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城でうごめく者

「ベークトルト殿、兵の被害は甚大です。すぐに新しい方策を示す必要がありますぞ」

「もちろんわかっております、ケイス将軍」


 ベークトルトは自分の目の前の初老の男に微笑を向けた。だが、その初老の男は険しい表情を崩さない。


「その言葉、何度聞かされたことか。謀反人もろくに追えてなく、ろくな尋問もできてないと噂ですがな」


 明らかに嘲りが含まれるような物言いだったが、ベークトルトはそれを意に介さずに涼しい顔をしている。


「今はルシーア王子をお探しするのが先ですからね。しかし、街の警備は見直すことにしましょう。後ほど書面にまとめて届けさせます」

「それならば、期待して待つことにしましょう」


 ケイスはそれだけ言うと、荒い足音を立てて部屋から出て行った。ベークトルトはそれを見送っても涼しい顔を崩さず、自分の仕事を再開した。


 しばらくすると、ノックの音が響き、オーストンの従者のヘンリックが部屋に入ってきた。ベークトルトは顔だけ上げてそれを迎える。


「おや、ヘンリック殿。何かご用ですか?」

「オーストン様の同室のご老人が体調を崩されているようなので医者の手配をお願いできますか?」

「そうですか。すぐに手配しましょう」


 ベークトルトはうなずき、新しい書類を作り始めた。それからそのまま口を開く。


「しかし、ヘンリック殿が私を訪ねてきて、ここに滞在するとは意外でしたな。オーストン様のご家族と一緒に行くものだと思っていましたが」

「アンナ様達なら大丈夫です。それよりもオーストン様のほうが状況がまずかったものですから」

「確かに、そうですね。しかし、それは私にとってはありがたいことでしたよ」

「ベークトルト様がオーストン様を害する気がないのなら、私は従います」


 ヘンリックの言葉に、ベークトルトは顔を上げて苦笑のようなものを浮かべた。


「まあ、私の力もそう大したものではありませんけどね」


 そして書きあがった書類をヘンリックに差し出した。


「ありがとうございます」


 ヘンリックはそれを受け取り、頭を下げた。


「まあこれくらいなら、そう難しいことでもありませんから。我が国はそれなりに民に対して優しい国、でしたからね」

「オーストン様は、それを取り戻そうとしているのです」


 それだけ言うとヘンリックは部屋から出て行った。


「わかっていますよ。私もそうした国のほうがいいと願っています」


 そうつぶやき、ベークトルトは書類仕事を再開した。その後は何もなく時間が経過し、夜になるとやっと立ち上がって体を伸ばして、軽く手を叩いた。すると、すぐに天井から覆面をした者が顔を出した。


「彼の様子はどうですか?」

「順調に死霊憑きを倒しています。それとあの傭兵もようやく動き出したそうです」

「やっとですか。しかし、これでやっと整ってきましたね。引き続き、監視を続けてください」

「はっ!」


 短い返事と同時に頭が天井に引っ込んでいった。ベークトルトはそれから体の向きを変え、窓から夜空を見上げる。


「とりあえず、今日はもう休みますか」


 ベークトルトは城内に確保してある仮眠室に向かい、そこで軽食をとってから眠りについた。


 翌朝、ベークトルトは食堂に向かい握り飯だけ受け取って自分の執務室でそれを食べていると、ドアがノックされた。


「どうぞ」


 室内には王の侍従をつとめる中年の男が入ってくる。


「ベークトルト様、陛下がお呼びです」

「わかりました、すぐに準備をします」

「お急ぎを」


 侍従は一礼して部屋から出て行った。ベークトルトはすぐに身支度を整え、謁見の間に向かう。それからすぐに扉が開かれ、謁見の間に通された。


 ベークトルトはすぐに片膝をついて、頭を下げた。


「ベークトルトよ、余の言ったことを忘れたわけではあるまいな」

「恐れながら、オーストン様の処刑というのは私は反対です」

「まだ謀反人の擁護をするか」

「陛下、その件については誤解があると思われます。その上、オーストン様は国民にも人気がある方ですし、処刑をしても今は状況が悪化することしか考えられません」


 その言葉にしばらく間が空いた。


「ならば、考えを聞かせてみるがいい」

「しばらくはこのまま拘束しておくのが上策だと思われます。今の街の状況を改善するためには、働いてもらうのが一番です」

「ほう、余の意思に逆らうか」

「我が国のためを思ってです」


 ベークトルトはそこで顔を上げ、セイフリッドの顔を見た。その姿にセイフリッドはかすかな笑みを浮かべる。


「よかろう、今しばらくはお前の言葉を受け入れることにしよう」

「はっ、ありがたき幸せ」

「だが覚えておけ、余はあまり気が長いわけではないぞ」

「心得ております」

「うむ、下がるがよい」


 それからベークトルトは退室し、自分の執務室に戻らず、地下の牢獄に向かった。その足音に気がつき、オーストンは顔を上げた。その姿はそれなりに長い牢獄での生活でも特に乱れた様子はない。


「ベークトルト殿ですか。昨晩は医者を手配して頂いたようで、ありがとうございます」

「いえ、私にはその程度しかできませんから。しかし、まだオーストン様をここから出すことはできそうにありません」

「それならば、ご心配なく。潔白は証明されるものと信じていますから」

「そうなるように努力していますよ」


 そしてベークトルトはベッドに横になっている老人に視線を向けた。


「あなたも大丈夫ですか?」


 そう言われた老人は上半身だけ起こして、ベークトルトに視線を向けた。


「なに、大丈夫さ。心配してくれてどうも」

「その様子なら大丈夫そうですね。では、私は仕事に戻らせてもらいますよ」

「ベークトルト殿、その前に今の王都の状況はどうなっているか、聞かせて頂けますか?」

「それほどいい状況ではありませんが、希望はあります」

「そうですか、わかりました」


 それだけ言うと、ベークトルトは軽く頭を下げてその場から立ち去った。そしてベークトルトは自分の執務室に戻った。


 そして書類に向かいだしたが、すぐに顔を上げ、室内を歩き出し、小声で独り言をつぶやきだした。


「さて、オーストン様はしばらく大丈夫だとして、ケイス将軍のほうはあまり抑えがきかない可能性がある。しかし、まだ決定的な行動を起こすほどのものはないな」


 ベークトルトはしばらくしてから椅子に座ったが、あまり仕事は手につかないようだった。そこにノックの音が響き、ケイスの来訪が告げられる。


 ベークトルトは軽くため息をついてから、それを迎えることにした。

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