1365 予想外の遭遇
リーナは福祉特区の孤児院へ行くことにした。
愛の日にお菓子が届くように手配していたが、子どもたちがどんな反応だったのかを確認するための極秘外出だった。
「リーナ様、よくおいでくださいました!」
「お待ちしていました!」
最初に会った頃は緊張していた職員たちだったが、話を重ねるうちに打ち解け、親しみを込めた笑顔を浮かべるようになった。
「チャリティーイベントをして寄付金を集めましたので、その寄付金を届けに来ました!」
「ありがとうございます!」
「何かとご配慮いただけて感謝しています」
「愛の日の贈り物がちゃんと届いたのかも聞きたいです」
「もちろん、愛の日当日に届きました!」
「子どもたちは大喜びです!」
「良かった!」
リーナは安堵の笑みを浮かべたが、続きがあった。
「でも、贈り物がかぶってしまいまして」
福祉特区の孤児院はエルグラード中から注目されており、そのせいで寄付金や支援品が届く。
お菓子は日持ちするクッキーやチョコレートの割合が圧倒的に多いため、リーナはあえて日持ちしないチョコレートケーキを差し入れた。
「同じことを考える人がいましたか」
「完全にかぶったわけではありません。ケーキという部分がかぶっただけなのです」
「結局、四種類のケーキを食べることができました!」
「二種類ではなく?」
「三種類のケーキを差し入れてくださった方がいたのです」
「チョコレートが苦手な子どもやケーキの材料が体質的に合わない子どもがいるかもしれないということで、チョコレートケーキ、イチゴのケーキ、特別な材料を使ったケーキがありました」
「そこまで細かく気遣ってくれるなんて!」
リーナは驚き、感動すら覚えた。
「すごいです! 本当に子どもたちのことを考えてくれています!」
「私たちもそう思いました」
「食事に使われている材料が体質的に合わない子どもは今のところいないのですが、そういったことも気にしなければいけないと気づかされました」
「食事は全員一緒です。好き嫌いということであれば栄養面を考えて食べてほしいと思いますが、体質的に合わないものを無理に食べさせるわけにはいきません」
「これまでの生活がよくなかったせいで、食べ慣れていない食材が多くあります。食べた時に具合が悪くならないかどうかを確認しなければいけないと思いました」
職員たちは食の安全についての認識を改め、用意される食事のメニューを書いていたノートに子どもたちの反応も書くよう改めたことを説明した。
「私も差し入れをする時には材料に注意したいと思います」
「ありがとうございます。ですが、今のところ子どもたちは何でも食べます」
「具合が悪くなることはありません。食事がしっかり出ることに喜んでいます」
「私も食べることが大好きなのでわかります!」
リーナはにっこりと微笑んだ。
「子どもたちの様子を見に行ってもいいですか?」
「集めた方がいいでしょうか?」
「大丈夫です。勉強の邪魔をしないようにこっそり見学します」
リーナが行くと子どもたちは喜び、勉強を中断してしまう。
なかなか再開できなくなってしまうので、今回は教室内に入らずに離れて見学するつもりだった。
「この孤児院は本当によくできていますよね」
大きい建物というだけではない。
どのように住空間を工夫すれば子どもたちが喜ぶか、安全か、職員の目が届きやすいかといったことを考えた上で設計されていた。
「このガラス壁もいいですよね」
遊ぶための部屋には廊下側の壁には窓のようにガラスの部分があり、廊下からでも部屋の様子を確認できる。
小さな子どもが多いのもあって、臨時の手伝いが必要かどうかを通りがかった職員が判断しやすいようになっていた。
「馬のおもちゃが人気ですね?」
小さな馬の形をした乗り物があり、子どもが背中の部分に座って足で漕ぐと、下部についた車輪が回って移動できるようになっていた。
「足を鍛えることができるので、室内でも運動になります。健康のためにもいいと思われます」
「そうですね! でも、一つしかありません」
子どもたちが列を作り、乗るための順番待ちをしていた。
「あれは寄付でいただいたものなので一つしかないのです」
「今回届けた寄付金で買うのはどうですか? 実際に使ってみた支援品でもっと数がほしいと思えるようなものを追加すればいいと思います」
「そうですね!」
「有用度が高い玩具や書籍の購入資金として活用します!」
「今日は年長の子どもたちの様子を優先して見たいです」
福祉特区は王宮から遠い。往復する時間を考えると、リーナが孤児院に滞在する時間は限られてしまう。
小さな子どもたちから順番に様子を確認していると、年長の子どもたちの様子を確認する時間が短くなってしまうのが常だった。
「授業の様子を確認したいのですが、どこにいますか?」
「十五歳以上は全員中庭です。護身術を習っています」
「中庭へ行きます!」
十五歳以上の子どもの人数は六人。
すでに義務教育である初等教育を受ける必要はないため、職業訓練や資格を取るための選択肢を孤児院のほうで用意した。
すると治安の悪い場所で育った者ばかりのせいか、全員が護身術の講座を選択した。
「あの人は? 講師ではなさそうですけれど」
中庭にはベンチがある。
そこに座って見学しようとリーナは思ったが、黒髪の男性が座っていた。
「あの方はいつも何かと寄付をしてくださる方の代理です。護身術の講座を見学したいと言われまして」
「三種類のケーキを届けてくださった方です」
「希望の花火を上げてくださった方でもあります」
「ああ!」
大晦日に調整区で花火を上げてくれた人がいたという話をリーナは聞いていた。
「ぜひお礼を!」
リーナは少しでも早くその気持ちを伝えようと思って駆け出した。
「すみません! ちょっといいですか?」
後ろの方から声をかけたため、男性が振り向く。
その顔を見たリーナは一瞬で固まった。
ボス!!!
完全に予想外の遭遇だった。
お読みいただきありがとうございました!
本日「もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢」が完結します。(予約投稿なので六時に)
よろしければそちらもよろしくお願いいたします!





