。全然おわびには足りてないと思うんだけどね」


「でもその分魔石の換金分が多めになったって聞いた」


「それはどっちかっていうと口止め料も入ってるんだろうけどね」


「口止め料、ですか? つまりは……今回の失態を言いふらさないように、と?」


 ギルドにとって信頼というのは非常に重要なものだろう。

 失態を犯してしまったのは事実だが、それを言いふらされるのは困るはずだ。


「それに加えて死神のことも、だね」


「ああ、あたし達もまだちらっとしか聞いてないんだけど、そこでも何か言われたの?」


「その話をする前に、とりあえず座ろうか? 立ったままってのもなんだしね」


「確かにそうですね」


 セーナが来るのを待ってたのか、エルザ達も立ったままであった。

 部屋の中央にあるソファーへと向かい、腰かける。

 その瞬間に柔らかいということが分かる時点で、かなりいいものなようだ。


 部屋の内装もそれなりに凝ったものであるし、さすがにDランク以上でしか入れない場所なだけはあるということか。


「で、死神がどうしたってのよ?」


「うん、死神の魔石を見せたら、死神を倒せたってことは信じてもらえたんだけどね。やっぱ他とは違ったものだったらしくて。その時の驚きっぷりったら凄くて見せたかったぐらいだよ。ま、当然の反応ではあるんだろうけど」


「目の前で見てた私達も信じられないぐらいだったから、当然」


「だね。で、ただ、死神を倒せたってことが知られちゃうとギルド側はまずいって考えなんだってさ」


「何でよ。前代未聞のことよ? 名誉なことだってのに黙ってろっての?」


「前代未聞過ぎて名誉過ぎるから、さ。特にボク達は無名の新人だからね。そんなのが死神を倒せたって知られたらどうなると思う? 自分達も、って思う冒険者が出てくるはずさ」


「簡単に想像出来る。その結果も」


「うん、冒険者ギルドとしては無駄に冒険者を減らしていいことなんかないからね。巻き込まれる形で余計な被害も出そうだし」


「……なるほど。確かにそれは納得するしかないわね。で、その代わりに、ってわけ?」


「死神の魔石の換金分もあるだろうけど、金貨千枚って言われたからね」


「それはまた……大奮発ですね」


 前世の感覚で言えば、十億だ。

 四人で分けたところで、今後一生働かなくても済みそうである。


 まあ、セーナは働きたくないわけではなく気楽に生きたいだけなので、そこまで関係はないが。

 それでもお金に余裕が出来たのは大きいことではある。


「死神の魔石が前代未聞だってことを考えても、確かにそれは大分多めになったわね。絶対言いふらすなってわけ、か」


「ちなみにさすがにそれだけの金貨を持ち歩くわけにはいかないから、ギルドに預けてあるよ。ああ、もちろん四等分でね」


「四等分、ですか? あの……それはわたしの取り分が多すぎる気がするのですが」


 何せセーナはほとんど何もしなかったのだ。

 十分の一でも多すぎるぐらいだろう。


 そう思ったのだが、何故か三人から一斉に視線を向けられた。

 ちなみに三人は向かい側のソファーに座っているので、そうされるとまるで面接でもされているような気分である。


「え、えっと……?」


「多過ぎって……いや、むしろボク達の台詞だよ、それ?」


「死神を倒したのあんたでしょ? 口止め料が含まれてるとは言っても大部分が死神関連なんだろうから、あんたは文句を言ってもいいぐらいよ?」


「むしろ言うべき」


「いえ、わたしは本当に大したことしていませんし……」


「死神を倒したことが大したことじゃなければなんだってことになるんだけど……ま、いいさ。ここは強制するところじゃないしね」


「えっと、それよりも、治癒士の話なのですが……」


 話題を転換するためにそう口にすると、三人の雰囲気が僅かに変わった。

 それまでのどことなく緩んだ雰囲気が、引き締まったのだ。


「……まあ、そもそも今日集まったのは、半分ぐらいはその話をするためだったしね」


「そうね。とりあえずは、治癒士ってのが現在ではどういうことになってるのか、ってことを話せばいいのかしら? とはいえ、あんま長々と話すべきじゃないだろうし、かいつまんで話すとなると……元々治癒士ってのは、雑用する人と同義だったのよ」


「治癒の力を持った人が百年前にいなくなったって言ったよね? その人達が元々治癒士って呼ばれてはいたんだけど、いなくなっちゃったからね。一応傷の進行を止める、ぐらいの効果を発揮出来る人ならまだ残ってたんだけど、それでも稀だったし。まあ稀とはいえ残ってるから、治癒士ってものをなくすわけにはいかなかったんだけど、あまりにも少数過ぎるし出来ることが限定過ぎるから、雑用もこなすようになったんだ。で、そうしてるうちに雑用を担当する人が治癒士って呼ばれてるようになった、ってわけだね」


「それも初耳。確かに何故治癒士って呼ぶのかは疑問だったけど」


「まあ知ってたからどうだって知識でもあるしね。で、まあそのまま十年ぐらい前まで続いてたんだけど、ある時その治癒士がBランクパーティーに所属することになったんだよね」


「雑用を主にする人、ということなのでしたら、別に不思議でもないのでは?」


 基本的に四人から六人ぐらいを推奨されているパーティーではあるが、上のランクに上がるほど予備の人員であったり、雑用の者を入れたりすることがあるという話は聞いたことがある。

 雑用がイコール治癒士と呼ばれていたのであれば、珍しくもないはずだ。


「いや、ところが治癒士は治癒士でも一線に立つパーティーの一員としてでね。まあというか、そもそも他から移籍したわけじゃなくて、所属するパーティーが全員一緒にBランクに上がった、ってだけのことだし、その人はそのパーティーのメンバーと初期の頃からずっと一緒に組んでたわけなんだけど」


「しかもその人は雑用っていうか、実際には前線に普通に出てたって話よ? 下手な戦士よりも強かったとか」


「むしろパーティーの中では素手なら一番強かったって話も聞いたことがある」


「ついでに言えば、その人は治癒士の中でも稀な方だった。要するに、傷の進行を止める力を使えたってことだね。だけどどうにもその辺が変な風に伝わって噂になっちゃったらしくてね」


「治癒の力が使えれば、Bランクパーティーに簡単に入れる、って噂になったのよ。で、それを鵜呑みにした馬鹿共が、治癒の力なんて使えないくせに使えるって詐称してBランクパーティーに取り入ろうとしたの」


「当然すぐばれるし、それ自体は一過性のものですぐ終わった。……問題は、その後」


「傷の進行を止めるどころか、傷を癒せるっていう治癒士が出てきたんだ。そしてその人物は実際に人前で傷を癒してみせた。まあ先に結論を言っちゃうと偽物だったんだけど」


「傷を癒された側とグルだった」


「ポーションとかハイポーションって、効果が出るまで時間がかかるでしょ? それを利用して、予め飲んだ後で傷を作って、ってことをやったらしいわよ?」


 確かに、ポーションとかは効果が出るまでに時間がかかるという話は聞いたことがある。

 だが。


「えっと……何のためにそんなことをしたんですか? 結局ばれますよね?」


「うん、ばれたよ。呆気なく。――その力を当てにしたパーティーが壊滅したことでね」


「ちなみにそいつだけは生き残ったんだけど、その時の言い分は、楽しそうだったから、らしいわよ?」


「当てにしてた力が偽物で、絶望しながら死んでいく様子を見るのが。当然すぐにギルドが処分した」


「だけど、そんなのが出たせいなのかどうなのか、似たようなことばっかり起こるようになってね。しかも徐々に手口が巧妙化してタチが悪くなってくし、そのせいで去年はBランク冒険者のパーティーが壊滅した」


「で、その全員が治癒士を名乗ってるのよ。明らかに意図的に。っていうか、もうそういうやつらしか治癒士を名乗らなくなってるし、名乗るやつらは分かってて名乗ってるってわけね」


「あの……そうして分かっているのに、騙されてしまう、ということですか?」


 話を聞いていると、そういうことになる。

 その言葉に、三人は揃って頷いた。


「だからこそ、手口が巧妙化してタチが悪くなってる、ってわけさ。冒険者と言えど……っていうか、上のランクになるほどに基本人がいい人ばっかになるからね。一見すると治癒士って名乗ってるだけだし、最後の瞬間まではまともなんだよ」


「だから、騙される。そして治癒士と名乗っているだけだから、ギルド側で対処のしようはない」


「治癒士って名乗るのを禁止すればいいだけなんでしょうけど、むしろそうして状況を限定的にすることでそこに誘い込んでるんでしょうね」


「何せその人物達が何を考えてそんなことをしてるのか分からないんだ。ただの愉快犯とも模倣犯とも言われてるけど、分かってるのは、最後に自分も含めて周囲を破滅させるということだけ」


「他に広がられても困るから、ギルドはそこで食い止めたい」


「まあことごとく失敗してるわけなんだけど……で、そんな時に現れたのがあんたってわけ」


「……なるほど。それは確かに……」


 三人の態度があんな風になるというものだ。


「ところで、あんた確か冒険者の知り合いから冒険者に関しての話聞いたことあるって言ってたわよね? 今の話聞いたことなかったわけ? かなり有名な話よ?」


「んー……冒険者の知り合いというのは実は姉なのですが、ちょうど姉が引退したのが十年ぐらい前なんですよね」


「あー……なるほど。それは確かに知らなくても無理はないかな。引退しちゃったら冒険者の話を知る機会がなくなっても不思議じゃないし」


「ちょっとアレな話だから、敢えて話さなかった、って可能性も」


「まあ何にせよ、姉達から話を聞いていたということに慢心して情報を集めていなかったのが今回のことの原因でもあるんですよね……反省する必要がありそうです」


「それに関しては、まあそうね。冒険者なんて何をするにしても情報が重要なもんだし」


「ですね……あ、そういえば、そういう事情なのでしたら、ギルドに言って治癒士というクラスを変えた方がいいんでしょうか? そもそも変えられるのかという話ではあるんですが……」


「んー……まあ変えようと思えば変えられるだろうけど、わざわざする必要があるかっていうと疑問かな?」


「え、どうしてですか?」


 今の話を聞いたらむしろそのままではまずいだろう。


 だがそこで目の前の三人は顔を見合わせると、何故かにっこりと笑みを浮かべた。


「え、っと……?」


「クラスっていうのは、別に開示しなくちゃならないもんじゃないからね。まあパーティーを組もうとするなら開示した方が色々と便利だけど……逆に言えば新しくパーティーを組もうとしなくちゃ必要ないものだし」


「でもほら、ここにちょうどパーティーメンバーを募集中のパーティーがあるわよ?」


「事情も把握済み」


「それは……その……」


 それは考えなかったわけではないし、むしろ今も考えているとは言える。


 セーナがどこかのパーティーに入るとなると、必然的に治癒の力のことを知らせなければならないだろう。

 黙っているなど心苦しい上に単純に嫌だし、だがそうなると相手がどう出るか分からない。


 何せ伝説の力らしいのだ。

 そのせいでもしかしたら前世の頃のようになってしまうことがあったら、何のために冒険者になろうとしたのかということになってしまう。


 これまで接してきたことから、彼女達ならばおそらくそういう心配はいらないのだろうな、というのは分かるのだが――


「何よ、なにか気に入らないことでもあるってわけ? 自慢じゃないけど、あたし達結構お買い得だと思うわよ? 上のランクにもすぐにいくつもりだし」


「いえ、どちらかと言いますと、ですから問題といいますか……」


「どういうこと? 上のランクにはなりたくない?」


「そういうことではないんですが……実はわたしが冒険者になったのって、気楽な生活を送りたいからなんですよね。ですから、目指しているのはDランクあたりで、ですが皆さんが目指しているのはそのさらに先ですよね?」


「へえ……分かるんだ? その辺のこと言ってないはずだけど」


「まあ、何となくですが」


 前世で取った杵柄というやつだ。


 しかしそこでふと思ったのは、そういえば受付嬢の態度とかも治癒士と名乗ってしまったからだったのか、ということである。

 あれはセーナがそっちの治癒士だと思っていたからだったのだろう。

 どうやら別に鈍った結果目が曇ったというわけではなかったらしいと、今更ながらに気付く。


 と、それかけていた思考を戻す。

 彼女達とパーティーを組むのを躊躇しているのは、つまりそういうことが理由であった。


 目指す先が異なっていれば、どうしたって軋轢が生じてしまう。

 彼女達がいい人だということを感じているからこそ、変な関係になりたくはないのだ。


「んー、キミの希望は分かったけど、ならそれこそ上のランクを目指した方がいいんじゃないかなって思うけどね? ランクが上がったら出来る事が増えるから、その分だけ好きに出来るようになるし」


「Dランクじゃ、きっと色々大変。より上のランクを手にした方がいい」


「そうね。だから、あたし達と一緒に目指しましょうよ。――Sランクを」


「うん? Sランク、ですか……?」


 聞き覚えのない言葉に、首を傾げる。

 冒険者のランクは、Aまでだったはずだからだ。


 以前説明を受けた時もそう言っていたはずで……だが言い間違えるとも思えない。


「まあ、Sランクは例外的なものっていうか、基本的には公にされてるもんじゃないからね。一部の人しか知らないことだけど、まあ知ってる人がいる以上はどうしたって話は漏れるものさ。そして……実のところボク達は、全員がそのSランクになることを目指してる。ボクが二人のパーティーに入れさせてもらったのも、元々はその噂を耳したからなんだよね」


「そんなものがあったんですね……って、あれ? でも確か、皆さんがパーティーを組んだのは迷宮に行くため、という話を聞いた気がするのですが……?」


「ああ、それは結局同じ話になんのよ。あたし達が用があるのは迷宮そのものじゃなくて迷宮の奥深くで、そこに行くにはまずSランクにならなくちゃ話にならない、みたいな感じでね」


「そうなんですか……まあですが、少なくともやはりわたしはそこまで目指すつもりはないのですが……」


「別に強要するつもりはない。そもそもあくまでも目標。一番確実そうだからそこを目指してるだけ。嫌になったらいつ辞めてくれてもいい」


「そうだね。一時的に力を貸してくれるってだけでも、ボク達にとっては十分だ。だから、どうかな? キミがDランクになることを目的としているっていうのなら、それでも構わない。それまででいいから、ボク達に力を貸してくれないかな?」


「要望はなるべく受け入れるわよ? 治癒士とは言ってもあんたは普通の治癒士じゃないんだから、雑用とかは一切やる必要はないし」


「依頼を受けるのも迷宮に行くのも、私達だけでやる。貴女は宿にいて私達の帰りを待ってくれるだけでいい」


「宿に戻ればボク達はキミの治療を受けられるってことだからね。それだけでも、ボク達には計り知れないほどの利益がある。他にも、キミが望むのならなるべく優遇しようと思ってるよ。……どうかな?」


 三対の真剣な瞳に見つめられ、セーナはその場に俯いた。

 真剣にどうするかを考えるためである。


 驚くほどにセーナに有利な条件ばかりだが、騙そうとしたり嘘を吐いているような様子はない。

 つまりは、本気でそれだけのことをしても構わないと思っているということなのだろう。

 セーナが思っている以上にこの力には価値があると……少なくとも彼女達はそこまでする価値があると思っている、ということである。


 既に言ったように、彼女達とパーティーを組むこと自体は十分ありだ。

 まだまだ知らないことは多いだろうが、そんなことは誰とパーティーを組むことになろうとも同じである。

 最初は何も知らないのは当然で、そんな中で彼女達はどうだろうかと考えれば、自ずと答えは出る。


 そのまま少し考え、やがて結論が出た。


「……優遇はいりません。依頼を受けるのでしたらわたしも一緒に行きますし、迷宮もまた同じです。必要ならば雑用もしますし、むしろ出来ることはなるべくやりたいです。パーティーを組むというのは、そういうことだと思いますから」


「それはっ……つまり?」


「はい。えっと……まだDランクになれたらどうするのかは決められていませんし、それは調子のいいことだとわかってはいるのですが……それでもよろしければ、これからよろしくお願いしたいです」


 そう言って頭を下げると、頭上からホッとしたような雰囲気を感じた。

 顔を上げればどことなく緊張に強張っていた三人の顔は緩んでおり、そんな中で黒髪の女性が首を横に振った。


「いやいや、そんなことはないよ。……でも、そっか、確かにそうかもね。パーティーを組むのって、そういうことだよね」


「確かにそうね。……ま、でも何にせよ、これで一安心ってところかしら」


「断られる可能性の方が高いと思ってたから、よかった」


「あれ、そうなんですか? かなり納得出来ることを並べられていたような気がするのですが……」


「むしろだからこそ、かな? 納得出来るような言葉を並べて誘導してるって思われちゃったら、拒否感のが強くなっちゃうだろうしね」


「かといって、そうしないと多分受けてはもらえなかったからそうした」


「それは……まあ、そうですね。正直途中まではどちらかと言えば断ろうかと思っていましたし」


「ま、何とか無事賭けに勝った、ってとこかしらね。って、ああ、そうそう。これでようやく正式な仲間になることになったんだから、しっかりした自己紹介は必要よね。多分この二人の名前どっちがどっちだかまだ分かってないでしょ」


「あ、はい……すみません」


「いやいや、あれはこっちが敢えてそうしたわけだからね。むしろこっちが申し訳なかったぐらいだよ。ま、ともあれそういうわけで、ボクがユリアだよ。よろしくね」


「ヘレーネ。よろしく」


 黒髪の女性――ユリアと、水色の髪の少女――ヘレーネが、自身の名を告げてくれ、ようやくと言うべきか、これで二人の名前がどちらがどちらなのかを把握出来た。

 それだけのことと言えばそれだけのことではあるのだが、確かに彼女達の仲間として迎え入れられたのだという気がして来るのだから不思議だ。


 そしてであるならば、セーナがやるべきことは一つである。


「改めまして、セーナです。正直、いつまでになるかは分かりませんが……よろしくお願いします」


 そうしてもう一度頭を下げれば、三人の雰囲気はさらに緩んだ。

 その顔には、はっきりとした笑みが浮かんでいる。


「その挨拶の仕方には思うところがないって言ったら嘘になるけど……ま、今はそれでいいかしらね」


「そうだね。彼女はまだ知らないことが多そうだから、知っていきさえすればきっとそのうち考えも変わるだろうし」


「目指すは、Sランク」


「いえ、ですから、Sランクは結構ですって! 私が目指すのは、あくまでも気楽に生きることです!」


 冒険者ギルドの一室の中に、セーナの声が響き渡る。


 だがその顔には自然と笑みが浮かんでいた。

 正直どうなることかと思っていたが……結果的にはいい感じに纏ったのではないだろうか。


 今回のことは色々と教訓にもなったし、やはりと言うべきかまだまだ知らない事が多いのだということも実感出来た。

 そう思えば、今回のことは中々に得がたい経験だったと言えるだろう。


 それに、結果を言ってしまえば、こうして彼女達のパーティーの一員になることが出来たのである。

 それだけでも十分だ。


 ともあれ。

 これからこの三人と共に、どんな冒険者生活を送ることになるのだろうか。

 出来るならば気楽に、それでいて、楽しく過ごしたいものではあるのだが。


 そんなことを考えながら、セーナはその顔に浮かんでいる笑みを深めるのであった。

というわけで完結になります。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

元々この話はラノベ一冊ぐらいに収める予定だったので予定通りといったところでしょうか。

まあ一話一話はもう少し短くするつもりだったり幾つか予定通りいかなかったところもあるのですが。

幾つか書ききれなかった話とかもありますので、そのうち続きか何か書きたいと思っているのですが、とりあえずはここまでということで。

それでは、あまり長くなってもあれですからこの辺で。

またご縁がありましたら、他の作品でお目にかかることが出来ましたら幸いです。

それでは、失礼致します。

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