270 傀儡の王
国王ハーヴェリオンにとって唯一の妻だった側妃のリエラが後宮で死んだ。
公式発表は病死。
愛する女性を失ったハーヴェリオンは失意の日々を送っていた。
後宮から王宮に出仕する時には元気だったリエラが突然病死するわけがない。
本当のことを教えてほしいとハーヴェリオンは宰相に頼んだが、全ては終ったことだけに忘れるよう言われてしまった。
ハーヴェリオンは自身の要望を無視する重臣たちに対抗するため、執務を放棄した。
それほどまでにリエラの死は大きなものだった。
そんな時、ハーヴェリオンに謁見の許可を求める者がいた。
ラグエルド・アンダリア。
平民だったリエラはハーヴェリオンの妻になるためにアンダリア伯爵家の養女になっており、ラグエルドはリエラにとって義理の兄になった人物だった。
アンダリア伯爵家は多額の負債を抱えていたが、ラグエルドの父親がリエラを養女に迎えることで謝礼金をもらった。
それによって危機的情報を脱することができたのもつかの間、ラグエルドの父親は過労で死んでしまった。
長男が後を継いだが、個人的な借金を多く抱えていた。
またもやアンダリア伯爵家は多額の負債を抱えることになり、自暴自棄になった長男は死んでしまった。
その結果、次男だったラグエルドが借金まみれのアンダリア伯爵位を相続することになり、国王の助力を求めてはるばる領地から来たのだった。
王権を持っていない傀儡の王にできる助力はないように思えた。
しかし、ハーヴェリオンは思いついた。
リエラには多くの宝飾品を与えた。
それを形見として義理の兄のラグエルドに渡し、借金を清算するための助力をする。
その見返りとしてラグエルドはリエラが死んだ理由を調べ、ハーヴェリオンに知らせるという取引をすることにした。
ラグエルドはハーヴェリオンとの取引を了承し、譲り受けた形見を売り払って借金を清算した。
そして、死んだ妹の世話をしてくれていた者にこれまでの礼を伝えるという方法で関係者と会い、リエラが死んだ理由について調べた。
すると、内部通達では自殺になっていたことがわかった。
ハーヴェリオンはより詳しく調べさせることにした。
ラグエルドがより多くの情報を集めた結果、リエラが死んでいたのは王弟の部屋だったことがわかった。
王弟を溺愛していた王太后はそのことを隠ぺいしようとしたが、宰相に知られてしまった。
王太后と宰相は話し合い、王家の大醜聞になるのを避けるため、関係者への内部通達では自殺、公式発表では病死にすることを決定した。
しかし、発見された状態から見ると不審死、他殺の可能性が高いことをラグエルドは調べ、ハーヴェリオンに報告した。
王位や権力を巡る争いが王宮にも後宮にもはびこっている。
リエラはそれに巻き込まれた。
いかに国王の寵愛を受けていても、元平民。体裁を整えるために貧乏な伯爵家の養女になっただけの非力な女性に抗う術はなかったのだろうという結論になった。
ハーヴェリオンは激怒した。
リエラを失ったのは母親である王太后や宰相や重臣たちのせい、自分を傀儡の王にして腐敗政治を行い、権力争いに明け暮れているからだと思った。
ハーヴェリオンは王権を取り戻して復讐することを誓った。
盟友にしたラグエルドと二人で話し合い、正妃候補や側妃候補として貴族の令嬢を集め、その令嬢や実家の力を使って味方を増やすことにした。
若き国王の新たな妻になる候補として後宮に入った女性は百人。
リエラが死んだことで静まり返っていた後宮は、一気に息を吹き返した。
ハーヴェリオンとラグエンドは後宮に入宮した令嬢の中から信用できそうな者や役に立ちそうな者を選別した。
密約を結び、宰相や重臣の不正や横領の証拠を集め続ける。
そしてついに、宰相や重臣の令嬢や縁者を候補者から外す宣言をするのと同時に、その理由として家族や縁者が不正や横領をしていることを公表して捕縛した。
後宮からさまざまな理由で候補者がいなくなり、国政の担い手もハーヴェリオンの味方をした者ばかりになった。
反逆罪が確定した宰相や重臣たちは次々と処刑された。
度重なる重税は反逆者による国家権力の不正行使であることも公表された。
国民は不正や横領を行っていた貴族が反逆者として処刑されたこと、国王が優秀な平民の登用を進めることや大幅な減税を行うことに歓喜した。
ハーヴェリオンとラグエルドは新体制を整えながら、二度と同じようなことが繰り返されないよう問題や懸念材料を一つずつ解決し、王権を強化していった。





