旅立ち 05
「あれかしら」
「そうだな…」
私達の視線の先には一体の魔物がいた。
熊に似た姿の、とても大きな身体で…確かにあれなら人間も食べられそう。
「あいつの情報は?」
「爪を活かした攻撃が中心。防御力はかなり高くて、魔法はあまり得意ではないみたい」
魔物を〝鑑定〟する。
「僕が行く。援護を頼む」
「分かったわ」
剣を抜くとベルハルトは飛び出した。
一気に斬りかかるけれど、気付いた魔物が腕を振り上げそれを弾く。
———剣では切れないのか。
「エミーリア、魔法を!」
私は手のひらに光の玉を作るとそれをベルハルトに向かって放った。
たちまち剣が金色の光に包まれる。
ギルドマスターの言っていた通り、魔物は手強かった。
魔力を帯びた剣でもなかなかダメージが与えられない。
もっと援護した方がいいのかな…。
でも複数の相手ではなく一対一の相手の場合、ベルハルトは訓練も兼ねてどんなに苦しくても一人で戦いたがるのよね…。
迷っているうちに決着がついたようだった。
トドメを刺す一振りが魔物の首を切り裂いた。
「きっつ…」
ベルハルトは珍しく荒く息をついていた。
「お疲れさま…」
私は倒したばかりの魔物を見下ろした。
最初の頃は…血まみれの死体にうっとくる事もあったけれど。
慣れって怖いなあと思う。
魔物を倒す事には初めから抵抗がなくて。
———本当に自分が彼らと同じ仲間なのか…不思議な気持ちになる。
でもその辺りはエミールも気にしてないみたいだったからな…
「エミーリア、核を取ってくれる?」
「ええ」
魔物の死体に手をかざすと、その身体から黒い石が浮き上がった。
それを手に取ると死体はかき消えた。
これは〝核〟と呼ばれていて、魔物の命の素らしい。
これをギルドに持っていき、鑑定してもらって報酬を得るのだ。
…私も…この核を持っているのかしら?
多分自分は魔物と人間のハーフだと思うんだけど…そういう場合はどうなんだろう?
というかこんな石が自分の身体の中にあるんだろうか?
どこにあるの?あったら痛くないの?
「エミーリア?どうしたの、早く帰ろう」
「あ…うん」
先に歩き出したベルハルトの後を慌てて追って、私達は森を出た。
「ああ、あの二人だよ」
ギルドへ行くとマスターが声を上げた。
その隣には立派な鎧を身に付けた騎士が一人立っていた。
「この二人…ですか」
騎士は意外そうな顔で私達を見る。
「とても魔物を倒しそうに見えないだろう?だがえらい強いんだよこの子達は」
マスターは私達の前まで来た。
「今日は森へ行くんじゃなかったのか?」
「ああ、頼まれた魔物を倒してきた。確認してくれ」
ベルハルトが核を差し出すと———マスターの顔が強張った。
「は?もう…?ち、ちょっと待て」
核を受け取ると慌てて机へ向かうと引き出しから箱を取り出すとその中に核を入れ、虫眼鏡のようなもので確認する。
「間違いない、例の魔物だ———いや驚いたな」
本当に驚いたように、マスターの声は上ずっていた。
「ここの騎士団でも敵わなかった魔物だぞ」
「ああ、あれには普通の剣は効かないからな、何人でかかっても無駄だろう」
「ならば…どうやって倒したんだ?」
騎士がベルハルトに向かって尋ねた。
「剣に魔力を加えたんだ。魔法で攻撃する以上の効果がある」
「なるほどねえ。…うちには回復専門の魔術師しかいないからなあ」
そういえばこの国では攻撃魔法が使える魔術師は貴重だとマスターが言っていたな。
頷きながらそう言って、騎士は気づいたように顔を上げた。
「ああ、申し遅れた。私はこのラビア領の騎士団長のロベルト・デルカだ。長年領地を悩ます魔物を退治する者が現れたとギルドから報告があったので様子を見に来たんだ」
私達を探るように見るその視線は…けれど不快なものではない。
多分、この騎士団長さんは実直な人なんだろう。
人柄の良さが身体から滲み出ていた。
「しかしそれにしても、いくら魔法を使ったとはいえ子供二人でねえ」
子供と言われてベルハルトの顔が少しムッとしたけれど…実際私達はまだ子供だからね!
「それで、報酬は?」
「ああ、これだ」
マスターではなく騎士団長さんが袋を差し出した。わ、重そう…。
ベルハルトが中身を確認したので脇から覗くと…え、こんなに?
「随分と多いんだな」
「それだけの価値があるんだよこの核には」
マスターが答える。
「このクラスの魔物の核は滅多に手に入らない。上手く使えば最上級の防具が作れるぞ」
魔物の核は薬や防具の材料になる。
魔物の強さによってその効果も変わるらしい。
「それに毎年あの魔物に喰われる領民が何人も出ていたからな、君達は恩人だよ」
騎士団長さんが私達の肩に手を乗せた。
「もしも魔物を退治できたなら、是非倒した者達を屋敷に招いて労いたいとの領主からの言葉だ。来てくれるかい」
え…
ベルハルトと顔を見合わせた。
———確かここの領主って侯爵だったよね。
他国とはいえ…あまり貴族階級の人達と接触はしたくない。
「有難いが僕たちはもう次の地へ向かわなければならないんだ」
「これから雨が降るそうだ。今日は屋敷のいいベッドで休んで出発は明日にした方がいいぞ」
かっしりと肩をつかまれ…痛い…
というか侯爵様のお屋敷に泊まるの?!
「そういう心配は不要で…」
「こんな小さな女の子を雨の中歩かせるのか?」
ひょい、と私は団長さんに担ぎ上げられてしまった。
「エミーリア!」
「女の子は大事にしてやらないとな。振られても知らないぞ」
にっと笑顔を見せた団長さんにベルハルトはぐっと息を飲んだ。
団長さんの押しの強さに負けて、私達は侯爵家へ行く事になってしまった。




