魔王 02
「ほう、こちらがエミーナ様の」
鍛冶師はいかにも職人という感じの、髭がよく似合う男性だった。
「彼はシュミット。武具の事は何でも知っています」
「何でもは大袈裟だ」
シュミットはベルハルトを値踏みするように眺めた。
「ふむ、人間にしてはいい腕を持っているようだな」
「見て分かるのか?」
「身体つきを見れば力やクセ、どんな武器が得意か大体分かるさ」
そう答えて、隣のルプスに視線を送る。
「ルプス…お前が相当鍛えているな」
「まあな」
「お前がそこまで入れ込むとは珍しい」
「…色々あるんだよ」
ふっと小さくルプスは息をついた。
「それで、剣は作れるのか?」
「理屈では作れる」
「理屈?」
「まず魔力を使って剣にするのは珍しくない。ルプスの剣もそうだからな」
「…そうだったの?」
「ルプスの魔力を必要な時だけ剣の形に変えているんだ。だがあくまでも剣として使うのであって、それで魔法が使える訳ではない」
シュミットはベルハルトを見た。
「お前さん達が望む剣を作るには、剣に魔法を貯めてそれを攻撃に変える媒体となる物が必要だ」
「取ってきたカスペルの核は?」
「悪くはないが、このままでは使えない。お前さんの魔力を馴染ませ、更に攻撃魔法に変える工夫をしなければならん」
「どうやって?」
「さあ、それは儂には分からんよ。専門外だ」
「姫様、出来る?」
ルプスに聞かれて首を捻った。
「うーん……出来る…かな?」
「試しにやってみるか」
シュミットが核を三つ手に取ると私に渡した。
「ベルハルト、手を乗せてくれる?」
核を乗せた手のひらに、ベルハルトの手が重なる。
「魔力を注いで」
重なった手のひらが白く光った。
温かくて心地の良いベルハルトの魔力にうっとりしそうになるのを堪えながら、その魔力を核に流し込む。
核が変換器になるイメージを思い浮かべながら、一緒に私の魔力も注ぎ込んだ。
一瞬白い光が強くなり、やがて消えた。
重なっていた手のひらを離すと、そこには白くなった核があった。
「…これで上手く行ったのか?」
「どうかしら…」
見た目は変わったけど…
「あとは作って見ないと分からんな」
核を受け取ってシュミットが言った。
「だがいきなり剣を作るのは時間も掛かるから何か試作してみたいが…」
「———なあ、それ俺のも作れる?」
黙って見守っていたルプスが口を開いた。
「ルプスの?」
「短剣が欲しいと思ってたんだが、どうせなら魔法が使えるやつがいい」
「短剣?どんな形のだ」
「そうだなあ、これかな」
ルプスは壁に掛けられた様々な剣の中から一本の小さな剣を手に取った。
「ふむ、これなら一晩あれば作れるし試しに作るには良いかもな。姫様、ルプスにも今のやってみてくれるかい、核は一つでいい」
「分かったわ」
ベルハルトと同じようにルプスの魔力を核に注いでいると、工房のドアが乱暴に叩かれた。
「今日は来客の多い日だ」
ドアの向こうには、大柄な男性が二人立っていた。
その後ろにはフィーアの顔が見える。
「ここにルプスと奴が連れてきた者達はいるか?」
「何の用だ」
ルプスが男達の前に立った。
「お前達を連れてくるようにと陛下の命令だ」
え…お祖父様の?
思わずベルハルトの腕にしがみついた。
「———門番の連中が報告したか」
ちっと小さく舌打ちしてルプスは振り返った。
「どうする姫様、行く?」
え?
「…行かない選択肢はあるの?」
「姫様が嫌なら行かないよ」
「おいルプス、陛下の命令に———」
「俺は王より姫様優先なんだ」
「大丈夫だよ」
耳元でベルハルトが囁いた。
「ここの魔族達は皆優しい。きっとエミーリアを悪いようにはしないよ」
「———そうね…」
顔を見合わせて頷く。
「分かったわ、行くわ」
ルプスと男達を見て私はそう言った。




