8月22日-14
これでNIOSEは終わり。
作者の趣味的で妄想的で無茶苦茶な小説に付き合ってくださった勇者の皆様。
貴方達の勝利です! クソッ、負けたっ!!
全身打撲に内臓破裂、それと擦過傷。
それがオトアとの戦いで負った俺の傷だった。我ながら気合で動いていたとしか思えない。
………まぁ、魔神が途中で力を貸してくれたから少しはマシだったけど。
俺はその魔神の力をこれまた黑鴉に全て捨てて、結局は出血と痛みを抑える程度しか出来ていなかったわけで。
つまりは、今こうして自分の無謀さに呆れていられるのも全てはシキのお蔭なのである。シキの炎にまたもや俺は助けられたのだ。
さて、そのシキなのだが、現在は大逃亡の末に電車に辿り着き、俺の隣の席でうたた寝をしている。
何が起こったかと言うと…………………。
「小月ィ! お前は病室を抜け出して何してるんだぁ!」
と怒声と共にシキがドロップキックを決めてきた。一応言っておくが俺は病み上がり同然だぞ。
ちなみに俺はただ外に出て、呆然と空を見上げてただけである。
「…………んだよ。男は時に一人になって空を見上げたい時があるのに」
「知るか! アタシは女だ、男の都合など知った事か」
うるさいなぁ………………一々突っかかって、今日はどうしたってんだ?
「おいシキ。怪我人にまた怪我負わせてどうするんだよ」
ココで乱入してきたのは園塚であった。というか、多分シキと一緒に俺を捜してたんであろう。
まぁ、面倒に頭掻きながら言ってきてる風貌から見て、嫌々シキと一緒に連れまわされていたのだろう。
面倒なら断りゃいいのに。
「もう治ってるんだから、わざわざ病室に閉じ籠っている意味なんてねぇーだろ」
「治ってはいるが、完治はしてないだろ」
別に俺は外に出てても、空から何かが襲ってくるなんて事は起こらない人間だぞ。
何か危惧する事なんてあるのか?
「まあ張空の言う通りだが………ほら、シキもナース服でお前を看病したいそうだから、病室に戻れ」
「あ、そういう」
「……………は?」
園塚の言い分に納得して病室に戻ろうとする俺と、唖然とするシキ。
「………園塚、それはどういう事だ?」
「あァ? なんだ、違うのか? 鑑の奴が『看病、ナース………』やら叫んでどっか言ったから、てっきりお前が頼んだのかと思ったんだが」
………まあ、極めて予想通りだな。
にしても、ホント師匠はコスなら何でも持ってるな。
もしかして、絶滅種のブルマすら持ってるんじゃないのか?
いずれコレクション全部を見せて貰いたいものだ。当然、シキに着せて。
「小月ッ! 早くココを離れるぞ!」
驚愕に包まれていたシキは、慌てて俺の腕を掴んで逃げようとする。
「え、何で?」
「何でじゃないだろ! アタシはナース服なんて着たく無いッ!!」
「えぇー、残念」
「鑑に感染したかッ!」
感染って………人の師匠を侮辱するなよ。あの人は凄い人なんだぞ。
俺はあんな凄く尊敬出来る歳上の人間を他に知らないぞ。
「取り敢えず帰るぞ、小月」
「ちなみに鑑は10分前にココを出て行ったが、もう帰ってきたぞ。見つからないようにこっそり帰れ」
絶対に師匠の家からここまで片道10分以上掛かるのに。
さすが師匠。シキの為なら人体の限界やら人の枠やらを簡単に超す人だ。
俺もその位の人間になりたいもんだ―――――って!
「俺を腕を掴みながら全力疾走すんなよ!」
「アタシは絶対に嫌だぁぁぁああああああああああああああっ!!」
ってな風にシキは全力で走り続け、俺は高速で変わり続ける風景に吐き気を覚え、とにかく駅まで着いたのだけど俺は20円しかなく電車に乗れずじまい。そしてシキは怒り狂う。
―――と本来ならばなっていたはずだが、実はそうならなかった。
俺の手持ち残金が20円からアップしてたのだ。
理由は師匠が俺に金を渡したから。シキが今まで迷惑掛けた分とか言ってたが、まあ俺には真意は分からない。
シキを助けてくれたお礼……なんてする人とも思えなくないし、普通に他の理由なのかもしれない。
何の意図があるのか分からないが、金欠の俺にとっては理由など二の次で素直にそのお金は頂いた。
その為、今、俺とシキは電車に揺られながら家への帰路へ着けているわけだ。
「………………うゃむぅ」
隣で熟睡してるシキが何か呻く。まったく、寝たいのはこっちだよ。お前に振り回されて俺は疲れた。
…………。
…………。
今、隣にシキが居る状況。これが存在するのは俺とシキがオトアに勝ったからである。
オトアは現在、どこかに大人しく収監されているそうだ。
あれだけ怪物じみた奴が、大人しく収監されている光景など浮かばないが、事実はそうなっている。
………正直、俺はオトアが戦いに手を抜いていたと思っている。最初から最後まで。
別にオトアが本当は善人で実は悪行から手を引くために負けたかった、だったなんて事を思ってるわけでは無い。
ただ、無意識のうちにオトアが力を制限してたように思えたのだ。
身振り手振りの動作が必要だったとしても、別にあの状況なら足を動かせば良かったのだ。実際、俺も足で空間を歪める動作をすると思っていた。
だがオトアはそうしなかった。
……オトアが負けを望んでいたとは思えない。だけどオトアは何かを夢見たのかもしれない。
俺にはそれが何なのか分からないけども、それがオトアにとっては重要な事だったのかもしれない。
まあ、すべては俺の妄想に過ぎないのだが。
「…………ふみゅぁ」
電車に揺られたせいか、シキが俺の太ももに頭を乗せて横になる。
オトアが何を夢見て、それがいかに重要だったのか俺には分からない。
そもそも本当に何かを夢見てたかどうかも定かではない。
すべては俺の妄想に過ぎないかもしれない。言うなれば、加害妄想。
でも、そんな分からない事は俺にとってどうでもいい。
俺にでも分かってる事。妄想なんかじゃない事。俺にとってとても確かで定かな事。
今、俺はシキの傍に居る。多分これから先も何事があっても、ずっと。
それは俺が望んで俺が得た、ちっぽけで、くだらなくて、大きな事実。
最悪な事が沢山あるだろうけど楽しい未来。笑ったり泣いたり怒ったり満足できる未来。
もしかしたら俺はシキが好きなのかもしれない。
コイツと居るから楽しいんだ、俺は。シキだからこそ楽しいんだ。
シキはどうなのだろう? 俺と居て楽しいんだろうか?
……………………………どうでもいいな、そんな事。
結局、シキがどう思っていようと俺はシキの傍に居る。
大体、俺がシキを好きだなんて事を思ってる可能性が低い。
同様に、シキが俺を好きだなんて事を思ってる可能性が低い。
俺にとってはシキはただの女の子で、シキにとっては俺は――――残念ながらペットだから。
少し歪んだ関係だけど、信頼で結ばれてるこの関係は多分、崩れない。
「…………うみゃ……………………ケーキぃ」
シキの寝言に思わず、吹き出し笑う。どうやら好きな物の夢を見てるらしいな。
そういや、師匠から貰った金の残金はいくらか残ってる。
どうせ俺の金じゃないし、師匠もそういう使われ方なら是非納得するだろう。
「1、2個なら許容範囲だから、安心しろ」
俺はシキの頭をそっと頭を撫でて、頭の位置を変える為にシキの頭を上げようとする。
この膝枕に近い状態は意外と俺の脚を痺れさせてしまうのだ。もうジンジンし始めていやがる。
シキは、
「…………………ありがとぉ」
起きてんだか寝言なんだか分からないが、似合わなく礼を言ってきた。
………仕方が無い。しばらくそのままにしとくか。
笑顔で寝てる少女を動かすのは不躾なもんだ。野郎の脚が痺れようとも。
まったく…………………………最悪だ。
後日談的なものを最後に数話更新しても良いかなー、とは思っています。
ですからしばらくは完結の表示にならないかもしれません。
何か後日談で見たいものがあったら感想欄に書き込んどいてください。
それでは、勇者改め勝者の皆さん。
ここまで駄文だらけの駄作を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。