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魔族 01

王宮までは騎士団長のデルカさんが送ってくれる事になった。

馬車に乗るのも久しぶりだ。

「昨日はごめんね」

「え?」

「…あまりにもエミーリアのドレス姿が色っぽかったから、我慢できずに言っちゃった」

顔を赤らめて言うベルハルトに、こちらも顔が赤くなってくる。

———その事は考えないようにする事にしたのに!

「あの…ごめんね。やっぱり私はまだ…早いと思うの」

「うん、分かってる。———でもね、正直、いつまで我慢出来るか分からないんだ」

王子様スマイル全開でそんな事言われても!

「昨夜は一人で寝るから大丈夫だと思ったんだけど、エミーリアの温もりがなくて寂しくて眠れなかったんだよね。いても辛いしいなくても辛いし、どうしたらいいんだろうね」

私に聞かないで!

というか朝からそんな話しないで!



ラビア領は王都と隣接しており、馬脚の強い騎士団の馬を使っている事もあって夕方には王宮へ着いた。

「へえ、例の魔物をねえ」

私達を迎えたのはこの国の王太子だ。

穏やかそうな、気品ある佇まいはディート様を思い出させた。


「王宮に夜な夜な魔物が出るとのお話でしたが」

「ああ、実害はないのだが城の者達が怖がるし、何より外聞が悪い」

最初の目撃は一月ほど前だったそうだ。

数日置きに現れ、最近は毎日のように出没するという。

現れる場所は様々だが、時間は大体日付の変わった頃。

目撃した者の話では、何かを探しているように見えたらしい。

「出来れば退治して欲しいが、魔物の目的が知りたいのと、二度と王宮に出ないようにして貰えれば良い」

「承知いたしました」


王太子から晩餐に誘われたけれど…さすがにまた素性を探られるのは困るので、食べ過ぎは仕事に差し障るからと軽い食事を用意してもらった。

「この仕事を終えたらすぐこの国を離れよう」

「どうして?」

食事を取りながら、ふてくされたような表情でベルハルトが言った。

「あの王子…エミーリアの事欲しそうに見てた」

「…そうなの?」

気付かなかったけど?!

いい人そうだったよ?

「心配し過ぎよベルハルトは」

「エミーリアの自覚のなさが心配なの。君の魔力はどの国も欲しがるくらいのものだし、何より君はとっても可愛いんだから。男からどういう目で見られるのかちゃんと自覚して」

「———それを言ったらベルハルトの方がモテるじゃない」

食堂に入った時とか、周囲の女性の視線がすごいんだからね!

「僕は男だから大丈夫。君は見た目は非力な女の子なんだよ。男はみんな君を狙ってると思った方がいい」

「…それは言い過ぎよ」

「それくらい気を付けておいた方が無自覚なエミーリアにはちょうどいいの」

———ベルハルトは…いつもは冷静で聡明なのに、どうも私の事になるとおかしくなる。

それだけ…愛されてるって事…なんだろうけど。

「ああほら、そういう顔が一番ダメだから」

思わず顔が赤くなっているとベルハルトが眉を顰めた。

…この顔の原因はベルハルトだからね!



魔物が出るという時間が近づいてきたので動き出す。

神出鬼没という事なので、王宮全体に罠を張った。

イメージは蜘蛛の巣。罠に人間以外の魔力が触れればすぐ分かるはず。

それでも漏れた場合を考えて、ベルハルトと別行動を取る事にした。


人気のない夜の中庭を一人歩く。

建てられてから随分経つのだろう、古びた柱が並ぶ夜の王宮はいかにも魔物が出そうな雰囲気がある。

しかし…魔物は何かを探しているようだと言っていた。

王宮に魔物が求めるようなものがあるのだろうか。


ピン…と糸が震えるような気配を感じた。

———出た!

この気配の場所は…え、真後ろ?!

ばっと振り返ると、そこに一頭の大きな黒い狼がいた。

二つの赤い瞳がじっと私を見つめている。

…全然気配に気付かなかった。

すぐに私を襲う気配はないけれど…。

まずは相手の情報を得るため〝鑑定〟する。


———え?

この魔物…?


「エミーナ様…?」

それは確かに…目の前の狼から発せられた言葉だった。

言葉を喋る魔物なんて…まだ見たことない。

ふいに狼の姿が人間に変化した。

黒い服を着た、黒髪に赤い瞳の…見た目若そうな男で…

まさかこのひと———


「エミーナ様!」

動揺した隙を突かれて間を詰められ、目の前に現れた男の手が私の肩を掴んだ。

「え、待ってエミーナ様?小さくなった?あれ何で人間の匂い…」

いやあ匂いを嗅がないで!あとエミーナじゃない!

あれでも名前…

「———まさか…」

男が私の顔をじっと見つめる。

「エミーナ様と…あの人間の子供…?」

ドクン、と心臓が跳ねる。

このひと…

「…私の両親を…知っているの…?」


「マジか…」

赤い瞳が大きく見開かれた。

「おい…姫様!エミーナ様は何処だ?!」

「知らない…痛いから離して!」

肩を強く揺さぶられ…その痛みに顔をしかめると、男は慌てて手を離した。

「申し訳ない…」

「…両親の顔も居場所も知らないわ。知っているのは…母が魔物らしいって事だけよ」

「———そうか」

急にシュンとした顔になる。

「しかし姫様はエミーナ様の子供の時にそっくりだな。それにこの気配も…ん?」

何かに気づいたように、男の手が私の首元へ伸びた。

「これ…!」

チャリ、と音を立てて、マントの下に隠してあった赤いペンダントを取り出す。

「触らないで!」

「これ…エミーナ様の核———」

……え?


「核…って…黒いんじゃ…」

「俺たち〝魔族〟の核は赤いんだ。赤ければ赤いほど強い魔力を持っている証だ」

核?これが私の…母の?

それって……

「お母様は…もう死んでいるの?」


急に身体の力が抜けて私は床に崩れ落ちた。

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