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山田さんは告らせたい!   作者: 香蕉みるく
10/12

一月 初詣

オリジナル短編シリーズ


『山田さんは告らせたい!』の第十話です!


毎月1日に短時間でサクッと読めるお話をアップしていきます!


山田さんや山崎くんたちのどこにでもありそうなささやかな青春物語をお楽しみください!

 日が昇っても境内の空気は依然として冷気を孕んで澄み切っている。

 地元の小さな神社は昨晩から絶え間なく人の往来が続いているようで、端に並ぶ屋台では今も甘酒や焼いたするめの香ばしい香りに混じって活気の良い声が沸いている。

「今年も人がいっぱいだね、お姉ちゃん」

 しきりに届くメールに律義に返事を送りながら妹が嘆息気味に漏らす。

「うん。こればっかりはさすが元旦って感じだね」

 これだけ人がいたら知り合いの一人や二人に会ってもおかしくはなさそうだ。

「あ、山田さん! あけおめー」

「あけお――」

 そんなことを考えていたからか、ついつい反応してから咄嗟に口を押える。

 振り返れば、参拝を終えた列の中でまだ幼げな風貌の男の子たちが片手を挙げていた。

「あれ、みんなあけおめ! 今年もよろしくね!」

 そわそわする男の子たちに普段家では見せない余所行きの笑顔で妹は気さくに応える。

「じゃあ山田さん、また学校でねー」

「うん。後でまたメールするねー!」

 そんなやりとりをしながら男の子たちは少し嬉しそうに去って行った。

「今の子たちって同級生?」

「そうだよ。みんな同じクラス。――お姉ちゃん、さっきからキョロキョロしてるけど誰か探してるの?」

「えっ⁉ 私、キョロキョロしてた?」

「自覚ないの? 携帯越しでも気になるレベルだったけど」

 それはちょっと恥ずかしい。

 探してるつもりはなかったけれど、年末くらいから何かどこか落ち着かない悶々とした気持ちが続いているのは確かだ。

「まぁ冬休みだもんね……」

 ぽつりとこぼれたその言葉が自分に対しての言い訳だったのか、言い聞かせだったのかはついぞわからない。

「あれ? 山田―!」

 ふと、聞き馴れた声にハッと顔を上げれば馴染みの二人がこちらに向かって手を振っていた。

「カナ! それにタケルくんも! 久しぶり!」

「山田さんお久! でもってあけおめ!」

「うん! 二人も明けましておめでとう!」

 すでにお参りを済ませたのか、両手に食べかけのするめを握っているタケル君が何とも彼らしい。

「タケル君欲張りすぎでしょ!」

「でしょ? しかもこれ一回目じゃないんだよ」

「え、うそー」

「あれ? もしかして山田さんの妹?」

「はい! いつもお姉ちゃんがお世話になってます!」

「え、山田妹こんなに大きかった?」

「今年で中学三年生です!」

 瞬時に張り付けた余所行きの笑顔がより一層強く輝く。

「山田さんも美人だけど、妹ちゃんも負けず劣らずの美人さんだね! こりゃ山崎は新年早々良い物を見損ねたな」

 その点、褒められ慣れている妹は知らない人が見たらうっかり騙されてしまいそうな人懐こい笑みを浮かべて見せる。

「あ、ね、ねぇタケル君。その山崎って今日一緒じゃなかったの?」

『…………え?』

 私の言葉にカナとタケル君が素っ頓狂な疑問符を浮かべていた。

 互いに顔を見合わせると怪訝な表情をしたカナが、

「山崎、年末から熱をこじらせて寝たきりになってるんだよ? あんた知らなかったの⁉」

「う、うん」

「あちゃー。山崎俺たちにはメール送ってきてたのに肝心の山田さんに送ってないとかほんとあいつは……」

 タケル君なんか深い溜息と共に頭を抱えてしまっている。

 そう言えば年末と言えば……。

「私も二日ぐらい前に山崎からメールきてたよ! けど、内容が少し変だったんだよね」

「変って?」

「うん。ほら」

 私はポケットから取り出したスマートフォンを操作するとそのメールを開く。

 送り主は山崎だけど件名はなく、本文にも『元旦には』としか記されてない変なメール。

「確認しようと思ってメールも電話もしたんだけど返事なくて……。もしかしたら今日ここにきたら会えるかもって思ってたんだけど」

「あ、それでお姉ちゃんさっきからキョロキョロしてたんだね」

「きょ、キョロキョロなんてしてないよ! ちょっと人を探してただけで」

「打ってる途中で力尽きたんだな。山崎」

「私たちとの連絡も一昨日からぱったり途絶えてるし……。これはもう行くっきゃないね」

「え? 行くって……どこへ?」

 一瞬ニヤッと広角を上げた二人に私の直感が嫌な気配を感じとる。



「それで、結局押し切られるがままに来ちゃったけど……ここからどうするの?」

 友達と合流するからと訳知り顔の妹と別れ、二人に両脇を固められ連行されたのは神社からそれほど遠くない住宅街の一軒家だった。

 二階建ての母屋にちょっとした庭、ブロック塀には横広なポストと『山崎』と記された表札。

 初めてくるけど、間違いない。彼の家だ。

「車ないみたいだし、留守かもね」

「ほ、ほら! やっぱりお正月だし、病気なら急に押しかけたりしたら迷惑だよ!」

「ここぞとばかりに怖気づかないの。あんたこうでもしないと踏ん切りつかないでしょ?」

「う……。それは……」

 普段からカナにはいろいろと相談に乗ってもらってる。あのクリスマス以降の私の態度も行動もきっと思考までカナには筒抜けなんだろう。

「それに山田さん山崎とは別の進路にしたんだって? じゃあ尚更気合い入れないともう三か月もしないうちに卒業だよ」

「そうなんだけどさ……」

 三月になったら卒業。山崎ともバラバラになる。もちろんわかってはいる。わかってはいても、やっぱり……。

「怖い?」

「え? ……うん」

 ハッとして顔を上げると真剣な顔の親友。

 いつも私のことを考えてくれている親友。カナやタケル君にも随分と助けられてここまでこられたのもある。そんな二人ともあと少しで別々の道になってしまうんだ。

「やっぱりね、三年間好きだったから。ずっと好きで、ずっと一緒にいて、きっとこんな感じのがずっと続いていくんだろうなって思ってたから」

 進むことが怖い――。

 答えを知ることが怖い――。

 初恋が終わることが怖い――。

 

 けど――。


「やっぱりこのまま何もできずに終わることが一番怖いよね」

 一瞬、わずかだけどカナの口元が優しく緩んだ。

「さぁ山田、私たちがしてあげられるのはここまでだよ。ここから先は自分で行きな!」

 これまで散々苦楽を共にしてきた二人に背中を押され、ようやく初めて自分の翼で羽ばたく雛鳥のように私はそっと指を伸ばす。



「あ、あの、山田です。……山崎、君いますか?」


                                    ( 一月 完 )


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