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【電子書籍化】病弱だった少女は転生して強い魔力と愛する人たちを手に入れた  作者: 冬野月子


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エピローグ:龍の想い

———ああ、いい目だ。


荒く息をつきながら、俺を睨みつける双眸に目を細める。

疲労と、敗北感と…それでもまだ負けたくないという、熱い想い。

———昔の俺もあんな目をしていたな。

遠くなってしまった過去をふと思い出す。


「もう終わりか?アーベル」

「…くそっ!」

もう力が入らなくなっているはずの手で剣を構え直すと、アーベルは俺に向かって走る。


「遅い!」

手元に打ち込むと剣は宙を舞った。




「まあ、だいぶマシになったな」

仰向けに寝転んで、荒く息をつくアーベルを見下ろす。

「…カイ…剣は知らないんじゃなかったのかよ…」

「知らないよ、この世界の剣は」

俺が知ってるのは剣道だからな。


強豪道場を営む家に生まれ、物心つく前から竹刀を握らされてきた。

全日本で優勝できると言われるほどの力をつけ…その大事な試合の直前に交通事故で死んだ。

まだ二十代半ばだった。

虚しいような、それなりに充実していたような…それにしても短い人生だったが。

まさか別の世界でドラゴンに生まれ変わるとは思いもよらなかった。


剣と魔法と、魔物がいるファンタジーのような世界。

見知らぬ世界なのに既視感があるような、妙な違和感を感じながらも過ごしてきたある日。

族長である父親に『龍王』の話を聞かされた。

かつて強い力を持った人間が絶滅の危機だった龍族と契約をし、その王となる事で一族を救ったのだという。

その血と力を受け継ぐ少年が生まれたという…その話は、前世で稽古の合間の息抜きに読んだ漫画と酷似していた。

まさかと思いつつも見つけたアーベルという少年は漫画に出てきた姿そっくりで。

漫画の設定とは違う所もあるけれど、それから起きたいくつかの出来事も漫画のエピソードそのままで。

本当にここはあの漫画の世界なのか。

そうだとしたら…それは何と、つまらない人生なのだろう。


勝敗が決まっている試合などつまらない。

分かった未来をなぞるなど———くだらない。



真面目にアーベルを鍛える気にもならず、それでも父親の命令に従ってアーベルを連れて旅をする時に彼女に出会った。

それは思いがけない———本来出会うべき場面とは違う場所で、そして何よりも、漫画では少年だったはずなのに。

目の前にいた魔法使いは、エミーリアという名の美しい少女だった。


更に驚いた事に、彼女は俺と同じ元日本人で。

同じ漫画を知っていて。

彼女もまた…この世界と漫画の関係に疑問を抱きながら旅をしているのだという。


漆黒の長い髪に、輝く大きな瞳。

愛くるしいその姿は…惹かれずにはいられない。

ああ、この娘とならば違う未来があるのかもしれない。

それは俺の心に忘れかけていた火がついた瞬間だった。


だがそう思ったのも束の間。

彼女は既にもう一人の登場人物、王子と婚約しているのだという事実を知らされた。

———ふうん、面白い。

勝ち目が少ない戦いに挑むのはやりがいがあるってものだ。



その日から俺は心を入れ替えてアーベルを真面目に鍛える事にした。

前世で父親の道場を手伝っていた時は鬼だの魔王だのと恐れられていた俺だ。本気になったらとことんやる。

俺の気分で振り回されているアーベルに申し訳ないという気持ちもあったが…奴は文句を言いながらも俺の指導に耐えていた。

必死に俺に食らいついてくるその根性に、その目の輝きに、俺は昔の自分を重ねていた。


ある日突然自分が龍王だと言われ、その運命から逃れる事も叶わずに強くなる事が当然だと修行を課せられる。

それは剣豪と称えられた祖父と、日本一の称号を持つ父親を持ち、強いのが当たり前だと思われ、それから逃れることもできずただひたすらに鍛練し続けた俺の姿そのものだった。


エミーリアの事は諦めた訳ではなかったが、それよりもアーベルが強くなっていく事の方に喜びを感じるようになっていった。

思えば前世でも、彼女よりも剣道を優先していてそれで振られたんだよな。

———生まれ変わっても根本の部分は変わらないらしい。




アーベルは順調に成長していた。

次は、奴の中に眠っている龍王の力を目醒めさせないとならない。


漫画の中では、それは最終決戦の時に起きた。

大切な仲間———エミールが魔王によって殺されそうになった時に怒りで覚醒したのだ。

だがまさかエミーリアをそんな目に遭わせる訳にはいかないし…それに彼女曰く、現実の魔王はそう悪い存在ではないらしい。

確かに魔族は龍族と同じように人間の社会とは隔離された領域で暮らす、知性も能力も高い一族だ。


ならばどうやってアーベルの力を覚醒させよう。

悩みながら旅を続けていた時、故郷から伝令が来た。

…国に凶悪な魔物が現れ、ふたり殺されたという。



大急ぎで戻る途中、そいつは目の前に現れた。

まさか…魔王?!

それは漫画で見た、一度倒した魔王が蘇った姿にそっくりだった。

凶悪な姿と魔力を持った奴が咥えているものは…


「コーディ?!」

アーベルが悲鳴のような声を上げる。

それは俺の近い身内で、アーベルが弟のように可愛がっている子どもだった。

ぐったりとした、血の気の引いたその姿は最悪の事態を想像させた。


「っの…!!」

アーベルの瞳が金色に輝いた。

それに呼応するように、右手の甲にある王の印が赤く輝き、アーベルの剣も赤く輝く。

「許さない!」

叫ぶとアーベルは魔物に向かって駆け出した。


それは漫画で見た覚醒のシーンによく似ていた。

けれど、あの時の魔王はヒトの姿で。

魔王に殺されかけていたのはエミールで———だけど今目の前で死にかけているのはコーディで。

漫画とは…ああもう、漫画なんかどうでもいい!

俺はドラゴンの姿に戻るとアーベルの後を追った。


奴は強かった。

俺と龍王の力に目覚めたアーベルでも歯が立たない。

それでもどうにかアーベルの剣が奴を斬りつけた。

その口から落ちたコーディを慌てて回収する。

…まだ息はある。

けれどこの傷は———


「待て!」

奴がこちらに背を向けると移動しはじめた。

慌ててアーベルが追いかける。

「アーベル!」

今の俺達では勝ち目がない。

それよりも今はコーディの命の方が大事だ。


「くそっ!」

「追うなアーベル!」

ああ、こんな時に魔法使いのあの子がいれば———



いた。

本当に…彼女が。

「エミちゃん」

久しぶりに会った彼女は俺の腕の中を見て大きく目を見開いた。


「カイ…その子見せて!」

地面に下ろしたコーディを彼女の魔法が包み込む。

あっという間に傷は消え失せ、穏やかに眠るコーディの姿があった。


どうやら魔族達はあの魔物の事を知っているようだった。

当然のように俺達に手助けしようとするエミーリアと、渋るルプスとかいった魔族の男。

一行の中で一番切れ者そうな男が妥協案を提案してきた。

———まあ、正直あの賭けの事はどうでも良くなってきていたので構わない。

彼女の事を諦めるのはまた別の話だけどな。


少し会わない間にますます綺麗になった彼女は、少女の愛らしさと滲み出し始めた大人の魅惑的な美しさを合わせ持っていた。

あと数年すればもっと———いや、そんな事を考えている場合ではないのだが。

ついそう思ってしまうほどに美しく、優しい少女に惹かれない方がおかしいのだ。






「はーあ…」

青空を見上げながらアーベルが何度目かのため息をついた。


「アーベルどうしたのー?」

「暇…」

「じゃあ遊ぼうよー」

「遊ぶー」

「…面倒…」

「どっちなんだよ」

領地の外れにある、柔らかな草原に寝転んで、ドラゴン姿の子ども達にじゃれつかれているアーベルを見下ろす。


「手合わせでもするか」

「それもいいんだけど…」

「何だ」

「———また旅に出たいなー」

おねだりするような顔でちらと俺を見上げる。


グラトニーとの戦いを終え、アーベルを成長させる旅も終わり、俺達は国へ戻った。

それから半年あまり。今は平穏な日々を送っている。

だがまだ十六歳の少年にはそれは物足りないらしく、外の世界に出たがっている事はよく分かっている。

人間のアーベルが一人龍族の中にいるストレスもあるだろう。


外へ出してやりたい気もあるが、本来龍族は滅多な事では国の外へは出ない。

訓練で気を紛らわす事も考えたが…俺のように目標となる試合や、倒すべき相手などがあれば良かったのだろうが、今はそんなものはない。

平穏に毎日過ごす———そんな生活は活発なアーベルには苦痛だろう。



「あ!」

アーベルに絡みついていたコーディが不意に頭を上げた。

「お姉ちゃんだ!!」

嬉しそうな顔で羽ばたいて飛んでいく———その先に、三つの人影があった。


「コーディ!」

抱きついてきたコーディをエミーリアが笑顔で抱きしめた。

…ああいうのは子どもの特権だよな。くそう。

「エミーリア!どうしたの?」

「会いにきたの。あの時私、ちゃんとお別れの挨拶できなかったから…」

グラトニーと戦った時、彼女は魔王に魔力を吸い取られ意識を失っていた。

確かにそれきりだったけれど…それだけ俺達の事を気にかけてくれていたとは嬉しいね。

「皆元気そうで良かったわ」

赤い瞳を細める。

———彼女も、その後ろでやや不機嫌そうな顔のベルハルトもその瞳が赤くなっている。

俺達と同じように、彼女達も色々あったのだろう。


「エミちゃん、わざわざ来てくれたの」

魔族の国はここからかなり離れている。

移動魔法が使えるだろうけれど、それにしても遠い。

「私達ね、また旅をしているの。それで最初にここを目指して———このまま北に向かう予定なの」

楽しそうな彼女の笑顔は眩しい。

思わず目を細めるとベルハルトが露骨に不快な表情を見せる。

…ほんとこいつは面白いくらい嫉妬深いな。


「旅か…いいなあ」

心から羨ましそうにアーベルが呟く。

それを見て何かを思いついたようにエミーリアが目を輝かせた。


「ねえ、だったら私達と一緒に旅に出ましょう?」

「エミーリア?!」

「姫様…」

「行きたい!」

「———それは面白そうだ」

「皆で旅をしたいと思っていたの。…だめ?」

胸の前で手を合わせ、期待に目を輝かせながら破壊力抜群の上目遣いで慌てるベルハルト達を見上げる。

……あーあ、あのおねだり攻撃に勝てる奴なんてこの世にはいないぞ。


「ねえカイ!行ってもいいよね?!」

こちらも目を輝かせながらアーベルが俺を見る。

「そうだなあ。あまり長期間は無理だけどな」

「やった!」

「決まりね!」

嬉しそうにエミーリアとアーベルがハイタッチする、その周りで意味もよく分かっていないだろう子ども達が一緒になってはしゃいでいる。

そして後ろには眉を顰めるベルハルトと諦め顔のルプス。

———まさか、漫画の中だけだと思ったこの面子での旅がこんな形で始まるとはね。


これだから先の分からない未来は面白い。



おわり

最後までお読みいただきありがとうごさいました。

今まで書いた中で一番長い話です。

息切れしそうになりましたが何とか終わらせる事ができました。


少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

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