ユミル・マーシャルというご令嬢
ブックマークや評価をありがとうございます。
さて、一度に全てを投稿予約しておりましたが、これが最終話です!
ぜひともゾクリと背筋を凍らせてくださいな〜(←恋愛ものに求める要素じゃない)
それでは、どうぞ!
ユミル・マーシャルという名の公爵令嬢は、慈愛に溢れた女神のような女性。そう言われてはいるものの、その本性は全く違うものだった。
「あら、最初の婚約破棄は失敗してしまいましたね。では、殿下の一番嫌いな生き物にファーストキスを捧げる、というのを罰にして差し上げますわ」
「は……?」
「さぁ、ミミズくらいならすぐに掘り出せますし、すぐに実行なさってくださいね?」
ニコニコと微笑むその姿は、会話の内容さえ聞かなければとても女神と称されるのも不思議ではない。しかし、その命令内容は鬼畜以外の何物でもなかった。
精霊のイタズラなのか、ライグがミミズとキスをするシーンが知れ渡ることはなかった。いや、その後の過酷な命令の数々も、ユミルとライグ以外が知ることはない。つまりは、こういったことも、精霊は折り込み済み……いや、むしろ、ユミルだからこそ、ライグにとっては罰になるのだと、精霊自身が見抜いていたのだろう。
「では、逆立ちの限界に挑戦してみましょうか。そうですね、とりあえず、半日は頑張ってくださいよ」
とか。
「他国には、虫を食べる文化があると聞きますので、ご用意いたしました。さぁ、食べなさい」
とか。
陰湿ないじめとしか思えない数々の所業を、ユミルはライグの婚約破棄失敗の罰として下していた。そして、泣いて許しを請うライグを恍惚とした目で眺めるのだ。
そう、ユミルは、生粋のドS、いや、鬼畜だった。
「ふふ、うふふふふっ! あぁ、殿下はわたくしの理想そのものですわ。おバカな癖に生意気で、追い詰められるとプルプル震えて、その整った顔立ちと愛らしい瞳も、とーっても虐めたくなりますわ」
以上が、一年という時を経て、試練に失敗したライグを手に入れたユミルの言である。
婚約破棄失敗の最初の命令では気づけなかったライグも、何度も何度も虐げられることで、ちゃんと理解はしていた。この女のモノになるのは危険だと。だから、何としてもユミルの好感度を落とすか、ユミルを頷かせようとするのだが、ユミルにとって、そうやって足掻く様子すら楽しくて仕方がないことだった。
手を変え、品を変え、証拠の捏造も必死に行い、とにかくユミルから逃れようとし続けたライグ。しかし、どんなに手を打っても元々の頭のできが違い過ぎる。ライグは他の人間に頼ることもできず、ただただ、足掻き続けるが、そうすればするほどにライグから人は離れ、悪評が広まり、反対にユミルの評価が上がった。
最後の婚約破棄が、ほとんど証拠と呼ぶこともできない証言しかなかったのも、仕方のないことだったのかもしれない。
「殿下、結婚式は明日ですわ。そうすれば、万が一、この呪いが解けても、ずっと、ずーっと、一緒に居られますわねっ」
「あ……ぅ、あぁ……」
二人っきりの部屋の中、恐怖に歪むライグの顔に、ユミルは可愛らしく頬を紅潮させる。
これは、罪もないご令嬢を貶めて婚約破棄した男に対して、相応しい罰なのかもしれない。抵抗もできず、死なない程度の嫌がらせで心を折られる日々は、ただの言葉で、ティファニアの名誉を落とし、リィンの自由を奪おうとした男の末路として、きっと丁度良い。
その数年後、ユミルは三人の子供を産んだ母親となっていた。その子供達は一様に父親譲りのピンクの瞳を持っていたが、子供達が父親の姿を見ることは生涯なかった。
ただし……ユミルしか近寄らない、とある部屋の奥では、ずっと、ずっと謝り続ける男の声が響いていたのだという……。
一応、これで完結です!
いやぁ、最後の最後に用意した爆弾はいかがでしたでしょうか?
とりあえず、ここまで書いて言いたいのは……楽しい反の……じゃなかった、感想をお待ちしておりますっ(笑)
それでは、最後までお読みいただき、ありがとうございました。