6.最高EXPは65535
火を付けることが出来るならライターと同じだし、爆発するならガスのようなものだろう。水だって前世では大気や水素から作り出すのが可能だった。
人の怪我や病気を治す魔法も、薬やワクチン、外科手術で治るのも、結果としては同じではないか。
ファンタジー世界観に心躍らず、我ながら全く可愛くない、斜に構えた子供時代が頭を過ぎる。
そんな私が魔力だの、聖なる力を行使だのって、まるで笑い話だ。
無理なら無理でお役御免かという期待も叶わず、聖痕が身体に現れて以来、私の身体の中にもう一つ内臓器官が増えたように感じていた。
蛇口を開閉するような感覚で、聖女の力とおぼしきものを生み出すことが出来る。しかし、それはまだ色づいていない純粋な力なので、白、青、黄、赤に染めるようイメージする。
バランスよく生み出すことによって、大陸の気候は安定し、魔王の力を抑えることが出来る、らしい。
以上、前世知識と女官長の説明から抜粋。
聖女候補が借り受けた、本殿の傍にある聖堂の奥、中身が空洞の透明なガラス玉が、ある意味私のパートナーだ。
小さな教会ほどの広さの此処は、修行や自習で自由に使っていいと言われている。
「………………」
バスケットボール程の大きさのガラス玉に両の手をかざし、念じる。厨二なセリフは勘弁してください。私の生み出した聖なる力を受け取り、其れは淡く光を帯び始めた。
魔力の流れが可視化され、台風の目のように渦巻いている。
まだ、それだけだ。初日でまだ何も行動を起こしていないので無色透明だが、育成が進むほどに魔力が色づくそうだ。
ではシステムについて言及しよう。
『ファーグラントの聖女』にパラメーターは、ない。
正確に言えば、目に見えて数値化したものが存在しなかった。このガラス玉の魔力色で進行具合の確認という、大雑把なシステムは大変レトロゲームらしい。
いや、最大レベルは10、最高EXPは65535、くらいは欲しい。HPの最大値は255で。
ガラス玉が赤く染まったとしても(濃さは一応3段階あった)、二番目以降の力がどうなっているのかが判らない。
では自分の進行状況はどう確認したのか。
それは、1週間ごとの行動をメモにとりながらプレイすること。
行動と色の変化を見比べてつつも、能力の上がり幅はランダムによりムラがあるので、一回二回ではデータが取りきれない。周回の末、最終的には何回行動すれば色が変化するか、などの推測が出来るようになった。
そして四人の神官に習う『魔法』『剣技』『知識』『礼法』にも、もちろんパラメータ表示はない。
進行、成長具合は各神官方の評価で判断するしかないのだ。ふふふ、面倒くさかった。
さて、育成部分の方針としては、各々そこそこアップさせる、である。
アルメリアに負けるとしても、無様ではない程度に成長しておきたい。あんまりパラメータが低いと神官様方にちょっと冷たい目で見られるし。聖女候補として衣食住を提供されている以上、無駄飯食いの税金喰らいになるのも心苦しいし。
本音としては、ゲーマーとして手を抜きたくない。
文官に提出する一週間の予定票とは別に、分厚い帳面を用意して貰ったので、所得データや計画を書き綴る。四聖宮の詳細マップも作りたいし、細かい人物リストも必要か。気付いたことは全てメモにとらなければ。
──後の完成後に気付くのだが、調子に乗って出来上がったのは、他国に流出したら不味いレベルの機密ファイルであった。
初日は実際の育成が、ゲームのシステムとどれくらい差違があるかを確認するだけで終わった。
データ集めるのちょうたのしい。これで、自身の行動1ターンあたりのパラメータアップの目安もついた。
回廊の窓から差し込む夕日が白亜を染め、自室に戻る私の頭には蛍の光が流れている。
ゲームにおける1日1ターン制は「聖女候補が無理をしすぎない為」という理由で、1日の行動量を制限されている。神官様方も聖女候補にばかり構っていては仕事が滞るだろうし、妥当なところだろう。
「……ちょっと」
滞在している棟に戻る途中、私を呼び止めたのは、高笑いが似合いそうな我がライバルであった。
「なんでしょう。あ、こんにちは」
「えっ、あっ、こんにちは。……じゃなくて! まあっ、庶民は挨拶の仕方もわからないのねっ、カーテシーのひとつも出来ないで、──」
高飛車な態度も、さすが貴族のお嬢様、とてもサマになっている。まあ、こちらは反論する気もないほどのパーフェクト庶民、身の程は良くわかっております。
しかし、私に構うほど彼女は暇なのかというと、ぶっちゃけ、ゲームでの彼女はお邪魔キャラなのである。
一番好感度の高い神官様に指導を受けている時、他愛のない用件で部屋に乱入してきて、パラメータのアップを阻害する。ランダムなので、よく育成計画を狂わされたものだ。
それでも、同じ今代の聖女候補として、これから長い付き合いになるだろう。
「……って、聞いてるの!? アナタ!」
「? あ、聞いてませんでした」
「もーーーー! もう一回言いますから、ちゃんと聞きなさい! コホン。──神官様に恥ずかしくないのかしら! 補佐の勉強を始めたほうがよいのではなくてっ?」
「おおー」
ぜはぜはと、少し息切れをしているが、ゲーム内で顔を合わせた時に言い放つ、テンプレ台詞をちゃんと言い切った。思わず、パチパチと拍手をしてしまったではないか。
フィクションの世界でしか見れないような高慢ちきな振る舞いを、こうやって生で見れるというのは貴重なことだろう。
本当に見事だ、今のところ、ゲームでの姿と現世、一番キャラのイメージにズレが無いのは彼女かもしれない。
「……」
「…………」
「……もーっ!!」
私が感慨に浸っていると、アルメリアは怒ったような……いや、何か戸惑ったような態度で、踵を返し歩き去っていった。何か反応をしなければいけなかったのか、ああ、彼女と友好関係を結ぶのはいつの日か。
ごめんなさい、コミュ障はなんと言えばいいのか分からなかったのです。あ、ゲームの主人公のセリフを言えばよかったのか。
「あ、あの子、緊張感なさすぎない……」
何かをブツブツと呟きながらも、背筋を伸ばして去ってゆくアルメリアの後ろ姿は凜々しくも、頼もしく感じた。
──ええ、貴方が世界を担う次世代の聖女なのです、ファイト。




