1364 召し上がれ
クオンは愛の日の勤務時間を短縮したため、リーナと一緒にお茶の時間を楽しんでいた。
「愛の日の企画は大成功です!」
後宮の購買部でカタログを見た人々は驚き、装身具を模したチョコレートを大絶賛した。
最高級シリーズも高級シリーズの菓子も全部完売。
お昼時間に王族の側近には予約分の菓子が届けられたため、愛の日の企画がどのようなものだったのかが王宮中に拡散するのは早かった。
「予定していた分が全部売れて良かったです」
高い菓子を売ったため、売り上げはかなりの額。
今回の企画は社交界でも必ず話題になる。
後宮や購買部の名誉を挽回できるだろうとリーナは思った。
「個人的には福祉特区の孤児院に寄付をできることが嬉しいです。クオン様のおかげです。本当にありがとうございました!」
「リーナのおかげで慈善活動に貢献できた。くじ引きを買った者たちもきっとそう思っている」
「でも、くじを作り過ぎたせいで期限内に完売しなかったことについては反省しています」
リーナが考えた特別な企画なので、くじや菓子が売れ残った場合はリーナが買い取ることになっていた。
孤児院に満額の寄付をすることや購買部の売り上げを考えたことによる保険策だったが、誰もが普通に全部売れると予想しており、売れ残ったのは予想外だった。
「仕方がない。どの程度売れるのかを完璧に予想するのは難しい」
「一桁の整理番号が最後まで何枚も残っていたのも意外でした」
「運次第だからな」
「お菓子の情報を先に出した方が良かったでしょうか?」
「菓子だけで一万ギールは高い。どんな菓子かがわかってしまうと、くじ引きが余計に売れなくなっていただろう」
どんな菓子なのかわからないからこそ話題になり、カタログを見るためにくじが売れた。
「書類箱が王立装飾家具工房のものだという情報も先に出しませんでした」
「先に出していたらくじ引きは完売だったかもしれないが、書類箱目当てに後宮に勤務する者に声をかけまくる者が続出していただろう。勤務妨害になるようだと困る」
「そうですよね。王宮の勤務者とは違って後宮の勤務者であれば誰でもくじを買えますから」
リーナは深いため息をついた。
「結果的にはなるようになったということですよね」
「大丈夫だ。私も側近たちに良いものを贈ることができて良かったと思っている」
「では、いよいよです!」
リーナは箱を手に取った。
「私からクオン様への贈り物です!」
「嬉しい。感謝する」
クオンは笑みを浮かべながら大事そうに箱を受け取った。
「どのようなものか楽しみだ」
「側近たちが見せませんでしたか?」
「贈り物にするため、開けなかった」
「そうですか」
クオンはリボンを解き、木箱の蓋を開けた。
赤い布と薄紙に包まれていたのはお菓子でできた冠だった。
「確かに最高級の菓子だ」
「王族用の贈り物は箱の高さがあって、装飾も豪華になっています!」
販売された木箱の装飾は蓋の上部だけだったが、王族の木製箱は箱の側面と蓋の部分に美しく彫り上げられていた。
「書類箱として再利用できるようにした菓子箱です!」
いかに豪華な箱がついてくるかではなく、使えるものは無駄にすることなく再利用するという部分に注目してほしかった。
書類箱に菓子を入れて贈るのはおかしいので、あくまでもこれは菓子箱なのだということをリーナは強調した。
「アイディアが素晴らしい。なぜこのような菓子を作ろうと思った?」
「クオン様が宝飾品をくれるからです」
リーナは即答した。
「なので、私もクオン様に贈ってみようと思いました。本物でなくてもいいですし、お菓子であれば面白いとか珍しいとか感じてくれるのではないかと思いました」
「その通りだった。このような菓子を贈られたのは初めてだ」
「喜んでいただけましたか?」
「もちろんだ」
「驚きました?」
「驚いた」
「だったら、大成功です!」
リーナは笑顔を浮かべた。
「でも、他の種類のお菓子も気になりませんか?」
「気になる」
「では、これもつけます! 王族ならではの特典です!」
リーナはカタログを差し出した。
「今年の愛の日のために作ったお菓子が全部載っています! 全部を食べることはできませんが、全種類を知ることはできます!」
「知識を得られる贈り物か」
クオンはすぐにカタログを開いた。
「絵のおかげでとてもわかりやすい」
宝飾品のデザイン画のようだというのに、添えられてある説明文は菓子のもの。
エルグラード国内、そして取引国から輸入された最高級の材料を使って作られているのがわかるようになっていた。
「最高の材料を使っているからこそ最高級シリーズだというのがよくわかる」
王族用のものと最高級シリーズは見た目の美しさ、本物の宝飾品らしく見えるようにこだわった。
パールが多くあるように見えるが、ナッツをホワイトチョコレートでコーティングして作られている。
宝石の部分は抹茶味のチョコレート。その周囲や留め金の部分はミルクチョコレートに金粉を散りばめることで本物の金具のように見えるよう工夫した。
一方、高級シリーズは菓子であることがわかりやすいようにミルクチョコレートの色をそのままにしており、食用であることが示されていた。
「台座はクッキーをチョコレートでコーティングしているのか」
「チョコレートの分量が多いのもどうかと思ったので」
王族は全員チョコレート好きだが、ひたすらチョコレートだけを食べたい者はいない。
そこでクッキーやナッツも使った。
「父上に渡したのもこれと同じデザインのものか?」
「宝石の部分が違います。国王陛下はピンクのイチゴ味にしましたが、クオン様は緑です。販売用はティアラなので半分程度のサイズです。ノースランド子爵が購入しました」
「エゼルバードが一番の整理番号券を手に入れたからな」
エゼルバードはリーナの手掛ける菓子を気にしていた。
装飾品を模したチョコレートは珍しく、ティアラは王族用と販売用を合わせた菓子の中で一つしか制作されていない。
腹心のロジャーが購入したティアラをじっくりと観賞して楽しむだろうとクオンは思った。
「本当に素晴らしい。アイディアもこれを作り上げた技能も目を見張るものがある」
「ありがとうございます。王家のために全力を尽くした菓子職人たちも喜びます!」
「私からも贈り物がある」
クオンは箱を渡した。
「本物の宝飾品だ」
「お互いに宝飾品の贈り物になりましたね!」
「そうだな」
「明日も楽しみです。カフェで使えるティーセットのペア券が当たる抽選会があるので!」
リーナは微笑んだ。
「皆が愛の日を喜び、楽しんでくれるといいのですけれど」
「リーナが手掛けた菓子を手に入れた者は間違いなく喜び楽しんでいることだろう」
クオンは微笑んだ。
「だが、リーナも喜び楽しんでほしい」
「喜んでいますし楽しんでもいます。クオン様と一緒に過ごせることが幸せですから」
「私も愛の日をリーナと一緒に過ごすことができて幸せだ」
愛の日は喜びと楽しみ、そして幸せを味わう日になった。





