32 質問されて
「どのようなことでしょうか?」
「太ったな」
意外過ぎる言葉にリーナは唖然とした。
「後宮の生活はどうだ? 十分か?」
「……衣食住に困らないということでしょうか?」
「そうだ。太ったからには良い生活をしているのではないか?」
「はい」
リーナは正直に頷いた。
孤児院よりもずっと良い生活をしていると思った。
「どんな食事をしている? 豪勢か?」
「豪勢です」
「例えば、どんなものだ?」
「スープとパンです」
「他には?」
「ないです」
クオンは眉をひそめた。
「ないだと?」
「はい」
「豪勢な食事ではなかったのか?」
「豪勢です。スープには具が入っていますし、パンもまるまる一つです。一切れではありません。しかも大きいパンです!」
しばしの沈黙。
「他には一切ないのか? 肉や果物などは?」
「肉はスープの中にあります。運がいいと切れ端のようなものが入っています。果物はありません」
「その程度の食事は豪勢とは言わない。かなり貧しい環境に生まれたな?」
間違いないとクオンは思った。
しかし、
「生まれは貧しくありません。ただ、両親が死んだ後は孤児院で育ちました。その際に貧しい環境を経験しました」
「そのせいか」
クオンは納得した。
「給与はいくらだ?」
「月給で十八万ギニーです」
「それで菓子でも買って食べているのか?」
後宮の購買部は有名だ。特に菓子が。
王宮の購買部よりも商品が充実している。営業時間も長い。
王宮の購買部も後宮の購買部のようにして欲しいという要望が多数あるほどだ。
「お菓子を食べたことはありますが、買ったことはありません」
「買ったことがないのか? 一度も?」
「はい。一度もありません」
「貰っているのか?」
リーナは記憶を探った。
「お菓子を貰ったのは二回だけです」
「なぜ太ったのか理由がわかるか?」
「……成長期だから?」
リーナは思いついた理由を口にした。
クオンは怪訝な表情を浮かべたものの、否定はしなかった。
確かに若い。成長期でもおかしくなかった。
「給与ではどんなものを買っている?」
「何も買っていません。生活費と借金の返済でなくなってしまいます。だから、何も買えません。でも、どうしても必要な物があるので、借金をして買っています」
「買っているではないか」
「あ、そうですね!」
リーナはクオンに指摘されて気が付いた。
「必要なものとはどういったものだ?」
「一番高かったのは時計です。二十万ギニーもしました」
「もっと安いのを買えばいい」
「購買部で一番安いのが二十万ギニーなのです。勤務に必要だと言われて買いましたが、本当は買いたくありませんでした」
クオンはリーナの言葉に違和感を覚えた。
普通に考えれば、高価な時計を購入できることを喜ぶはずだ。
ところが、リーナは喜んでいない。
勤務に必要だと言われて買った、本当は買いたくなかったという。
買うのを強要されたように聞こえた。
「時計を持っている者と一緒に掃除をすれば、購入する必要はなかったのではないか?」
「私は一人で仕事をしています。トイレ掃除と備品確認の巡回です。指定された時間を守るためには時計が必要です。他に方法があるとは思えませんでした」
以前リーナに会った際も一人だったことをクオンは思い出した。
「今も一人で仕事をしているのか?」
「はい」
「トイレ掃除と備品の確認だな?」
「はい」
「仕事に行け」
「はい。失礼致します」
リーナは深々と頭を下げ、部屋を退出した。





