盆休み-11
書いてる時にも揺れやがって、心底ウゼーな、地震。
「次の角を右へ」
「はい・・・・・」
どの位、走り続けているであろうか?
俺の体力は大分限界に近く、アリサさんも同じのようだ。
怪物は・・・・・・後ろを振り返るが、影すら見えない。
俺達を見失った? いや、見失ったとしても簡単に引き下がるとは思えない。
大体、引き下がる理由が無い。
そんな理由があったら、俺達は今、走ってなんかいない。
「そこを左に・・・そこに部屋があるはずです」
やっと目的地に着いたようだ。
俺はアリサさんに返事をする体力すら残ってないので、無言のまま角を曲がる。
すると、簡素なドアが見えた。
ココがシキの着替え部屋ってわけか。さっさとシキに合流しないと。
俺はそれだけが頭にあり、ドアノブを回し、押す。
こういう時にラッキーイベントとかが起きればいい、って事を俺は開けてすぐに思った。
いや、決して着替え中の姿が見たいとかそういう願望じゃない。
普通にこう考えていただけだ。
シキに殺されるか、怪物に殺されるか。どちらがいいかと言われれば、俺は少し迷った後にシキを選ぶだろう。
ああ、長くなってしまった。
つまり、俺が言いたいのは―――――、
着替え中であれ着替え終わりであれ、シキに会えれば、一時的に俺の命は与えられる。
でも、いない状況は、俺にただ絶望を与えるだけだった。
「はぁ・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・、・・・。着替え、終わって。いないって・・・?」
まったく、ふざけやがって。
この台詞だけなら、俺が変態みたいな扱いを受けるじゃないか。
シキの野郎、あとで一発殴ってやる。
俺は取り敢えず、アリサさんを部屋の中に入れ、ドアを閉める。
隠れても無駄かもしれないが、今は少しでも冷静に安全に考える時間が欲しい。
ついでに体力を回復する時間も。
「・・・・・・会場を見た、シキは、まず、どう思うと考えます?」
「・・・さぁ?」
アリサさんと俺は息を整えながら、疑問詞を浮かべる。
着替え終わったシキは、俺のいた会場に向かうであろう。
そこで、抜けた天井、落ちたシャンデリア、いない俺達を確認する。
その後だ。
その後、アイツは自分が必要な状況だと判断が出来ても、二つの選択肢のどちらかを選ばなきゃいけない。
一つは、襲撃者を捜す。
一つは、俺達を捜す。
まあどちらを選んでも、結果的には俺達に合流した方が良い。
そこまで判断できたとして、アイツはどこに向かう?
わざわざ、ここに戻ってくるか、外に逃げたと予想して、外に出るか。
そこの判断は、シキが俺をどういう風に認識してるかによるだろう。
シキが俺をどう思っているか、なんて分野は鈍感な俺には専門外だ。
さて、つまりは今の俺達にも選択肢は二つあるわけだ。
一つは、この部屋から外に出て、逃げ延びる事。
一つは、この部屋に閉じ籠って、シキが来るのをじっと待つ事。
生存確率的には前者だろう。怪物が俺達が外に逃げたと知った時、うまく自然に隠れられれば、逃げ果せる。
作者や主人公的には後者だろう。描写が楽だし、会話文だけで済ませられる。さらには怪物が来ても迎え撃って、シキの到着と同時に決着がつくとかそんな展開になる。
ただ、残念な事に、ここは現実。作者は暇潰しでも、俺は命懸けだ。
ここは遠慮無しに、前者を選ばせてもらう。
ちょうど、息も整ってきた。
あーあ、こういう時に携帯で連絡が取れれば楽なのに。
何でシキは携帯を持ってないんだよ。そのせいで俺が死にかけてるだろうが。
俺は静かに立ち上がり、
「外に出ましょう。ここにいても危険です」
そう言いながらいつの間にか座り込んでいたアリサさんに、手を伸ばす。
アリサさんは頷き、俺の手を取り、立ち上がる。
秘密の出口がこの部屋に用意されている、なんて展開は別になくていい。
ここは着替え用の部屋。ちょうど窓もある。
服をクッション代わりに使って、外に飛び降りればいい。
足から落ちるから、骨折はするかもしれないが。まあ、そこはアドレナリンやらがなんとかしくれる能内分泌とか何かで。
でも、俺の考えは総合的に甘かった。
「あんさァー、本気でここから逃げられると思ッてんのかァ?」
相手は怪物。考えられる暇すら与えてくれない、人の姿をした怪物。
もっと警戒しておくべきだった。
ドアの向こうから、声が聞こえてくる前までに。
最悪だ。
主人公体質なんか無い俺に、この展開は・・・・・・・最悪だ。
盆休み-10でここまでいくつもりだったんですけど、諸事情により、できませんでした。
この展開だと、小月君と怪物のバトルですよね。
でもね、出来ないんですよバトル。小月君が武器を一切持ってないから。小月君の能力がしょぼ過ぎるから。
え? それでも戦わせるだろ、この展開?
怪物の能力を甘く見ないでください。主人公クラスの能力の使い手ですよ。
小月のクソ野郎が勝てるわけ無いじゃないですか。瞬殺になっちゃいますよ。