第百二十三話 「負い目」
お久し振りですが短めです(´・ω・`)すみません
「ん……」
「よぉ起きたか。具合はどうだ?」
本が塔の様に積み上がる仄暗い部屋の中で、銀髪の彼は目を開く。
静まり返った部屋の中で響く音は、呼吸の音と掛布団の擦れる音。
そして枕元で人形の様に腰掛けていた妖精の鼻息が、その中に混じる。
「いくらか落ち着いたな……。
とは言え、節々に違和感が残っているな」
ふぅっと小さく吐息を零し、ルシードは身を起こす。
動かす四肢に違和感を覚える様で、指を何度か動かして見せる。
「まぁそりゃああんだけ無理すりゃな。
修復したつっても、魔力と肉体にゃまだ隙間があっし……。
魔王体の応用で修復してるつっても人間と勝手がちげぇし、馴染むまでは時間かかると思うぜ。
魔力を暴走させた影響で剥離現象が酷かったしな、その辺はしゃーねぇよ」
「そうか」
ぶっきらぼうに向けられた説明を前にルシードは短く返す。
現状、ルシードは魔力を暴走させた影響により、自室で長らく安静にしている。
そしてクロカの指示の元でトシキが彼の治療に当たっており、今日になってやっとルシードの容体が落ち着いた。
「しかしおかしなものだな」
「何だよ急に」
「いや、時詠と言い、お前と言い……私は本来ならお前達を忌んでいた筈だと言うのに」
その言葉にトシキは言わんとした事を察し、いくらか目を細める。
「まぁ……何の因果か、敵同士だったってのに今じゃこんなだしな」
「……そうだな」
互いにそう答え、2人は黙った。
2人は宿敵であり、憎しみに至る存在そのものだった。
だが、悠と言った人物によってそれらは変わった。
互いに未だ許容出来ない感情はありつつも、以前のような憎しみは薄れている。
しかし受け入れる事を許せない感情も確かにあり、慣れぬ感情を前に首を振る。
「とは言え、体が弱ってる状況の私が口にするものでもないな。
すまない、忘れてくれ」
と、ルシードは小さくそう返し、苦笑を見せながら首を振る。
悠と知り合う前の彼であったなら、恐らくこのような言葉を自ら口にしなかったであろう。
そしてルシードがそう濁した意味を理解したトシキは、少々気まずそうに頬を掻く。
普段、感情任せに言葉を口にする彼に取って、こう言ったやり取りは少々苦手な節があるようだ。
「……まぁ、その辺の話はお互いに落ち着いたらっつー事で」
「ああ、そうだな」
「んじゃま、俺は戻るわ。
ああそうだ。
傷は塞がってるだろうし、そろそろ身体動かした方が良いぜ」
そう言い残し、トシキは小さな羽を羽ばたかせてツバメのように颯爽と姿を消す。
しんと静まり返る部屋の中には遅れてそよ風が起き、それに煽られた書類が何枚かヒラヒラと床に落ちる。
ルシードは慌ただしい奴だと思いつつ、気付けばまた笑みが浮かぶ。
……前ならばこのように穏やかでは居られなかっただろう。
そんな事を考えながら彼はベッドから足を下ろし、久し振りに背を伸ばす。
「確かにアイツの言う通りだな……少し陽にでも当たるとするか」
肺の中の淀みを入れ替える為、大きく息をしてなまった体を軽く振った。
そして軋む体を動かし、いつものクロークへ手を伸ばすとそれを羽織る。
数日振りだと言うのに馴れしたんだクロークは気のせいか重く、身体の訛りを痛感させる。
そして彼はそれを振り払うように肩を動かすと、自室を後にした。
「……しかし久し振りの日光も結構来るものだな」
そんな事を呟きながら彼は日差しを前に睨むように目を細める。
とは言え、乱雑な銀髪が日を邪魔してくれるお陰で多少は日差しも和らいでいる。
だが連日、もぐらのように暗所で過ごしていたルシードには、晴天の日差しはナカナカにキツイ。
そんな彼は物陰を渡り歩くかのように壁に沿って廊下を歩き、なるべく太陽を見ないようにしていた。
「ふっ、これではまるでコソ泥のようだな」
自分の行動をふと冷静に省みては一人笑う。
数百年生きた魔族とあろうものが何と情けない、とルシードは丸まっていた背を伸ばした。
「ん? あれはレオナ様専属の侍女か……?」
おもむろに上げた視線に映る人影を前に、ルシードは首を傾げる。
見かける事は別段、珍しい話ではない、が……庭園の方をじっと見つめ佇む姿に疑問を抱く。
そしてよく見れば他にも数人の人だかり。
何事か、と思うのも束の間、ギャリンッと甲高い金属音が彼の耳にその理由を教えてくれる。
「あらあら、あなたやるじゃない?
王国騎士団でもそこまで強いのは数名しか知らない……わ!」
「左様ですか。
貴女様もそれなりのお手並みですね。
まぁ主様の足元にも及びませんが」
「……言ってくれるわね!」
再び一合、二合と剣が交われば甲高い音が鳴り響く。
その音に野次馬よりワッと声が上がるが、今の2人には全く聞こえていない。
オレンジ色の少女が振るう剣は、その髪の色と同じ激しさを見せ、火花を散らす。
そして鬼気迫る苛烈な剣撃をいなす彼女は、銀髪を揺らしながら舞うように避け、切っ先を煌めかせる。
朱と銀が入り乱れるその戦いはまるで炎と氷を思わせ、目にする者を魅入らせる。
「なるほど、これは人だかりが出来るのも無理もない」
ルシードはそう感心しては視線を戻す。
勝敗が気になりはするものの、それよりも気にかかる事が出来てしまったのだ。
彼は周りが夢中になっている間を抜け、別の視線を向けている彼女の元へ。
「……どうした。今日は非番なのか?」
「っ!?」
ルシードの声に彼女はビクリと身を震わせ、柔らかく微笑む彼を見て胸に手を宛てる。
「ルシード様……はい、今日は休みです」
「そうか。
久し振りに部屋から出て、人だかりに足を運んでみれば面白い事をしていて驚いたよ。
お前も見入っていたと言った所か」
「は、はい」
いくらか話題を振るも、畏まった返答ですぐに会話が終わる。
しかしルシードはそれに対してさほど気にした様子は無く、何か確かめるようでもあった。
そして野次馬が騒ぐ中、互いに沈黙する。
それは傍から見れば、庭で行われる少女2人の戦いに夢中のように思える。
しかし、2人の視線はそことはまた別の場所を、者を、見ていた。
「にしてもユウも召喚を行ってこの様な事をするとは、いくらか落ち着いたようだな。
暫く顔も見れず色々心配だったが、安心した」
ルシードはそう語り、彼女が視線を向けていた先の悠を見やる。
トシキ伝手ではあったが、一件以後の悠が気がかりだっただけに彼は安堵を覚える。
その言葉に彼女は目を細めて、ただ黙る。
ルシードはその表情を前にいくらか瞑目し、
「とは言え、私も大迫轟の節で役に立たなかった手前、話かけたいのだが勇気がいるな……ううむ」
彼はワザとらしくそう唸って見せては、困り顔を浮かべる。
それは自分が悠に対し、負い目があると言った素振りで彼女はそんな彼に少しばかり驚く。
仮にもガーディアンナイツの一員として、魔王と戦った者がその様な物を抱える事もあるのか、と。
「もし良かったら付いて来てくれないか、リアよ。
一人だと難しいが、アイツと馴染みのお前が一緒だと心強い」
彼はそう口にすると少女達の戦いにも目もくれず、悠だけを眺めていたリアにそう向けた。




