魔王 03
「何でフィーア達も付いてくるんだよ」
「だって最初にエミーリア様の事を報告したのは私達だし、気になるじゃない」
私達は城内の長い廊下を歩いていた。
魔王の城は森の一番奥深く、山を背にして建っていた。
その前には広場や商店らしい家々と高い木々が立ち並び、何だか不思議な———それでいて何故か懐かしい気がする光景だった。
城の外観は漫画に出てきたものによく似ているけれど…中は違うのね。
漫画の城の中は迷路みたいだったけど…そうよね、実際に住むのに迷路だと不便だものね。
廊下の突き当たり、大きな扉がゆっくりと開かれた。
そこは天井が高い広間だった。
正面の、階段のある台座の上、立派な椅子に一人の男性が座っている。
その左右にはそれぞれ三人ずつが立っていた。
「お連れしました」
私達を連れてきた男達が下がった。
「———近くに寄れ」
椅子に座った男性が私を見つめて口を開いた。
よく通る声が広間に響き渡る。
隣のベルハルトを見ると…大丈夫というように頷いた。
私はひとり前に進んだ。
「……エミーリアです」
マントの裾を摘むと礼を取り、顔を上げるとどよめきが起きた。
そのひとは———漫画で見た魔王とよく似ていた。
切れ長の瞳が私を見つめている。
見た目はお父様達よりも若く見えるけれど…
このひとが…お祖父様……
「もっと近くに」
「…はい」
台座の階段を上り、目の前に立つ。
「やっと来たか」
差し出された大きな手が私の頬に触れた。
「十六年かかったな」
「…え?」
言葉に何か…引っ掛かりを感じるような…
「面白いものを持っているな」
「面白い…?」
「強い魔力を感じる」
指し示した場所に仕舞ってあるものを思い出して…それを取り出した。
「生まれて三日で亡くなった…私のお兄様です」
周囲から再びどよめきが起きた。
「ああ、いい核だ」
私から核を受け取るとそれを眺めてお祖父様は言った。
「だがこれはとても危険なものだ」
「危険?」
「我々魔族が核を己の中に取り込める事は知っているか」
「…はい」
「核にはその魔物や魔族が生きてきた記憶が刻み込まれている。そのため癖や相性といったものが出てくるが、生まれてすぐに死んだ核は純粋な力のみが宿る。ましてこれは私の力を継ぐもの。これを取り込んだ者は次の魔王になれるだけの力を得るだろう」
え…そんなすごいものなの…?
「試してみるか、エミーリア」
「え?」
「これをお前が取り込めば純粋な魔族になれるし、血筋からいってもお前が私の後継となる」
「いいえっ」
私は慌てて首を横に振った。
「私は…そのような事は望みません」
「そうか」
お祖父様は視線を私の背後へと移した。
「ならばそこの人間が使うか?」
「……僕が?」
「お前はエミーリアと一緒にいたいのだろう。エミーリアと同じ長さの時間を生きることができるぞ」
「陛下!そのような貴重なものを人間になど…」
お祖父様のすぐ隣に立っていたひとが慌てて声を上げた。
「この核は私の孫だ。どう使おうと勝手だろう」
「ですがっ!」
「…煩い奴だな。おいでエミーリア」
私を引き寄せ抱き上げると、お祖父様は立ち上がった。
「陛下」
「お前たちも下がっていい」
一同に背を向けるとお祖父様は台座を降りて広間を後にした。
「あーあ、やっぱりな」
エミーリアを抱えた魔王の背中を見送ってルプスがため息をついた。
「あれは当分手放さないな」
「エミーナ様が子供に戻って帰ってきたようなものだからな」
「エミーリア様は耐えられるかしら…」
「どういう事だ」
ルプスとフィーア達の言葉に不安を覚える。
「王はエミーナ様が子供の頃、いつもああしてどこへ行くにも手放さなかったんだ」
「エミーナ様が出て行った原因の一つは魔王様の過剰な過保護と溺愛だったわ…」
「あれと比べるとベルハルトの嫉妬なんて可愛いものだな」
「それは…」
「まあしばらくは諦めるんだな。先に剣と薬作りを進めて———」
「ルプス!」
先刻魔王を制しようとしていた男がやってきた。
「このバカ息子が!お前は何年も戻らず何をしていたんだ」
「言っただろ、エミーナ様を探しに行くって」
「連絡くらいよこさないか!」
「面倒くさい」
「っお前というやつは…」
「まあまあ、ディルク様」
フィーアが宥めるように男の肩を叩いた。
「エミーリア様を見つけてきたのだから、いいじゃないですか」
「…見つけた事を報告もせず、勝手に血の契約まで結んだそうだな」
じろり、と鋭い目つきが僕を見た。
「おまけに人間まで連れ込んで…」
「仕方ないだろ、無理に引き離したら姫様が悲しむ」
「…ともかくお前には話がある。家に戻って…」
「やだね、俺は忙しいんだ」
ルプスは僕の背中を押した。
「ほら行くぞ、じゃあな親父」
「おいルプス…!」
「…いいのか?」
後ろも振り返らず歩き出したルプスを見やる。
「僕達には里帰りするよう言っていたのに」
「頭の固い年寄りと話す事はない」
「本当に、あの生真面目なディルク様と親子だなんて信じられないわ」
くすくすと笑ってそう言うと、フィーアは僕を見た。
「でも意外だったわ、魔王様があんな事を言うなんて」
「あんな事?」
「人間のあなたに自分の力を受け継ぐ核を与えてもいいだなんて。エミーナ様の時は猛反対していたのに」
「というか人間が核を取り込めるものなのか?トロワ」
「聞いた事はないが…王ならば出来るかもな。あの方の力はまた特殊だから」
「———そんなに魔族と人間の寿命は違うものなのか?」
それはずっと気になっていた事だった。
「違うというか別物だな」
「別物?」
「魔族の寿命は魔力の強さと量で決まる。強ければ強いほど長生きするし年も取らない。王もあの見た目だが俺の親父よりはるかに歳上だ」
「エミーリア様は半分人間だから、分からないけれど…少なくとも普通の人間よりは長く生きるでしょうね」
「…そうか」
「長生きしたいか?」
「———可能ならば」
少しでも長く…エミーリアと共にいたい。
その願いを叶えられるのならば———




