第2話 私の腕の中で死んだのは誰?
駆けつけたユリウスは魔物に向かって手をかざす。
すると、手から大きな炎の渦が巻き起こり、その渦は魔物を覆い尽くした。
「グオオオオオーー!」
大きな叫び声が森を震わせる。
その声で起きた学院生は魔物の姿を見て恐ろしさを感じ、逃げ去った。
一方、シルヴィアはユリウスの姿を見た後、ひどい頭痛に再び襲われていた。
(痛い……見たことのない景色が広がってる。これは……王宮……?)
昔、教科書で見たことのあった王国創立間もない頃の王宮を描いた絵画。
その謁見の間そっくりの景色がシルヴィアの脳裏に広がる。
シルヴィアの頭の中の光景では、自分の手の中に誰か青年がいる。
大きな傷を負い、血だらけになっている彼はもう助からないだろう。
(嫌だ……死なないで……!)
そんな感情だけがシルヴィアの中に押し寄せて来る。
どうしてこんなにも悲しいのか。
どうしてこんなにも切ないのか。
いつか「見た」その光景を思い出したシルヴィアは呟く。
「死なないで……」
そうしてシルヴィアはその場に倒れ込んだ。
「しっかりしろ!」
シルヴィアの視界はぼんやりとしていき、ユリウスの声かけも届かなくなった。
「この魔力は……」
魔物を圧倒的な魔法で倒したユリウスは、抱き留めたシルヴィアの中に眠る「大きな魔力」の気配に気づいた──。
シルヴィアが目を覚ますと、そこは寮の医務室だった。
「ここ……」
「気がついたか?」
シルヴィアの眠るベッドのすぐ傍の壁によりかかっていたのは、ユリウスだった。
「ユリウス、様? どうしてここに……」
「お前たちが課外授業に向かった後、砦から王都へ魔物が向かっていると知らせを受け、俺が駆けつけた。無事でよかった」
「みんなは……」
「無事だ。お前が必死に助けたやつは、泣きながらお前を劣等生だと蔑んだことを謝罪していた」
「そう、ですか……」
(でも、何もできなかった。私は本当に劣等生だ……)
シルヴィアの思考を読んだように、ユリウスは助言する。
「お前は劣等生なんかじゃない」
「え……?」
「ただ一人あの場で戦った。その勇気と優しさは魔法上達に必要なものだ」
そう言うと、ユリウスはシルヴィアにある提案をする。
「シルヴィア・エルスティ。私の助手をしないか?」
「助手……私が、ですか!?」
「ああ、お前からなぜか強い魔力を感じる。なぜ今まで気づかなかったのかわからないが。俺はその魔力に興味がある」
(ユリウス様の助手ってなりたくてもなれるものじゃない)
ユリウスの部下はサベリナという女性ただ一人であり、彼女だけがユリウスの助手を勤められるほどの魔力を持っていた。
ユリウスの助手は、それほどの場所なのである。
(私で務まるのかわからないけど、魔法が上達するヒントを得られるかも……なら……)
シルヴィアは彼に頭を下げた。
「私は魔法で誰かを幸せにしたいです。そのために、修業させてください!」
その言葉はユリウスが入学式に生徒代表として語った言葉に通ずるものがあった。
シルヴィアの決心を聞いたユリウスは微笑む。
そんなシルヴィアとユリウスの姿を遠くから眺めている人物がいた。
「今度こそ、闇に葬ってあげるわ」
にやりと笑った彼女の胸元には、「サベリナ・ルーベン」という名札があった。




