31 クオンとの再会
問題が発生した。
体が成長したことによって制服がきつくなってしまったのだ。
「制服のサイズを交換しなさい」
「マーサ様、制服のサイズが大きくなると」
「有料です」
やっぱり……。
リーナはがっくりと肩を落とした。
またしても借金が増えた。
エプロンや帽子については交換する必要がないのが救いだった。
成長したのに喜べない……。
リーナはイチゴ味のキャンディを何個も食べてしまった。
そのせいでイチゴ味のキャンディがなくなった。
そのことがリーナをさらに落ち込ませた。
パスカルから貰ったイチゴのキャンディがリーナの心を支えていた。
キャンディがなくなったことで、心の支えがなくなってしまったようにリーナは感じてしまった。
元気が出ない。心が重い。
そんな毎日が続いた。
だが、リーナには休みがない。毎日勤務に行かなければならない。
重い足取りで勤務を続けた結果、ついにリーナは失態を犯してしまった。
「何者だ?」
リーナは状況がすぐに把握できなかった。
控えの間のドアを開けると、そこには男性がいた。
ソファから起き上がり、腰の剣に手をかける。
厳しい視線でリーナを睨みつけ、恐ろしい口調で尋ねてきた。
「申し訳ありません!」
リーナは謝罪した。とにかく謝罪することが最優先だと思った。
控えの間は使用中だった。
そのことを知らず、ノックをすることなくいきなりドアを開けてしまった。
「お部屋を間違えました! 大変申し訳ございませんでした!」
すぐにドアを閉めようとするが、
「待て! 何者だと聞いているのに、答えないつもりか?」
質問に答えていなかったと気付き、リーナはすぐに名乗った。
「リーナと申します。掃除部に所属しています。掃除に来たのですが、お部屋を間違えてしまったようです。大変申し訳ございません!」
「こんな時間に掃除だと?」
リーナは早朝勤務で、青の控えの間に行くはずだった。
「青の控えの間に行くつもりで」
「ここは緑だ」
「申し訳ありません!」
リーナは深々と頭を下げ、もう一度謝罪した。
部屋の内装は緑。つまり、ここは緑の控えの間だということになる。
以前は緑の控えの間から掃除していたせいか、間違えて緑の控えの間に来てしまったのだ。
「お前は……トイレ掃除の者か?」
男性が尋ねる。
「はい」
リーナはそう答えつつ、男性の顔を見つめた。
金の髪。銀の瞳。見れば見るほど美しい色。
リーナのようにくすんだ金でも、曇り空のようにどんよりとした灰色でもない。
意志の強さを感じさせる整った容貌。高貴な身分を感じさせるオーラ。
リーナは過去にも同じような印象を持つ者に会った気がした。
「……クオン様?」
一年ほど前、やはり緑の控えの間で会ったことがある男性だ。
「人違いだ」
男性はそう言った。きっぱりと。
「えっ?」
リーナはてっきり以前に会ったことのある男性だと思った。
だが、本人が違うと言っている。
自分の勘違いだと思うしかない。
「申し訳ありません。一年ほど前にお会いした方に似ていると思いまして………同じような状況だったので間違えてしまいました。重ね重ね申し訳ありません!」
リーナは頭を深々と下げて謝罪した。
男性はリーナの姿を強い視線で探るように見つめた。
「……以前は下働きだったか?」
「下働きでした。クオン様にお会いした後、召使いに昇格しました」
「思い出した。もっと細い女性だった気がしたが、服装が違うためにわからなかった。お前はあの時の者か」
クオンは思い出した。
後宮内の問題が発覚した件だ。
「初対面だと思って否定したが、私はクオンだ」
クオンは訂正した。
知らない者や覚えていない者に馴れ馴れしく名前を呼ばれたくないが、知っている者であれば別だ。
実を言えば、自分がどのように名乗ったのかも忘れていた。
「お久しぶりでございます。その節は大変失礼致しました。改めて心より謝罪申し上げます」
「質問がある。近くに来い」
リーナとしてはさっさとドアを閉めて青の控えの間に行きたい気分だが、できるわけもない。
言われた通り部屋の中に入った。
「ドアを閉めろ。もっと近寄れ。内密に聞きたいことがある」
リーナはドアを閉め、クオンの近くに移動した。