人が死ぬ鐘の音
重苦しい。嫌な空気感だ。どう表現すればいいだろうか、この空気感は。
絶望感…とでも言おうか。
そんな、少なくとも作戦会議室では感じたくない空気感が漂ってしまっていた。
「…みんな、今回の作戦についてどんな思いを持つ。」
一応部隊の一番機、隊長のような存在である俺はそう言葉を全体に投げかけた。
だが、それに対する答えは沈黙らしい。
……まぁ、だろうな。ここで文句を言えば後々めんどくさくなるのは明白だ。
「安心してほしい。俺はみんながなんと言おうと、定期報告会に提出したりはしない。決して。」
おそらく全体が思っていること。それは俺が後で定期報告会、もとい定期思想調査報告会に作戦に対する罵倒を提出し、自分の身を案じる必要にかられてしまうことだろう。
「……無茶…と判断します。」
「だろうな。俺もそう思う。はっきり言って、不可能だ。」
勇気があり、人を信じ込んでしまう7番機の発言に続き、俺も賛同する。そうすれば他の奴らも安心するだろう。
「敵は高機動二脚戦闘兵器です。我々の四脚兵器では機動力、臨機応変性も負けています。我々の四脚にも二脚には不可能な安定性に、比較的重武装が可能など、勝っている部分はありますが、それでもあのビル群においては圧倒的な臨機応変性、機動力によって追い詰められて敗北するでしょう。」
「今までに二脚に四脚が勝った事例ってのは本当に数少ない。第一四脚は様々な場面に対応できる砲撃支援型というのが本来の運用だ。それを無理やり市街地機動戦に転用してるんだ。元々、こんな部隊無茶がある。」
やはりか。全体から出てくる大きな声も小さな声も不可能という声が多い。
無理だ無理だと散々な作戦会議だ。まったく、大丈夫だろうな。
「作戦会議中、失礼する。」
その声が聞こえた瞬間、さっきまでの声は消え、その声の主がこちらへ歩を進める音しか聞こえない。
「先程の作戦の総責任者ではないですか。何かありましたでしょうか。」
「良い報告がある。」
…過去にこういうので良い報告ってのは殆どなかったがな。
「今回は本当に良い報告だ。新兵器の開発が間に合った。よって、今作戦に変更を加える。一時間後に作戦化会議を再び開始する。以上だ。」
そういい、背を向けて扉へと歩き、部屋を出た。
…新兵器?
「新兵器ってなんですか?!」
「…さぁな。一時間後にはわかることだ。」
少なくとも市街地機動戦をしない前提に変わってしまえば理想的だが…、他の方法はかなり限られるだろう。
まぁ、なにわともあれ作戦に従うしかないだろう。
「再び作戦会議を始める。」
一時間後、再度会議が始まった。
「本題に入る前に、今回の作戦をもう一度復習する。今回の作戦の目的は、前線のビル群に潜む高機動二脚戦闘兵器を排除し、前線を押し上げることだ。」
「元は君たち第451四脚攻防兵器部隊をビル群に突入させ、潜んでいる二脚を排除するという形だった。」
「だが、今回新兵器の開発が間に合った。それがこれだ。」
そう言い、前のモニターに画像が写った。
それはひと目見ただけだが、大砲のようだった。
「これはあなた達のような四脚兵器に乗せるための榴弾砲。遠方から砲撃するためのものだ。」
榴弾砲。四脚は元は砲撃支援型。そんなもの元から大量にあっただろう。
「榴弾砲は元からあったと皆思っているだろう。だがこれはいままでのものとは違う。火力を今までにあったものより広げ、更に小型の爆薬を周囲に撒き散らす特別砲弾を放つものだ。」
「意図的に民間人が住める街の破壊を助長するようなものを周囲に撒き散らす軍事兵器は禁止されていなかったか?」
まぁ、だろうな。クラスター弾と同じような扱いだろう。禁止されていたはずだ。
「…君は正義感が強いようだが、現実を伝えておく。戦争は勝ったほうが正義だ。君は気にしなくて良い。」
過去の戦争も勝てば正義だった。民間の街を焼夷弾で爆撃しても勝って許された国もあった。麻薬を売りつけて始まった戦争も麻薬を売っていた国が勝って何も言われなかった。戦争なんて勝てばよかろうの世界だ。
「話を戻そう。この新兵器を使ってやる作戦だが、一言でやれば絨毯砲撃だ。敵が潜んでいるビル群に対して一列に隊列を組み、砲撃をする。ビルごと爆破し、ビル内部にいて生き残っている機体に対しても小型の爆薬によって各所に被弾させるにする。」
なるほど。四脚の得意分野だ。安定した姿勢で砲撃をそれなりに速射できるだろう。
その後も色々と作戦が続いた。
まぁ、まとめてしまえば隊列を組んで榴弾砲を撃ち続け、ビル群を爆破してこちらが接近する前に相手を撃破する。ということらしい。もし生き残った機体がいても被弾しているだろうし、数は少ないだろう。という魂胆らしい。単純だが、四脚の得意分野を活かしている以上、今までの作戦よりかは随分マシだろう。
今日、その新兵器とやらの試射があった。
一言で言えば、過去のできたばかりの兵器に比べればオペーレーションソフトとの最適化が良いという感じだ。
過去の兵器は偶に照準補正との連携がうまく行ってなかったりすることが頻発していたが、随分とマシになっていた。
それに性能としても爆発範囲が確かに広く、爆薬の被害範囲も相当広く、十分に距離を取っていた機体にいくつか凹みができた。
これを近距離でやられれば確かに跡形もなくなるだろう。
はっきり言って、過去にあったどの榴弾砲よりも一番いい。だが完璧ではない。それだけはよくわかった。
「こちら第451四脚攻防兵器部隊。隊列を組んだ。指示を待つ。」
「こちら本部、了解した。25式特殊榴弾砲、装填しろ。」
本部からの無線を聞き、主砲安全装置を切り、機体後部の装填機構が動き、弾頭を装填した。その後ろに推進薬を入れ、榴弾砲の装填が終了した。
隊列を組んでいる各機体も装填が終わったことを確認し、本部へと無線を送る。
「装填完了。指示を待つ。」
「了解。射撃姿勢、照準を取り次第、こちらへ三度信号を遅れ。射撃カウントを開始する。」
言われた通り、四脚の足を曲げ、姿勢を低くし、足の爪を地面に立てる。足の関節部をロックし、反動によって揺れ動かないようにする。レーダーモニターから砲撃位置を指定し、ゆっくりと砲角が上がってゆく。その砲角が間違いないことを二重照準機能を動かし、確認をした。
他の機も完了したようだ。
「みんな、わかっているとは思うが今から俺達が放つのは砲弾だ。砲弾を放てば誰かが死ぬ。だが、もし俺達が砲弾を放たなければその砲弾で死んだはずのやつがみんなの誰かを殺す。どちらが殺されるか。その違いだ。引き金を引くことをためらうな。誰かを守るために誰かを殺せ。」
俺がいつも、いつも作戦前にみんなにやっていることを言い終わった。
…矛盾だよな。誰かを生かしたいなら誰かを殺さないといけないなんて。
「しょうがない。しょうがないんだ。」
一度目をつぶり、息を吐いた。
そして、信号を三度送った。
俺の耳に射撃カウント音が響いた。
「3」
「2」
「1」
「射撃。」
引き金を引いた。
推進薬へと引火し、爆発音を響かせながら大地を揺らし、空気を穿ちながら目標地点へと飛んでいった。
一発の砲弾が揺らした大地はガッチリと固定したこの機体を大きく揺らし、周囲に空気の波動を出した。
始まった。人が死ぬ鐘の音だ。
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