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潜入

 王都が混乱に包まれている中、人気のない街を、屋根から屋根に飛び移っている、完全武装したタケルの姿があった。


 その行く先は城、今はルシーアとボルツの軍勢への対応によって手薄になっている状況だった。しばらくは何もなかったが、タケルは自分に迫ってきている者に気がつくと、速度はゆるめずにそれを確認した。


「またか」


 またかと言われたケイシアはあっという間にタケルの背後まで到達すると、口を開く。

「タケル、あんたも城に用があるのかい」

「そうだ」

「そりゃ都合がいい。まあ、こっちの用事はあんたとは違うだろうけど、せっかくだから同時に行ってやりやすくしないかい?」

「すぐに入るならそうなるだろう、好きにしろ。意味はないだろうが」

「そりゃそうかもな、でもまあ決まりだ、気休めくらいにはなる。じゃあ、頑張んなよ」


 それだけ言うとケイシアは方向を変えた。そして、城壁の近くまで来ると静かに地面に降りる。


「見てくれだけはご立派」


 城壁は人が簡単に乗り越えられるようなものではなかったが、ケイシアは少しの間それをよく見て手がかりを見つけると、あっという間によじ登り、城壁の上に立ち、次の瞬間には城の敷地内に飛び降りていた。


 その姿は見張りに見つかってないようで、特に何の反応も見られない。ケイシアは素早く移動して近くの建物のドアに背を預けた。


「さて、一気に行きますか」


 ケイシアはドアに向き直ると、それを一発で蹴り破った。そして堂々と中に入っていくと、そこは厨房で、驚いた様子の料理人達が固まっている。ケイシアはそれに軽く手を上げた。


「はいはい、ちょっとごめんなさいよ」


 それだけ言って、ケイシアはすいすいと歩いていく。厨房は何事もなく抜け、廊下に出ると、一度立ち止まり周囲を見回す。


「さてと、城ってのは無駄に広くて面倒くさいな」


 ケイシアは左に曲がって足を進めた。しばらくの間は何もなかったが、曲がり角から三人の兵士が現れた。


 その三人はケイシアに気がつくと、あからさまに場違いな様子に不審を抱いた様子だった。だが、ケイシアは兵士が行動を起こす前に駆け出して距離を詰めると、左右の兵士の首をつかんで持ち上げると、そのまま床に投げ捨てた。


 さらに、剣を抜こうとした残りの一人の手を打つと、その剣を奪い、兵士の喉元に突きつけた。


「月並みだけど、命が惜しかったら抵抗はやめときなよ」

「あ、ああ。わかった」

「物分りがよくて助かる。じゃあ、ちょっと一緒に来てもらおうか」


 ケイシアはそれから剣を兵士に返した。兵士はおとなしくそれを受け取ると、鞘に収める。


「何をさせようっていうんだ」

「ちょっと探し物なんでね。まあ、この国一番の剣士の刀二本なわけだけど」

「それは、まさかオーストン様の?」

「ん? まあそうだな」


 ケイシアの返事に兵士は顔を輝かせた。


「わかった、それなら協力する」

「へえ、あのおっさんは人気あるんだな。ちなみに、逃がしたのあたしだよ」


 その言葉に兵士は驚いた様子だったが、すぐに内容を理解して驚きから喜びの表情に変わった。


「そういうことなら喜んで案内しよう。こっちだ」


 やる気になって早足で歩き出した兵士に、ケイシアは笑顔を浮かべた。


「情けは人のためならずってやつかね、仕事はちゃんとやっとくもんだな」


 それからしばらくして、二人は分厚い扉の前に到着していた。


「なにか保管されてるとしたらここだ」

「なるほどね。あんたはもういいよ、どっか行ってな」

「いや、待ってくれ。オーストン様は今どこに?」

「それなら外に出りゃわかるさ、王子様を探しな」

「外っていうのは、どういうことだ」

「知らないのか? 今あっちは王子様が戻ってきて盛り上がってるところだけどな」


 ケイシアがそう言うと兵士は何か理解したようで、すぐにうなずいた。


「そういうことなら、すぐに行ってみる。あんたもしっかりな、いや、でもここの鍵は」

「それなら心配しなさんな、これくらいの扉なら問題ない」

「わかった、じゃあな」


 兵士はそれだけ言うと走り去っていった。


「あのおっさんも人気があるもんだな」


 それからケイシアは扉に向き直った。それから背中の長剣を抜くと、それを振りかぶった。刀身が青い炎をまとい、一気に振り落とされると、分厚い扉が弾け飛んだ。


「やっぱりこんな物じゃな」


 ケイシアはぶつぶつ言いながら中に入っていき、一番奥まで到達した。そこには鎖でがんじがらめにされた大小二本の刀が置かれている。


「こいつか」


 ケイシアはそれを持ち上げると、てきとうに鎖をゆるめて背負った。そしてそこを出ると今度は走り出した。その途中足は止めず、タケルのことを思い出しながら城から脱出した。


 一方、タケルは誰にも見つからずに城の外壁にとりついていた。あまり手がかりもありそうな壁だったが、タケルは簡単にそれを登り、最上階にまで到達した。


 そして、音もなく最上階の部屋に忍び込んだ。そこは狭い座敷になっていて、茶器らしきものだけが置かれている。


 タケルはその部屋を見回したが、すぐに下に続く階段に近づき、下の階をうかがってから慎重に下りていく。


 下の階は書斎のようで、それなりに広い空間を仕切っているらしかった。


「曲者か」


 突然声が響き、タケルは腰の短剣に手をかける。周囲を見回すが、なんの姿も見えない。タケルは姿勢を低くして、短剣を抜いた。


「光の一族のようだな。余に何用だ?」


 ふすまが音もなく開くと、そこにはこの国の王、セイフリッドの姿があった。タケルは何も言わず、いきなりそれに飛びかかった。


 だが、それは空中で弾き返され、タケルは床に手をついてなんとか踏みとどまる。


「この程度か。障害にもならんな」


 タケルは短剣を一度鞘に収めると、腹に巻いている鎖をほどいた。


「鉄鎖術、縛」


 解き放たれた鎖がセイフリッドに向かい、拘束しようとしたが、それは空中でバラバラになる。


「これはなんだ? 余を縛るつもりだったか? 他に手品はないのか?」


 余裕のセイフリッドにタケルは一歩下がるのではなく、足を踏み出した。セイフリッドはそれを見ると、口を歪ませる。


「この力を見て、なお足を踏み出すか。やはり光の一族は尊きものに対する敬意を知らない蛮族であるな」


 そして、セイフリッドが軽く手を叩くと、その前にうつむいた小さな少年が現れる。


「このような蛮族程度、余が相手をするまでもない」


 もう一度セイフリッドが手を叩くと、その少年が勢いよく顔を上げた。そこに表情と呼べるようなものはなく、目が赤く光った。


「貴様!」


 タケルはまるで自分が傷つけられたかのように顔をしかめ、短剣を抜いた。


「行け、我が人形よ」


 その声と同時に少年は凄まじい勢いで飛び出し、タケルをつかむと壁を突き破って外に飛び出していった。

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