魔王 04
朝…?
明るい光を感じて目を開けた。
ふかふかのお布団に何だかいい匂い…あれ…どこに泊まったんだっけ…
背後に人の気配を感じて寝返りをうつと、黒髪の…
…あれ?誰———
「おはよう、エミーリア」
長い睫毛の下から赤い瞳が覗いた。
「…おはよう…ございます…」
———思い出した。
昨日…魔族の城に来て、お祖父様の部屋に連れていかれて…
膝の上に乗せられたまま…食事も膝の上で…一緒のベッドで眠って…
「良く眠れたかい」
お祖父様の手が私の頬へと伸びた。
「…はい」
そのまま抱き寄せられて、腕の中に閉じ込められてしまった。
「エミーリアは本当にふわふわしていていい匂いで、気持ちがいいな」
ふわふわ…?
———昨日からずっとこうやってお祖父様の腕の中にいて…
さすがにバスルームにも抱きかかえて連れて行こうとするのは恥ずかし過ぎるのでやめてもらったけれど、それ以外はほぼずっとくっついたままだ。
…なんだか赤ちゃん…というか、猫扱いされてるような……
「おはようございます、お着替えの時間です」
現れた侍女達が、手慣れたようにお祖父様から私を引き剥がすと別の部屋へと連れて行く。
テキパキと夜着を脱がせ、ドレスを着せられて。
…サイズもぴったりだし、空色のふんわりとしたデザインも妙にしっくりくるのよね。
「この服は…」
「エミーナ様のものでございます」
髪を梳かしながら侍女の一人が答えた。
「お母様の…」
「エミーナ様のものは全て保存しておくようにとの陛下の仰せでしたから」
「役に立って良かったですわ」
「本当に、姫様がいらして下さって良かったですわ。エミーナ様がいなくなってからの陛下のお嘆きは見ていられないほどでしたから」
…そう言われると少し心苦しくなってしまう。
お母様が生きていれば……
「ああ、よく似合う」
着替えを済ませた私を見てお祖父様は嬉しそうに目を細めた。
「エミーリアの方が可愛らしいな」
再び膝の上に乗せられる。
「…そうなのですか」
「エミーナは私の膝を嫌がるようになってしまったからな。可愛げが減ってしまったんだよ」
……何年もこうやっていれば嫌になると思うけれど…
先刻着替えの時に侍女達に聞いた話では、お祖父様はいつもお母様を側に置いて手離そうとしなかったらしい。
私もまだ一日も経っていないけれど…正直、ちょっとツライ……
「外へ行こうか」
膝の上に乗せられたまま朝食を終えるとお祖父様が言った。
「外?」
「エミーリアに見せたいものがあるんだ」
「…自分で歩きます!」
抱きかかえたまま椅子から立ち上がろうとしたので慌てて腕から抜け出す。
「そうか…」
悲しそうな顔に心が痛んだけど…さすがに抱っこは恥ずかしいしツライの!
「———手を繋ぐのなら、いいです」
「ああ、やはりエミーリアは可愛いな」
あまりにも悲しそうにするのでついそう言って手を差し出すと、すぐに笑顔になった。
お祖父様が向かったのは庭園だった。
知っている花から見たことのない花まで…様々な種類が咲き乱れている。
「…あ…バラの香り…」
「分かるかい」
ぐいと手を引かれて奥へと進む。
壁のような高い垣根の中を進むと、装飾の施された白い扉があった。
「この先にあるのはエミーリアのものだよ」
ギイ、と重い音を立てて扉が開かれた。
「わ…あ…」
そこはバラの庭だった。
幾何学模様のように区分けされた刈込の花壇には、様々なバラが咲いている。
そして花壇の先にはレンガ作りの建物があって…まるで絵画のような美しいその光景は昔…あれ……?
———私…ここを知っている…
「ここは…」
遠い記憶にある思い出と目の前の景色が重なった。
まさか…
「エミが好きだった庭園にそっくりだろう」
耳元でお祖父様の声が響いた。
「お前が喜ぶと思って作ったんだよ」
「作った…って…」
目の前にあるのは、確かに前世で私が好きだったバラ園だった。
かつて華族の邸宅だったその建物と庭は誰でも見学できるようになっていて…雑誌で見て憧れていた、そして一度だけ行く事が出来た思い出の場所だった。
…それがどうしてここに?それに…
「どうして…お祖父様がこの庭を知って…」
「お前の魂をこの世界に連れてきたのは私だよ」
振り仰ぐと赤い瞳が私を見つめていた。




