浮き足を鎮めて
終業式が終わった。
先生の話?
誰が聞くんだよ。
夏休みや冬休みは学校に残っていられたが、春休みは別だ。
自領、実家に帰る義務がある。
めんどくさい。
あゝ、めんどくさい。
「久しぶりだな」
「お久しぶりです、父上」
形式上の挨拶。
まあ、そんなものだ。
慣れ合いたいわけでもないし、これでいい。
屋敷に入ると同時に、レアルタが口を開いた。
「荷物は他の使用人たちに運ばせておきます。どこへ向かいますか」
決まっているじゃないか。
「母の部屋へ」
「わかりました」
母の部屋。
何も孝行できていない。
笑顔さえ、見たことがない。
それでも、私の実母だ。
あの日から何も変わらずに眠っていた。
私が毒を盛り、植物に変えた十二年前のあの日から。
ただ安らかに眠っていた。
ここに来るのは数えられる程度しかない。
でも、なぜか安心する。
理由は、私が初めて『道』を終わらせた場所だからだ。
私は母を手にかけた。
母はなすすべがなかった。
実の娘に逆らえなかったのだ。
自らが産み落として間もない子供に敗北したんだ。
それは私が初めて明確な成功体験をした場でもある。
だからだろう。
母の部屋で小一時間過ごした。
レアルタには出ていってもらい、私と母の二人きりで。
何をするわけでもない。
ただ、母の閉じた瞼を見つめて。
整えられた花瓶を見つめて。
次第に、私の心は研ぎ澄まされていった。
その日の夜。
私は筋トレをサボった。
代わりに座禅を組んだ。
瞑想。
こんな無駄なことをするなんて、私じゃないみたいだ。
やっぱりこの屋敷は気が狂う。
仕方ないか。
ここに来るのは六年ぶり、私の人生の半分を開けているんだ。
そうなっても仕方がない。
春休みの間、父と話すことはなかった。
というか、屋敷にすらいなかった。
屋敷では剣の鍛錬ができないからな。
代わりに、ディスクオリ遺跡にいた。
警備なんてあってないようなものだ。
遺跡には簡単に入れる。
遺跡も母の部屋と同じように、落ち着く場所だった。
心なしか、いつもより剣を振るう腕も洗練されているようだ。
退屈だ。
やることといえば、フィリオのように延々と筋トレをするだけ。
魔道を編み出すためにも、これは欠かせない。
単純な作業をしている時ほど時間は早くたつもので。
そして春休みはとても短いもので。
あっという間に始業式の日がやっってくる。
父に挨拶はしない。
父もそれを望んではいないだろう。
父の用意した馬車は使わない。
癪に触るからだ。
寮の自室も、母の部屋やディスクオリ遺跡とは違う意味で落ち着く場所で。
学校生活が戻ってくる実感が湧いた。
今回も、私は校長の話を聞かないのだろう。
全くもって、いつも通りだ。
それでいい。




