忌み子
「何だ! この髪色は!」
「なんということでしょう。忌み子ではありませんか!」
生まれて初めて聞いた会話がこれだ。
聞かされる身にもなってほしい。
わたしは、忌み子だった。
*
おぎゃあ。
うん。
似合わないな。
生後一ヶ月でおぎゃあが似合わないのも変な話だが。
似合わないものは仕方ない。
諦めて、本でも読むか。
誰もいないし、暇なんだよな。
この本分厚すぎて躊躇してたけど、暇を持て余すのも我慢の限界だ。
まずは目次を見てみよう。
「この世界の全貌
この世界は魔に満ちている。
生物は皆平等に魔力を持つ。
この世界は不平等に満ちている。
貴族は贅沢をし、貧民は飢えに耐え忍んで生きている。
この世界は差別に満ちている。
髪色、立場、あらゆるものから。」
……思想強い系の本か?
やめておいたほうがいいだろうか。
でも、床に落ちているのはこの本だけだ。
本棚には手が届かない。
よし、読むか。
「第一章 魔
この世界は魔に満ちている。
生物は皆平等に魔力を持つ。
街を見ればわかる通り、人々の髪色が違うのがわかるだろう。
だが、よく観察してみてほしい。
七つの色しかないはずだ。
赤、橙、金、緑、空、青、紫。
君の髪も、そのうちの一つだろう。
その髪色は、一生涯を共にする大切なものだ。」
ここまで読んで、私は本を閉じた。
待て待て。
私の髪の色は濁った黒色だ。
この本の作者はホラ吹きか?
……いや、私が生まれた時に両親はなんと言っていた?
「何だ! この髪色は!」
「なんということでしょう。忌み子ではありませんか!」
つまり、黒色はおかしい、忌み子の証ということか。
つまり、生後一ヶ月にして部屋に閉じ込められて食料だけ与えられる生活をしているのもそれが原因か。
困ったな。
これから生きていけるだろうか。
今考えてもしょうがないな。
よし、続きを読もう。
「君の髪も、そのうちの一つだろう。
それが、その人が使える魔導の属性だ。
それぞれ、火、地、雷、草、風、水、毒。
これ以外の属性は神暦二千九百年現在に至るまで確認されていない。
だが、まれに白髪と黒髪の生物がいるだろう。
それについて解説する。
白髪。
それは、最も尊ばれる生物である証だ。
あのお方たちを我ら人類は敬意を込めて天使と呼ぶ。
百三十年前、悪魔が地獄から侵攻を開始した。
我らの力は虚しく、グライヒ大陸を三つに分けたうちの一つ程の侵攻を許してしまった。
戦争は終わる気配を見せず、三十年の時が経過した。
今から百年前、天使たちが降臨なさった。
彼らはみるみる悪魔どもを殺してゆき、大陸に上がってきた悪魔は全滅した。
こうして、人獄大戦は平定されたのである。
この時の感謝を忘れないために、我々人類は天使様を尊び、天使教を信じるに至る。
白髪の生物を見かけたなら、人生最大の幸運である。
天国から気まぐれにやってきたところに偶然会えたのだから。
くれぐれも、粗相してはならない。
恭しく接すること。
人類に稀に生まれる白髪は縁起がいいとされ、その人生をなんの苦労もなく終えることができる。
黒髪。
前述した悪魔。
悪魔は皆黒髪だ。
天使教聖書にはこう書かれている。
『悪魔はこの世界唯一の汚点である』
と。
悪魔は憎むべき存在。
これは絶対である。
かくいう私も、祖父を悪魔に殺された。
もし黒髪に生まれたのならば、死んだほうがマシだろう。
この世界は黒髪への憎悪で溢れている。
貧民蔓延るスラム街でさえも黒髪は冷遇される。
さらには、人々が当たり前のように使える魔法を黒髪は使うことができない。
この世界の真理だ。
まあ、こんなことを書いても意味はないか。
黒髪がこの本を手に取ることなどないのだから。」
どーしようか。
これから先の人生を生きれないように思えてきた。
黒髪への怨念は消せるものでもないしなあ。
待てよ。
冷静に考えて、私はなんでこんなことを考えられているんだ?
生後一ヶ月に知能なんてない筈だろう?
これは、明確な私の武器だ。
うまくいけば、生きていけるかもしれない。
それにしても、今は情報がなさすぎる。
本の次の章を読むことにしようか。




