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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第一章 召使編
64/1356

64 衝撃

 クオンは睨んだ。


 リーナではなく弟の方を。


「なぜ、召使いの名前を知っている?」

「前に会ったことがあるのです」


 エゼルバードは答えた。


「過労で倒れた若い女性を発見したとお話ししたはずです。その女性です」


 リーナが過労で倒れたのか?


 だが、早朝から勤務をしていたのは知っている。真面目なのも。


 忙し過ぎて、体が限界を迎えたことは容易に想像がついた。


 それだけではない。


 なぜ、エゼルバードがタオルやトイレットペーパーのような細かい備品のことに気づいたのかも理解した。


「この者に聞いたな?」

「何のことでしょうか?」

「備品のことだ」


 エゼルバードは微笑んだ。


「実はそうです。見舞いに行った際に、少しだけ話をしたのですが、その中に気になっていることとして備品の話が出たのです」


 やはりそうかとクオンは感じた。


「些細なことではありますが、うまく活用すればいいだけのこと。無駄もなくなり、悪しき部分が改善されました。リーナも気になっていることがなくなり、喜んでいることでしょう」

「お前が召使いを気にするようになるとはな」


 クオンは知っている。


 エゼルバードは召使いを何とも思っていない。


 エゼルバードは兄の不機嫌さを察知した。


 部外者は早めに退出させるに限る。


「リーナ、早く新しい飲み物を持って来なさい。のどが渇いてしまいました」

「はい。給仕の担当に新しいコーヒーとお茶を持ってくるように伝えます」


 リーナは深々と一礼すると、ワゴンを押して廊下を戻った。


 急いでいるせいでワゴンがガタガタと揺れる。


 高価そうな食器を落とすのが怖くもある。


 壊したら大変……。


 リーナが角を曲がろうとした時、急いできた者とぶつかってしまった。


 ワゴンが大きな音を立てて揺れ、一番上に置いていたカップとソーサーが一客滑り落ちた。


 ガシャン!


 リーナは呆然とした。


 そ、そんな……。


 大変だ。大失態だ。どうしようという気持ちでいっぱいになった。


「あれ、リーナちゃん?」

 

 ぶつかった相手は赤い髪に緑の瞳を持つ男性。


 知っている者だった。


「ごめん。急いでいたから……これ、もしかして中庭から持ってきた?」


 ヘンデルはワゴンと落ちて割れた食器を見て尋ねた。


「はい」


 リーナは泣きそうな顔で答えた。


「通りがかったら、これを下げろと命令されました」

「てことは、会った?」

「王族にお目見えする機会を与えられました」

「そっか」


 クオンの正体がわかっちゃったなあ。


 ヘンデルは心の中で呟いた。


「取りあえず、これはリーナちゃんのせいじゃない。俺のせいにしていいよ、処罰されたら困るでしょ?」

「いいのですか?」


 リーナは自分のせいだと思っていた。


「急いで角を曲がったのは俺の方だしね。俺の名前を言えばいい。後から侍従か侍女にでも言っておくから」

「わかりました」

「じゃあね!」


 ヘンデルはそう言うと、急いで行ってしまった。


 リーナは廊下に落ちた食器を拾い集めた。


 急ぐようにと言われたのに、余計に時間がかかってしまっている。


 その後は食器を落とさないよう気をつけながらワゴンを押して移動した。


 侍女のいる部屋に行くと、事情を伝えた。


「それで、廊下でぶつかった警備の名前は?」

「あ……」


 リーナは名前を聞いていないことにようやく気が付いた。





 クオンは弟のエゼルバードと二人だけで会談をする予定だった。


 最初は王宮でする予定だったのだが、エゼルバードの希望で後宮になった。


 執務ばかりで外に出ないクオンのことを考え、たまには人が来ないような場所で日光浴でもしながら話をするのはどうかという提案を、弟の好意として素直に受け取ることにした。


 いくつかの事案について互いの意見を交換するが、あまり良くはない。


 元々、クオンとエゼルバードは性格もやり方も違う。


 クオンは着実に物事を進めたいが、エゼルバードは面倒を避けたい。


 見切り発車をするかどうかで合意できなかった。


 長居は無用だとクオンは思っていた。


 長くなればなるほど、互いの違いがはっきりとしてしまう。まとまらないだけでなく、弟に自身の考えややり方を押し付けてしまう気がした。


 エゼルバードは自由を愛している。


 クオンは絶対に王太子という重い責務から逃れることはできない。


 だからこそ、弟達の自由を守りたいと思っていた。そのために、自身は王太子なのだとも。


 一方、エゼルバードは兄であるクオンと過ごす時間を楽しんでいた。


 エゼルバードは兄を心から尊敬している。


 自分以上の人間は兄しかいないとさえ思っている。


 実を言えば、幼い頃のエゼルバードは自身を天才、兄を秀才だと思っていた。


 それは周囲の大人の評価をそのまま受け取っていたからでもあるが、真面目過ぎる兄の不器用さを見下し、利口で器用な自分の方がよっぽど優れていると思っていたからでもある。


 自分はできる。わかる。だというのに、年上の兄はできない。わからない。


 優越感を感じていた。


 しかし、エゼルバードの認識は覆った。


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