邂逅03
「さすがエミーリア様ですね」
「またえげつなさが増したな」
「えげつないって言うのやめて」
仕事を終えた竜が戻ってくると、口に咥えた核を私の手に落とした。
「お帰り、フラム」
「…随分と見た目が変わったね、その火竜」
「ええ、出来る事が増えたのよ」
前は竜の形をした炎だった元火竜は、黒い身体を持った竜となっていた。
「名前も付けたの?」
「そうよ、フラムっていうの」
フラムは私に身体をすり寄せると、するり、とその姿を消した。
「今の竜には…前よりも明らかに自我がありましたね」
「お祖父様が力を与えてくれたの」
「王が」
「だからえげつなさが増したのか」
ルプス…それ不敬だから…
「———エミーリアも、強くなっているんだね」
ベルハルトが私を見つめて言った。
「僕ももっと強くならないと」
「…そうね」
ベルハルトと笑みを交わす。
「トロワ、この辺で採れるものでまだ必要な核はあるか?」
「これで充分だが、せっかくだから…」
ぞくり、と背筋に何か走った。
…何これ…黒くてすごく強い…魔力?!
「姫!」
身構えるより早くルプスが私の前に飛び出た。
ほぼ同時にトロワが背後に回り込み、ベルハルトが剣を抜いて構える。
目の前に飛び出してきた、それは…大きく禍々しい気を放っていた。
ヒトに似た身体の頭には二本の長い角、太い尾に翼…
———悪魔。
前世の本で見たその姿にとてもよく似ていた。
それは何かに追われているのか、あっという間に私達の前を駆け抜けていった。
「…まさか」
トロワが呟いた。
「くそっ!」
「追うなアーベル!」
続けて聞こえてきた聞き覚えのある声…これは…
「アーベル?!」
「———エミーリア!」
悪魔のような魔物の後から飛び出してきたのはアーベルだった。
手にした剣と…その身体には赤黒いものが付着している。
「アーベ…」
続いて飛び出たドラゴン姿のカイが私達の姿を見てその足を止めた。
「エミちゃん」
咄嗟にベルハルトが私を引き寄せたけれど…私はその腕の中に目が釘付けになった。
そこには、血まみれの小さなドラゴンがいたのだ。
「カイ…その子見せて!」
ベルハルトを振りほどいてカイに駆け寄ると、地面に横たえられた小さな身体に手を触れる。
———冷たい…
視線を移して…腹部の裂かれたような大きな傷に息を飲んだ。
早く助けないと…!
先ずは傷を塞いで血を止めて…
それから…失った血を増やす?
素早く小さなドラゴンを鑑定する。
大きな怪我は腹部だけみたい。
属性は火だから…私の中の火属性の力を注ぎ込むとドラゴンは赤い光に包まれた。
しばらくして赤い光が消え、中から現れたドラゴンからは傷が消えていた。
もう一度鑑定しながら体内を確認する。
「もう大丈夫みたい」
「…良かった———」
膝をついたアーベルがドラゴンを抱き抱えた。
「コーディ…ホント良かった…」
「エミちゃん…ありがとうな」
いつの間にかヒトの姿になっていたカイが私の隣に立った。
「会えて良かったよ」
「カイ…何があったの?」
「さっきの魔物にやられたのか」
様子を見守っていたルプス達も集まってきた。
「あれは〝グラトニー〟か?」
トロワの言葉にカイは眉をひそめてそちらを向いた。
「あれを知っているのか?」
「聞いた事がある」
「グラトニーって…あの?」
ルプスが目を見開いた。
「封印が解かれたのか?!」
「そのようだな」
「グラトニー?」
さっきの悪魔みたいなの?
「とても凶暴で強い魔物ですよ」
私の問いにトロワが答えた。
「他の魔物や生物の血を好み、奴のせいでいくつもの種族が滅んだそうです。あまりにも強くて倒す事が出来ず、五百年近く前に先代の魔王が何とか封印したと記録に残っていますが…まさか復活するとは」
「そんな…魔物がいるの?」
本当に…悪魔みたいな魔物なのね…
「…俺達が離れている間に龍族の国に現れた。もうふたりやられてる。———あいつ、ドラゴンの血の味を覚えやがった」
カイが険しい顔でそう言うと頭をかきむしった。
「報せを受けて戻る途中で、コーディを咥えた奴に遭遇したんだ。何とか取り戻す事は出来たが…」
「———またドラゴンを狙いに行くのか?」
ベルハルトの言葉にアーベルが慌てて立ち上がった。
「後を追わないと…!」
「待てアーベル。今のお前の力じゃ無理だ」
「だけど!」
「それに本当にまた国へ向かったのかも分からないだろう」
「…アーベル。その剣に付いた血はグラトニーのもの?」
私はアーベルの足元に落ちた剣に視線を落とした。
「そうだけど…」
「フラム」
剣を拾い上げると竜を出す。
「この血の匂いを追って居場所を探して」
フラムは鼻先を剣に近づけるとすぐに飛び上がっていった。
「とりあえず居場所は押さえておくわ」
「エミーリア…そんな事も出来るの?」
「警察犬ならぬ警察竜…?」
「ケーサツケン?」
「グラトニーって、そんなに強いの?」
私はカイを見上げた。
「———俺ら二人じゃコーディを取り戻すだけで精一杯だ」
ため息と共にカイは答えた。
「アーベルは龍王の力を得たばかりだ。まだ全て使いこなせていない」
前世でのふたりの能力を思い出す。
最後まで読めなかったから…アーベルの本当の力は分からないけれど、魔王を倒せるくらいだから相当……
魔王を…そうか。
「ふたりでは無理でも、皆でだったら…勝てるんじゃない?」
六人もいるんだし!




