1361 愛の日らしい
第二王子の執務室での朝礼はまだ終わっていない状態だった。
「朝礼が長引くようなら先にセブンとシャペルと話をしたい。聞いてもらえないかな?」
パスカルは護衛騎士に頼んだ。
「愛の日ですので絶対に長引きます」
護衛騎士はそう言うとドアをノックした。
「失礼します。レーベルオード子爵がディヴァレー伯爵とディーバレン子爵にご用件があるとのことです。朝礼が長引くかどうかの確認をしたいのですが?」
「通しなさい」
エゼルバードの指示により、パスカルは執務室の中に入ることになった。
「おはようございます。愛の日にエゼルバード王子殿下に謁見できましたこと、心より御礼申し上げます」
パスカルは頭を下げて一礼した。
「何の用です?」
「個人的な用件ですので」
「そうですか。ですが、朝礼は長引きます。これのせいでね」
エゼルバードがひらひらと揺らしたのは整理番号券だった。
「一番なのです。極めて価値があります」
パスカルの予想通り。
エゼルバードは一番の整理番号券を側近たちに見せびらかすに決まっていると思っていた。
「整理番号券の売買は禁止されています。ですので、福祉特区の孤児院に最も高い寄付をすることを約束する善人に贈ろうと思うのです。どう思いますか?」
「素晴らしいお考えです。エゼルバード王子殿下の側近は善人揃いですので、競って高い寄付をしたがりそうです」
「その通りです。おかげで朝礼が長引いてしまいますが、リーナと恵まれない子どもたちのためですので仕方がありません」
「エゼルバード王子殿下は慈悲深く寛大です。私はこのあとセイフリード王子殿下のところへ行かなくてはなりません。少しだけセブンとシャペルとの時間をいただけないでしょうか?」
「ここで話すのであればいいでしょう」
「わかりました。まずはシャペルに愛の日の贈り物として特別な情報を教えたい」
「情報? 何かな?」
「王太子殿下が側近に整理番号券を贈ってくれた。キルヒウスが二番、ヘンデルが三番を手に入れた。カミーラの分は問題ない。むしろ、ベルの分を交渉できそうだ。ヘンデルに聞いてみるといいよ」
「ありがとう!」
シャペルは最も気になっていることについての情報を得ることができて喜んだ。
「セブンには愛の日の贈り物をしたい。受け取ってくれないかな?」
パスカルは七番の整理番号券を差し出した。
「いいのか?」
「セブンにふさわしい番号だ。ここだけの話だけど、セイフリード王子殿下は自分でくじを買って四番を引き当てたらしい。もしかしたら僕にくれるかもしれないって期待している。ドキドキを楽しむのも愛の日らしいから」
「そうか」
セブンは七番の整理番号券を受け取った。
「心から感謝する。これほど嬉しい番号はない」
「そう言ってくれて僕も嬉しいよ」
パスカルはにっこり笑うと、エゼルバードに顔を向けた。
「エゼルバード王子殿下のおかげで、大切な友人たちとの用件が終わりました。ありがとうございました」
「良かったですね。愛の日らしいと感じました」
「では、失礼いたします」
パスカルは一礼すると部屋を退出した。
「セブン、シャペル、どうしますか?」
オークションと化していた整理番号券争奪戦は、セブンとシャペルの最終対決にもつれ込んでいた。
「友人のために辞退します!」
「友人のために辞退する」
シャペルはベルを喜ばせるために一番の整理番号券がほしかった。
しかし、キルヒウスとヘンデルがすでに二番と三番の整理番号券を持っていることがわかった。
キルヒウスは特別な菓子をカミーラに、ヘンデルはもう一人の妹ベルに贈るのは間違いない。
そうすれば仲の良い姉妹は揃って特別な木箱と菓子を手に入れることができる。
そうなると、シャペルが一番の券で特別な贈り物を手に入れる意味が薄れる。
むしろ、金にものをいわせて一番の整理番号券を得たことがわかってしまうと、ベルに小言を言われる可能性がある。だからこその辞退だった。
セブンも特別な菓子はほしいが、パスカルから七番の整理番号券をもらった。
自分の名前と同じ番号だからこそ、どの番号よりも価値がある。
一番は友人に譲り、自分は七番でいいと思った。
「譲り合いは尊いですね。では、私の采配で三番目の額だったロジャーに渡しましょう。苦労をかけているので寄付は十万ギールでいいことにします。すぐに後宮で散財するでしょうからね」
「愛を感じる采配だ」
一番の整理番号券を手に入れたロジャーは心からの笑みを浮かべた。
「これには金に代えられない価値がある」
善意の寄付、高位貴族の名誉、友人関係の尊重、様々な要素が組み合わさったことにより、愛の日らしい結果になった。
「最高の菓子を買って来る。ここにいる友人たちと一緒に極めて貴重な菓子を楽しみたい」
ロジャーの宣言を聞き、友人たちは賞賛と喜びの拍手をした。





