三月 卒業式
オリジナル短編シリーズ
『山田さんは告らせたい!』第十二話です!
山田さんや山崎くんたちのどこにでもありそうなささやかな青春物語をお送りしてきましたが、
今回のお話で無事完結となります!
最後まで読んで下さった皆様、応援ありがとうございました!
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桜の蕾が目いっぱいに膨らんだ今日、全国的な開花よりも一足先に私たちは旅立ちの日を迎えた。
式典中先生方の声がとぎれる度に聞こえてくる誰かのすすり泣く声がその実感をいよいよ本当のものにしていった。
普段は明朗なカナやタケルくんも今日ばかりはどこか落ち着いていてただ静かに最後の学校行事に向き合っているように見えた。
通い慣れた通学路も、多くの時間を過ごした思い出の教室も、移動距離が長くて大変だった体育館や友達と話し込んだあの廊下も明日からは過去のものになるんだ。
暖かな香りを乗せた風が胸に咲いた薄桃色のコサージュをわずかに揺らす。
「いつの間にか春になってたんだね」
「そうだね。少し前まではまだ寒いくらいだったのに」
開け放たれた窓の外ではいつも見ていた馴染みの風景が快晴の下で眩しく煌めいている。その中には式を終えて帰路に就く父兄の姿や、部活動の後輩たちとの別れを惜しんでいる子たちやみんなで集まって集合写真に勤しむ人たちでいつになく賑々しい。
「山崎も今夜のクラス会行くんだよね?」
「うん。行くよ。タケルとカナちゃんも行くって言ってた」
「まぁあそこは絶対行くよね。そういうの好きな子たちだし」
現に今もタケルくんが野球部に顔を出しに行くのにカナも同伴して行ったくらいだ。
「あの二人は変わらないね!」
「大学も同じって言ってたからね。きっとこれからも変わらずやっていくだろうね」
「山崎は寂しい? 大学カナやタケルくんたちと……私とも別になるけど」
私は……寂しい。けど、それは自分が選んだ道。前に進むための道だから口には出せない。
「寂しい……ね。ずっと一緒にいたからさ。けど、自分で選んだ道だから頑張るよ」
「山崎少しだけ大人っぽくなったかも」
「えー何それ。俺は前々から大人だったし」
つい、同じことを考えていたことに恥ずかしさを覚えてしまう。けど、
「そうやってムキになるところはやっぱりお子ちゃまかも。――ねぇ、山崎?」
急に声のトーンが変わって不思議顔の山崎に私は一年前の事を想い出しながら訊いてみる。
「今年の初めに私が訊いたこと覚えてる?」
「え? えぇっと……何だっけ?」
今日まで数えきれない程見た山崎の横顔に私は含み笑いで教えてあげる。
「ほら、私を喜ばせる五文字の言葉!」
そう。あのときはまだここまで親しくなれるなんて、ここまで一緒にいられるなんて思っていなかった。ただまた同じクラスになれたことに喜んで、また毎日山崎の顔を見られることに喜んで、ただそれだけに半ば満足していた。
けど、あれからいろんなことがあって、少なからず成長した今ならあのときした質問の答えが見つかるかもしれないって思った。
「あ! 思い出した。俺何も答えられなかったのにジュースくれたやつだ!」
「そ! もうこれで最後だし、最後ついでにあの勝負もう一回しない?」
「五文字で山田さんを喜ばす……いいよ。乗った!」
あの頃と変わらないいたずらな笑みを浮かべ山崎は真剣に指折りを始める。前は一日中考えていたけれど、今となってはもうそんなには待てない――。
目いっぱいに膨らんでいたのは私の心も同じだったのかもしれない。
だから――。
「山崎、大好きっ!」
「山田さん、大好きだ!」
冬を越えた蕾は大きく膨らんで、やがて満開の花びらを咲かせることだろう。
だって、私たちの春はまだ始まったばかりなんだから。
(山田さんは告らせたい! 完)




